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プレスリリース配信元:高知工科大学

- 排水中の「硝酸」を浄化し、次世代資源「アンモニア」を常温・常圧で効率回収-

 高知工科大学のユアン チュンユさん(大学院博士後期課程3年)、伊藤 亮孝教授(理工学群)、
藤田 武志教授(理工学群)と、名古屋大学の大戸 達彦准教授(工学部)らの研究グループは、銅とコバルトからなる自己適応型触媒*1を設計し(図1-(a))、水質汚染物質である硝酸イオンを電気化学的にアンモニアに変換する硝酸電解還元反応*2において、きわめて効率的かつ安定的なアンモニア合成に成功しました。
 電極触媒は一般に、反応中における構造の劣化や変化が課題とされていましたが、研究グループは高度な測定技術と理論計算を組み合わせることで、本触媒が自ら活性の高い状態へと進化する「自己適応型再構築」を起こす詳細な過程を世界で初めて解明しました。
 今回開発した技術は、農業排水や工業排水に含まれる有害な硝酸を除去し、脱炭素社会の鍵を握る資源であるグリーンアンモニア*3を回収できる「一石二鳥」のクリーン技術として、応用が期待されます。
 本研究成果は、2026年7月13日、材料科学や物理学、医学など、分野横断的な研究を扱う国際学術誌Advanced Scienceに掲載されました。  

【研究成果のポイント】

- 反応中、自ら最も活性が高い構造(水酸基を多く含む酸化Cu活性種)へと進化する「自己適応型」
新触媒を開発
- 高効率アンモニア合成を実現させる「銅」と「コバルト」の連携メカニズム(水素スピルオーバー*4)を解明
- 「水質浄化」(硝酸除去)と「資源回収」(アンモニア合成)を常温・常圧で同時に達成
- 常温・常圧で触媒を製造できるため大量生産が容易であり、二酸化炭素還元や水電解など、他分野への応用も期待


図1 (a)開発した銅コバルト酸化物触媒の電子顕微鏡像(低倍)/(b) 銅とコバルトからなる異相界面構造の拡大図と元素マッピング/酸化銅(CuO)は結晶相であるが、酸化コバルト(CoOX)はアモルファス構造*5になっている。

研究の背景

 アンモニアは肥料の原料であるとともに、脱炭素社会を支える水素キャリアとしても注目されています。しかし現在の工業的製造法であるハーバー・ボッシュ法は高温・高圧条件を必要とし、多量のエネルギー消費と二酸化炭素排出を伴うことが課題です。これに対し、近年では、常温・常圧で、再生可能エネルギーを利用してアンモニアを合成する硝酸電解還元反応(NO₃RR)*2が世界的な注目を集めています。さらにこの反応は、地下水や河川の水質汚染物質である硝酸を原料として利用できるため、「環境の浄化(硝酸除去)」と「資源の創出(アンモニア合成)」を同時に達成できる技術として期待されています。しかし硝酸からアンモニアへの変換には、多段階での複雑な電子と水素の受け渡しが必要であるため、「反応速度」と「選択性」を同時に高めた効率的な触媒の開発が課題となっていました。

【研究内容】

 研究グループは、独自の常温・常圧化学合成法を用いて、銅(Cu)とコバルト(Co)からなるヘテロ構造*6酸化物触媒を作製しました。複数の金属元素を組み合わせた触媒を比較した結果、CuとCoを最適な割合で組み合わせた触媒が最も高いアンモニア生成性能を示しました。さらに、本研究では、この触媒が反応中に自ら構造を変化させ、より活性の高い状態へと進化する「自己適応型再構築(Adaptive Reconstruction)」を起こしていることを明らかにしました。電極触媒では反応中に構造が変化することは知られていましたが、どのような構造が実際の活性状態なのか、その形成過程は十分に解明されていませんでした。
 そこで研究グループは、電子顕微鏡(TEM)、X線光電子分光(XPS)、ラマン分光、赤外分光、電子スピン共鳴(EPR)測定などのその場・準その場解析、および第一原理計算(DFT)*7 を組み合わせ、反応中の触媒の構造を詳細に解析しました。
 その結果、反応開始直後に生成した金属銅がそのまま活性種となるのではなく、反応の進行とともに表面が再び酸化・水酸化され、水酸基を多く含む酸化Cu活性種(Cu-OH)が形成されることを明らかにしました。このCu-OH活性種は硝酸イオンを強く吸着し、反応中間体を安定化することで、アンモニア生成を効率よく進める役割を果たしていました。
 一方、コバルト酸化物(CoOX)は、水分子を分解して反応に必要な活性水素(*H)を効率よく生成し、その活性水素がCuとの界面を介して移動(スピルオーバー*4)することで、窒素中間体の水素化反応を大きく促進することも分かりました。
 以上のことから、「Cu活性点による硝酸の吸着・脱酸素反応」と、「Co酸化物による活性水素供給」が協調的に働くことで、高いアンモニア選択性と生成速度が実現されていることが明らかとなりました。
 最適化した触媒は、−0.2 V(RHE:可逆水素電極基準)の低い印加電圧でアンモニア生成速度54.68 mg h⁻¹ mgcat⁻¹、ファラデー効率*8 95.4%を達成し、既報の銅系触媒として最高レベルの性能を示しました。また、フローセルを用いた試験では60時間以上の連続運転後も高い性能を維持し(図2)、140ppmの硝酸を含む模擬排水中の硝酸濃度を世界保健機関(WHO)の飲料水基準値(50ppm)を大幅に下回るレベル、7.45ppmまで低減できることも確認しました。
 本研究は、触媒が反応中に自ら最適な構造へ進化するという新しい触媒設計指針を示したものであり、硝酸を含む排水の浄化とグリーンアンモニア製造を同時に実現する次世代電解技術への応用が期待されます。

