クリエイター・インサイド
令和の『学研の学習』をつくりだす編集部
Gakkenが生み出す、数々の個性的で魅力的な商品・サービス。その背景にあるのはクリエイターたちの情熱です。(株)Gakken公式ブログでは、ヒットメーカーたちのモノづくりに挑む姿を「クリエイター・インサイド」として紹介しています。
今回は、16年ぶりに復刊する『学研の学習』の第一弾『学研の学習 はにわの大国宝展』を手がけた編集部に取材。国宝「埴輪 挂甲の武人」を組み立て、勾玉を磨き、自分だけの国宝展を開く――。令和の子どもたちに向けた“体験する学び”は、どのように生まれたのか。その舞台裏をうかがいました。
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16年ぶりに復刊した『学研の学習』。その第一弾のテーマに選ばれたのは、「歴史」だった。懐かしの学習誌が帰ってきたというと、大人世代に向けた復刻企画のようにも思える。けれど、編集部が見ていたのは、今を生きる子どもたちだ。
国宝「埴輪 挂甲の武人」を自分の手で組み立てて復元する。勾玉を磨く。はにわを観察し、測る。
そして最後は、作品解説パネルや立て看板を並べ、自分だけの「大国宝展」を開く。
歴史を知識として覚える前に、手で触れ、目で見て、想像し、誰かに伝える。そんな体験を通して、子どもたちの中に「好き」や「もっと知りたい」という芽が育まれる。
1946年の創刊から2010年の休刊まで60年超続いた『学研の学習』復刊で、「歴史を好きになる体験」はどのように作られたのか。編集部が復刊に込めた思いや、制作の舞台裏を聞いた。
◆「歴史を好きになる入り口」をどう作るか
世の中を丸ごと読み解く、令和の『学研の学習』
かつて『学研の学習』を読んでいた世代にとって、その名前は毎月届く教材を開くときの高揚感や、ふろくを組み立てる時間と結びついているかもしれない。
しかし、今回の復刊にあたり、編集部が目指したのは、懐かしさの再現ではなかった。
吉野「『学研の学習』は、総合学習誌というつもりで作っています。教科やジャンルを超えて、たくさんの学びを子どもたちに届けたいと思っています」
編集部では改めて、先に復刊した『科学』と『学習』の違いを考えた。
吉野「『科学』が身の回りの自然を対象にするものだとすれば、『学習』は人が積み上げてきた社会や世の中を読み解くものだと定義しました」
令和の『学習』が目指したのは、教科ごとの知識を並べるのではなく、一つのテーマから、世の中を立体的に見つめられる商品にすることだった。
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その第一弾として選ばれたテーマが「歴史」だ。もちろん、目指したのは歴史の知識を網羅的に伝えることではない。
吉野「まずは初めて歴史に触れる子に、興味を持ってもらう、歴史を好きになる入り口になるようなキットを作りたいと思いました」
今回の商品を、編集部では「つくって学べる歴史のスターターキット」と表現している。読むだけではなく、手を動かして体験するキットとして届けることに、『学研の学習』らしさがある。
吉野「以前の学習から受け継いだのは、子どもたちが手を動かして物を作ったり、組み立てたりするなどのキットがついて、体験する時間をちゃんと提供できるものであること。それを変わらない価値として届けたいと思っています」
かつての『学習』にもあった「手を動かして学ぶ」楽しさを、今の子どもたちに向けてどう広げるか。そこから『はにわの大国宝展』づくりが始まっていった。
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◆なぜ、復刊第一弾は「はにわ」だったのか
見て、想像して、昔と今がつながる面白さ
では、なぜ復刊第一弾のキットが「はにわ」だったのか。
吉野「歴史を学ぶのは小学校6年生からなんです。この商品は6歳からを対象にしているので、初めて歴史に触れる子どもたちにとって最適な教材は何かを考えました」
戦国時代や幕末のような、歴史もので人気のテーマは、ある程度の知識があってこそ深く味わえるものである。一方で、はにわは、前知識がなくても「見てわかる」面白さがある。
顔がある。服を着ている。家がある。動物がいる。装飾品を身につけている人もいる。
年号や人物名を知らなくても、「これは何だろう」「この人は何をしているんだろう」などと想像できる。
本誌や展示素材に入れるはにわを選ぶときにも、編集部が大切にしたのは、子どもが見たときに「何を感じられるか」だった。
甲原「国宝のものはもちろん、人のはにわ、家や物のはにわ、動物のはにわなど、さまざまな種類のはにわを選びました。子どもたちが見たときに、どんな秘密が隠されているのかなと楽しくなるチョイスをしていきました」
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古墳時代は、文字資料が多く残っている時代ではない。だからこそ、出土した遺物や遺跡を手がかりに、当時の人びとの暮らしを想像していく。そこに、はにわが歴史の入口になる理由がある。
たとえば、犬のはにわに首輪がついている。そこから見えてくるのは、古墳時代の人びとの暮らしと、今の暮らしとの意外な近さだ。
吉野「犬が首輪をしていて、そこに鈴がついている。昔の人も犬と仲が良かったんだ、一緒に暮らしていたんだと思ったときに、子どもたちの頭の中で今と古墳時代が一瞬でつながるような気がします」
