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世界に先駆けて顔の「たるみ」研究を切り開いた資生堂が、従来の価値観を覆す発想により、たるみの根源的な要因を解明しました。
国際医療福祉大学 医学部形成外科学 主任教授 松﨑恭一先生と、自治医科大学、生理学研究所との共同研究により、顔の肌には、特徴的なリング状のコラーゲン構造「リングコラーゲン(TM)」が存在し、これが肌に張力を生み出し、たるみの無い顔形状を維持することを発見しました。
※関連プレスリリース
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000004194
※参考:BEAUTY TECHNOLOGY LAB 資生堂のたるみ研究テクノロジー
https://corp.shiseido.com/beautytechnologylab/jp/sagging/
これまで、重力で下がる肌を引き留める仕組みを解き明かしてきましたが、今回は肌が下がる前の段階、つまり、たるみが起きる根源的な要因と、それを抑える「張力」の仕組みを明らかにしたことが特長です。
この成果は、「肌の中で発生する力」を解析し、これを目の前で動くデジタル皮膚として空間上に映し出す新技術「デジタルスキンリアリティ(TM)」により実現しました。
この新技術デジタルスキンリアリティ(TM)を開発し、研究結果を導きだしたのは、資生堂 エグゼクティブフェローの江連智暢。今回の成果をはじめ、資生堂と共に長きにわたり研究開発に向き合ってきた姿勢や想いに迫りました。
(1)「たるみ」の仕組みと要因の研究
−今回はどのような研究をされたのですか。
江連 重力で皮膚が下がる「たるみ」は、加齢とともに大きな悩みとなります。これまで私達は、たるみ研究の基盤を創るところから始め、重力で皮膚がたるむ原因を明らかにしてきました。今回、さらにたるみの根源的な要因を明らかにし、その対応手段の開発に取り組みました。
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−たるみの根源的な要因とは、どういうことでしょうか。
江連 若齢者の肌は、ピンと張っています。この肌を張る力、すなわち「張力」が加齢で失われると、肌はゆるんできます。そこに重力が加わると、肌が下がり、たるみが発生する、この一連の流れを明らかにしました。つまり、たるみの根源的な要因は「張力」が失われることと考えられます。
−その「張力」はどのように生み出されるのですか
江連 顔の肌には、特徴的なコラーゲンの構造があり、それが張力を生み出していました。このコラーゲンの構造は、うぶ毛の周囲を取り囲むようにリング状に存在しています。そしてリングが互いに引き合うことで、顔の肌全体に張力が生み出されていました。そこでこの構造を「リングコラーゲン(TM)」と呼ぶこととしました。さらに研究を続け、張力が失われる原因を明らかにし、それに対応するための手段の開発に繋げました。
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加齢に伴うリングコラーゲン(TM)の変化(顔の皮膚の水平断面像。若齢者で認められる明確なリングコラーゲン(TM)形状〈赤丸〉が、高齢者の皮膚では確認されなかった。)
−張力を解き明かした今回の研究は、大きなインパクトを与えたと聞きました。化粧品技術の世界大会「国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)ロンドン大会」で行った基調講演では、発表が終わった後、拍手が鳴り止まず、別会場で開かれていた講演が中断するほどだったそうですね。
たるみの根源的な対応への道筋を開いたことが評価されたと伺いました。
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「国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)ロンドン大会」で基調講演をする様子
(2)ビジョンを描き、実現する
−「たるみは美容整形の領域」とされていた時代に、化粧品の可能性を信じて研究をスタートされました。どのようなきっかけがあったのでしょうか。
江連 私が入社した頃の化粧品は、目尻の小ジワなど、「皮膚の表面」の変化を主な対象にしていました。ただ、実際に多くの方が悩まれていることは、加齢とともに頬が下がるといった「顔の形」の変化です。しかし、その様な変化は、化粧品の対象外だとされていました。皮膚に携わる化粧品の研究者として、このような悩みにも、なにか貢献できないかと考えるようになっていきました。
−そこから「たるみ」という課題に絞り込んでいきます。
江連 顔の形は加齢で多様に変化します。研究を進める中で、その多様な変化に「たるみ」が共通して関係することがわかってきました。そのため、たるみに対応することができれば、顔の多様な変化に対応することができると考え、たるみを研究することにしました。
−長い間、一貫して「たるみ」という課題に向き合ってこられました。長期間の研究を行うためには、何が大切ですか。
たるみに関する研究は十分に行われていなかったため、たるみの定義や評価法を創るなど、研究基盤を確立するところから始める必要がありました。また新しい領域のため、取り組むべきことは沢山あり、そのためのプランも無数に考えられました。そのため、どのような順で研究を進めることが、顔の形の変化に悩む多くの方にとって有用か、その点を基軸とした長期的なビジョンを描き、研究を進めてきました。