図2 フローセルをつかった連続試験。60時間以上の連続運転でも高い性能を維持している。

【実用化の可能性と今後の展望】

 本研究で開発した自己適応型Cu-Co触媒は、硝酸を有価物であるアンモニアへ高効率に変換できることから、排水処理と資源回収を同時に実現する新しい環境技術として期待されます。農業排水や工業排水などに含まれる硝酸を除去しながら、有用なアンモニアとして再利用できるため、環境負荷の低減と資源循環の両立に貢献することが期待されます。将来的には、下水処理施設や工場排水処理設備において、硝酸除去とアンモニア回収を同時に行う循環型プロセスへの応用が期待されます。
 また、本触媒は常温・常圧で簡便に合成できることから、大面積電極や大量生産への展開が容易であり、実用化に向けた優れた製造性も備えています。さらに、反応中に触媒自らが最適な活性状態へと変化する「自己適応型再構築」という新しい設計概念は、硝酸還元反応だけでなく、二酸化炭素還元、水電解、水素製造など幅広い電気化学反応への応用も期待されます。
 今後は、実際の排水を用いた実証試験や長期間連続運転における耐久性評価を進めるとともに、電解セルの大型化や再生可能エネルギーと組み合わせたアンモニア製造システムへの展開をめざします。

【用語解説】

*1)自己適応型触媒(Adaptive catalyst)
反応条件に応じて、自ら表面構造や化学状態を変化させ、最も活性の高い状態へ変化する触媒。本研究では、銅表面が水酸基を含む酸化状態へ動的に再構築されることで、硝酸からアンモニアへの変換性能が大きく向上することを明らかにした。

*2)硝酸電解還元反応(NO₃RR: Nitrate Reduction Reaction)
電気エネルギーを利用して硝酸イオン(NO₃⁻)をアンモニアなどへ還元する反応。常温・常圧で反応が進行し、水質汚染物質である硝酸の除去と、有用なアンモニアの製造を同時に実現できることから、環境浄化とグリーンアンモニア製造を両立する次世代技術として注目されている。

*3)グリーンアンモニア
再生可能エネルギー由来の電力を利用して製造される、CO2排出量の少ないアンモニア。次世代エネルギー媒体として期待されている。

*4)スピルオーバー
隣接する別の材料表面へ移動する現象。本研究ではコバルト酸化物で生成した活性水素が銅活性点へ供給され、アンモニア生成を促進している。

*5)アモルファス構造
原子が規則正しく整列した「結晶」とは異なり、原子がランダムで不規則に並んだ状態のこと。ガラスやゴムなどが代表例。規則的な格子を持たない不規則な構造ゆえに、化学反応の起点となる「活性サイト(反応の隙間や未結合の手)」が表面に多く露出するため、結晶構造に比べて化学的な反応性や触媒活性が非常に高くなりやすいという特徴がある。本触媒では、酸化コバルトがこの構造をとることで、高い水分解能(活性水素の供給力)を発揮している。

*6)ヘテロ構造
異なる材料や結晶構造が接して形成される界面構造。本研究では銅酸化物とコバルト酸化物の界面が高い触媒活性の発現に重要な役割を果たしている。

*7)第一原理計算
経験的パラメータを使わずに構造と電子状態を計算する手法。本研究では反応中間体の触媒表面への吸着自由エネルギーを第一原理計算で求め、反応のエネルギー障壁と律速段階を評価した。

*8)ファラデー効率
投入した電気エネルギーが目的生成物の生成にどの程度利用されたかを示す指標。本研究では95.4%という高い効率を達成した。

【研究資金】

 本研究は、東北大学金属材料研究所新素材共同研究開発センター共同研究(Proposal No. 202512-CRKEQ-0012)とPSI (Peace & Science Innovation Ecosystem) GAP ファンド (PSI2025_S1C52)の一環で行われました。

【論文情報】

- タイトル:Adaptive Cu Reconstruction in Heterostructure Drives High-Rate Nitrate-to-Ammonia Conversion
- 著者:Chunyu Yuan, Saikat Bolar, Yongzheng Zhang, Akitaka Ito, Tatsuhiko Ohto and Takeshi Fujita
- 掲載誌:Advanced Science
- 公開日:2026年7月13日

DOI10.1002/advs.76573

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