遠い歴史が、急に身近になる。まだ歴史を習っていない子どもでも、見て、感じて、想像できる。その感覚こそ、今回の復刊号で大切にしている入口だった。
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◆小さな国宝が家にやってくる
研究用の3Dデータから生まれた「作って学ぶ」キット
今回の『学研の学習 はにわの大国宝展』の中心にあるのが、国宝「埴輪 挂甲の武人」を組み立てるキットだ。
箱を開けると、ばらばらのパーツが入っていて、子どもたちは、それを自分の手で組み立てていく。パーツを合わせ、形を確かめ、少しずつ立体として立ち上がっていく過程そのものが体験になる。
このキットで伊藤が特にこだわったのは、「本物に近づける」ことだった。
伊藤「一番のこだわりは、キットの再現度です。本物の国宝を計測した研究用の3Dデータをもとに、1/6スケールで本物そっくりに再現しています」
本物らしさは、形だけではない。手に持ったときの質感や重みにもこだわった。
伊藤「たとえば、プラスチックで作ったら、もっと簡単にできるんです。でも、石の粉を含んだ素材を使うことによって、素焼きのような、しっかりとした重みと、少しざらっとした手触りにしています」
さらに、パーツの分かれ方にも意味がある。今回のキットには、出土した遺物を復元するような感覚も重ねられている。
伊藤「はにわは完成品ではなく、パーツに分かれて入っています。そのパーツを、断面を見ながら合わせていく。ただ体験ができればいいだけではなく、考古学研究者と同じように、本物を復元している感覚を楽しめるようにしました」
自分の手で組み立てることで、はにわは遠い博物館の展示物ではなくなる。家の中で眺められ、じっくり観察できるものになる。
伊藤「小さな国宝が自分のお家にやってきたのを感じられるように作っています」
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パッケージにも、その考えは反映されている。箱を見た瞬間に、国宝を作る面白さと、自分だけの国宝展を開く広がりをどう伝えるか。そこにも試行錯誤があった。
伊藤「単なるフィギュアには見えないよう気をつけました。組み立てたあとに、国宝展で展示するという広がりがある。そういう体験ができるものだということを、限られたパッケージの中でどう見せるかを考えました」
また、パッケージに描かれた門のデザインも、重要な要素だ。
門をくぐるように、新しい世界へ入っていく。そのイメージは、今回の商品そのものを象徴しているという。
小さな国宝が家にやってくる。そんな驚きとわくわく感を、キットとパッケージの両方から形にしていった。
◆作って終わりにしない
磨く、測る、展示する。好きや気づきを伝える体験へ
国宝「埴輪 挂甲の武人」を組み立て、勾玉を磨く。それだけでも、子どもたちにとっては十分に特別な体験だろう。
けれど、『学研の学習 はにわの大国宝展』は、そこで終わらない。
本誌の後半には、作品解説パネルや立て看板、勾玉台、背景パネルなどの展示素材が用意されている。組み立てたはにわや磨いた勾玉を並べ、自分の手で「大国宝展」を開くことができるのだ。
蓑輪「作って終わりにしたくなかった、というのがあります」
その思いは、勾玉の体験にも込められている。
四角い天然石「滑石」を自分の手で削り、磨いていく。まずは手を動かすことに夢中になり、そのあとに本誌でその意味を知る。その順番が、知識の入り方を変えていく。
蓑輪「夢中になって勾玉を磨いてから、本誌で深く学び、こういう意味だったんだと知る。さらに、展示して自分が気づいたことを、周りの人に発表することによって、自分の気づきや好きを発信できる。それをすごいねと褒めてもらえると、新たな自信につながっていくと思うんです」
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本誌には、はにわを測る『考古学者の測るお仕事』という特集もある。考古学者の仕事に触れながら、キットの「挂甲の武人」を実際に測ってみるワークだ。
蓑輪「考古学者や研究者の仕事で一番大事なのが、観察する、測るということだとわかり、そこを先生方に深掘りしてうかがいました」
はにわを測ることは、単に数値を出すことではない。測ろうとするからこそ、目が細部に向かう。「見ること」と「観察すること」は違う。その違いに気づくところに、探究の面白さがある。
そして、学んだことは「展示する」体験へとつながっていく。
甲原「東京国立博物館に監修いただいていることもあり、展示という形式で、博物館的な見せ方にしたいと思いました」
実際、展示素材には作品解説パネルも入っている。パネルには二次元コードがつき、すべての展示作品で研究者による音声解説を聴くこともできる。
遊びのように始まりながら、よく見ると本格的。作って、学んで、展示して、伝える。自分だけの国宝展を開くという仕掛けは、子どもの中に生まれた「好き」や気づきを、誰かに伝えるための舞台でもあった。
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◆読者参加が、令和の『学習』をつくる
本誌、コミュニティ、イベントへ広がる学び