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(3)見えないものを「見える」に変える「デジタルスキンリアリティ(TM)」
− 一連の研究の中では、多くの独自技術の開発もされていますね。
江連 たるみが起きる原因を解明するためには、「実際にたるんだ皮膚の中では何が起きているのか」を見ることが重要です。そのための十分な手段が無いことから、見る(可視化)するための技術を創る必要がありました。
皮膚科学は数百年の歴史の中で顕微鏡を使い、皮膚の断面を観察してきました。しかし、たるみのような立体的な形の変化を捉えるためには、断面のような2次元(2D)での観察では限界があると考えました。そこで、皮膚の中を3次元で立体的に可視化する技術「デジタル3Dスキン(TM)」を開発しました。
さらに研究を進めると、皮膚が重力で「下がる」といった、皮膚の動きまで知る必要が出てきました。そのため動きの要素も加えた4次元的な可視化技術として、「4Dデジタルスキン(TM)」を開発しました。
このように技術を進化させることで、たるみの様々な要因を明らかにすることができたと思います。
−そこからさらに、今回開発した「デジタルスキンリアリティ(TM)」は、どのような点が進化をしたのでしょうか。
江連 これまでは4Dとして、皮膚の動きを見ていました。しかし、見ていたものは皮膚内部の構造とその動き、つまり「形のあるもの」です。今回の技術で、張力のような、皮膚に発生する「力」、つまり「形のないもの」まで見られるようになったこと、それが大きな進化かと思います。
皮膚の中に、高密度で観察するための点を設定して、皮膚が変形や回復する際に、その全ての点がどのように動いたかを追跡することで、力を可視化することが可能となりました。
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デジタルスキンリアリティ(TM)のイメージ
−「デジタルスキンリアリティ(TM)」ではどのような技術が使われているのですか。
江連 裸眼立体視と高速データ処理システムを組み合わせています。裸眼立体視は空間上に、立体的に映像を映し出す技術です。ただし、実際に皮膚の動きまでリアルタイムで捉えようとすると、扱うデータの量は膨大になります。肌の内部に置いた無数の点が、瞬間ごとにどう変化したのかを、すべて同時に計算し続ける必要があるためです。これまでの処理システムでは到底追いつきませんでした。
そこで、裸眼立体視に、高速データ処理システムを組み合わせることで、この技術を開発しました。
−空間上に再現することに、こだわった理由は何でしょうか。
江連 皮膚の内部は非常に複雑な構造をしています。汗を出す汗腺、皮脂を分泌する皮脂腺、毛根や血管など、様々な組織が入り組んで存在しており、そこでは多様な力が同時に発生しています。これを平面のモニター上でマウスを使いながら確認しようとしても、到底把握しきれませんでした。
今回の特長は、解析結果がモニター上ではなく、空間上で見られることです。これにより様々な角度から力の変化を観察でき、複雑な肌の内部で変化する力を、直感的にも理解することができるようになりました。
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(4)資生堂とご自身の重なる想いとは
− 一貫して資生堂で研究をされています。長年同じ企業で働いてこられた要因を、どのように考えられますか。
江連 自分と会社のビジョンが一致するためではないか、と思います。企業と研究者の関係性は、ずいぶん変わってきたと思います。各研究者にも自身のビジョンがあり、それを共有できる企業で研究活動を行う時代となってきたように感じます。
−どのような点でビジョンが合っていると感じますか。
江連 「科学技術を通して社会に貢献したい」という想いです。化粧品は効果に加え、使いやすさや、心地よさ、高揚感や充足感等、様々な要素を高次元で提供する製品です。そのため、多様な分野で最先端の研究開発を行う必要があります。そのような取り組みを行う多くの研究者と、想いを共有して研究を行える場があることは、大変貴重なことと感じています。
−実際に研究成果は社会への貢献に繋がっていると思います。生活者の方々の反響を通して、喜びややりがいは感じられますか。
江連 自身が伝えたことへの責任をいっそう感じる機会になっています。ケアについての感想をいただくことがあります。そのような瞬間に、次はもっと良いものを作らなければいけないと感じます。スキンケア製品は、肌に関する悩みに対応する製品でもあります。そのため、研究者として出すぎることなく、必要とされた時にはその期待に応えられる存在でありたいと考えています。
−今後、ご自身の歩みの中で目指す方向性はありますか。
江連 これまでの活動で、化粧品の対象を「肌表面の悩み」から「顔の形の変化」にまで拡大し、グローバルレベルで、化粧品業界の新たな潮流を生み出すことができました。現在では、世界各地からの要望に応え、企業の枠組みを超えて、たるみ研究の啓発的な活動を行うことで、この流れを加速しています。
また最近では、技術系企業のフェローの方々と「友技の会(フェロー会)」を立ち上げています。そこでは、産業界として科学技術をどのように発展させていくべきなのか、等の取り組みを行っています。化粧品の研究開発を通して、世界により多くの貢献ができればと考えています。
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