今回の復刊号には、読み物としての楽しさも盛り込まれている。歴史学者・磯田道史先生の「読み物特集 ぼくの歴史のすきなとこ」では、歴史の知識だけではなく、歴史を楽しむ大人の姿を届けることを大切にした。そこには研究者としての専門性だけでなく、好きなものを追いかけてきた人の楽しさがある。
甲原「こうやって楽しんでいる大人がいるんだなというのは、子どもたちにとって励みになるし、より視野が広がるのではと思いました」
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誌面の外にも学びは広がる。
本誌には「あそぶんだ研究所 やってみ探検隊 古墳をつくろう大作戦!」という特集がある。あそぶんだ研究所は、『学研の科学』と『学研の学習』のオンラインコミュニティサイト。子どもたちが、自分の実験や発見、好きなものについて投稿したり、本誌に連動した動画や記事を楽しんだりして、全国の読者と交流ができる。
田中「スマホやタブレットから、実験したよ、どこどこに行ったよ、アゲハが羽化したよ、みたいな投稿をして、子どもたちが自分の『好き』をシェアしてくれるんです」
今回企画した実際に古墳を造って再現する記事では、そのコミュニティから子どもたちが集まった。
田中「好きを楽しむ子たちが多いので、想像以上に本気で、みんなでつくるということに一生懸命でした」
古墳を造ることは本で歴史を学ぶのとは違う体験だ。土を盛り、形を整え、体を使いながら考えることで、図形や土木の学びにもつながっていく。
田中「学びは、遊ぶ楽しさから来ると思うので、そこを一番大事にしています」
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さらに、オンライン配信やワークショップなど、子どもたちが商品を手にした後の体験機会も予定されている。
遠藤「このはにわを、今夏のバズワードにしていくというのがミッションだと思っています」
イベントで届けようとしているのは研究者の先生たちの面白さでもある。研究者というと、子どもにとっては少し遠い存在に感じられるかもしれない。だからこそ、直接やりとりできる場に意味がある。
遠藤「その魅力を余すことなく伝えるには、生の配信にして、子どもたちからチャットなどで質問が来たときにも、その場で答えてもらえるようにしたいと思っています」
家で作ったはにわを見ながら、研究者の話を聞く。自分が抱いた疑問を、専門家に聞いてみる。そうした機会は、子どもたちの学びが外の世界とつながる瞬間になる。
本誌、キット、コミュニティ、イベント。かつての『学習』が大切にしてきた読者参加企画は、令和の時代に、誌面の外へも広がる体験として形を変えている。
◆過去をなぞる復刊ではなく
体験する学びを “今”の子どもたちへ
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16年ぶりの復刊には、発売前から大きな反響があった。
『学研の学習』という名前に、懐かしさを感じた大人も多いだろう。けれど、吉野が見ていたのは、懐かしさのその先だった。
吉野「今回の復刊に際して、たくさんの反響をいただきました。以前購読していた方や、自分の記憶に直結している大人の方たちが反応してくれたこともあると思います。ただ、わたしたちが目を向けているのは、今を生きる子どもたちに向けて、心が豊かになるような本当にいいものを作りたいということだけです」
今回の『学研の学習 はにわの大国宝展』には、子どもたちの興味が広がる入口がいくつも用意されている。
伊藤「この商品づくりに関わったことで、私自身、はにわの見え方が変わりました。子どもたちの中にも、そういう変化が起きるとうれしいです」
蓑輪「好きなことを突き詰めると、もっと新しい挑戦につながっていく。今回のはにわが子どもたちの好きを見つけるきっかけになったらいいなと思います」
甲原「最初に『楽しい』って認識したものって、なかなか嫌いにならないですよね。学校で授業が始まったときに、抵抗なく『これ知ってる!』となるように、子どもたちに何か刺さればと思います」
田中「子どもたちに受け身ではなく、実際に体験してもらいたいと思っています。知識だけではなく、手で触ったり、体を動かしたり、五感で実感するきっかけになることを大切にしています」
遠藤「はにわの復元や勾玉など、一つずつの研究体験ができることがこの商品のすごいところです。探究ってかっこいいと思って追体験してもらいたいです」
学習編集部6名、それぞれの想いを抱えながら、向かっている先は同じだった。
国宝を組み立てる。勾玉を磨く。はにわを測る。古墳を造る。展示する。研究者の話を聞く。それらの何か一つでも、子どもの中に残ればいい。
「面白かった」「もっと知りたい」「またやってみたい」。
そう思えた瞬間に、好きと学びの芽はもう動き始めている。
16年ぶりに帰ってきた『学研の学習』は、過去をなぞるための復刊ではない。かつての『学習』が大切にしてきた「体験する学び」を受け継ぎながら、令和の子どもたちの前に、新しい入口を開くものだ。
その入口を作ったのは、同じ思いを持ったチームだった。
“はにわ”から、どんな好きが生まれるのか。どんな学びが広がっていくのか。その答えは、この商品を手にした子どもたち一人ひとりの中に、これから少しずつ芽吹いていく。
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