「『やった!』ってなりましたね。東京都に採用されたって聞いたときは」
災害時に少量の水だけで点灯する「水滴ライト」を開発した福岡市の会社、THE BOSAIの松浪社長はこう話した。
スタートアップ企業の「実装」
THE BOSAIは、2024年3月に設立されたばかりのスタートアップ企業である。それでも、設立から約1年で東京都との取り引きにつながり、交通局などでは約3900個のライトが導入された。
背景にあるのは、東京都が進める「ファーストカスタマー・アライアンス(FCA)」という仕組みだ。
通常の入札では、案件に応じて一定以上の企業規模などが求められることがあり、規模の小さいスタートアップは参加しにくい。FCAは、自治体が認定した優れた製品やサービスを、入札によらず調達できるようにし、スタートアップに行政での導入実績をつくる仕組みである。
そして、この制度は、全国の自治体が持つ認定制度を“横串”でつなぐ点に特徴がある。
各自治体が認めた製品やサービスを共有し、他の自治体でも活用できるようにすることで、公共調達の裾野を広げる効果がある。地方で生まれた技術が東京に届き、東京で生まれた技術が別の地域へ広がる。
FCAは、そうした流れを制度として組み立てたものといえる。
こうした取り組みの背景には、東京都の小池百合子知事が繰り返し訴えてきた問題意識がある。
小池知事は、スタートアップのイベントの場で「多くの商談につなげてほしい」と呼びかけるなど、技術やサービスを、実際の導入やビジネスに結びつける重要性を指摘してきた。
スタートアップは、優れた技術やアイデアを持っていても、実際に使われなければ売り上げや実績につながらず、成長することは難しい。だからこそ、課題は単なる開発支援にとどまらず、社会の中で使われる「実装」までどうつなげるかにある。
単に支援するだけではなく、実際に使われるところまでもっていく。その延長線上にあるのが、FCAの仕組みといえる。
「選ばれる」ことで得られる信用
「水滴ライト」の企業も、この仕組みの中で東京都とつながった。
「スタートアップなので、信用をつけたいなと思いまして」
松浪社長は、まず福岡市の「トライアル優良商品認定」を受けた。
この認定は、福岡市が新製品や新サービスを評価し、販路開拓を後押しする仕組みだ。 申請には書類作成や面談、プレゼンなどのプロセスがある。
「申請書の作成に数日かかりますし、専門家を交えての質疑応答もありました」
こうしたプロセスを経て認定されること自体が、1つの評価となる。
FCAは、こうした各自治体の認定情報を共有し、ほかの自治体による調達につなげる仕組みである。福岡市で認定された水滴ライトの情報もFCAを通じて共有され、東京都や渋谷区での導入につながった。
「水滴ライト」の松浪社長はこう振り返る。
「東京都や渋谷区のような大きな自治体と取引ができるというのは、やはり非常に嬉しいですし、やる気にもつながりました。『東京都に採用されています』『これだけの自治体に採用されています』というと間接的な売り上げにもつながっていきます」
1つの自治体による認定が信用となり、別の自治体での採用につながる。さらに、その採用実績が次の販路を開く。FCAは、そうした信用の連鎖を生み出す役割を担っているといえる。
「水滴ライト」を導入した東京都交通局の総務部戦略経営担当課長・飽浦昌城さんは「非常時におけるお客様の避難等が必要になることが想定されるため、水だけで簡単に点灯する「水滴ライト」を配置すれば、現場で活用できる可能性があると考えました」と説明する。
現在は現場で配布し、活用方法を検証している段階だという。
さらに飽浦氏は、今後についてこう話した。「他都市の認定商品を見ることも学びにつながっています。新しい製品を知った際には局内で情報共有を行い、当局事業に活用できそうな製品があれば導入を検討していきます」
TIBが生む「横の接点」と次の課題
こうした連携を支える都のスタートアップ支援拠点が東京・有楽町駅前にある「Tokyo Innovation Base(TIB)」だ。
駅から間近で利便性が非常に高いうえ、ここでは、入館登録をすれば、Wi‑Fiや電源を無料で利用でき、スタートアップにとっては“第二のオフィス”のように使える環境が整っている
専用アプリを通じて、その場にいる人材や分野が把握できる仕組みがあり、交流のきっかけが生まれやすい環境が整えられている。
さらに、全国の自治体が課題やニーズを提示し、スタートアップと向き合う機会も設けられている。
データで共有されるFCAと、対面でつながる場のTIB、両者が組み合わさることで、来館者同士をつなぐイベントなど、導入の可能性が広がっているのではないか。
FCAは、スタートアップにとって難関となる「最初の顧客」を生み出す仕組みとして機能し始めている。
その一方で、規模の大きなスタートアップが十分に育っていない課題も残る。
自治体による評価と導入を起点に、その実績をどこまで成長や、さらなる海外展開につなげていけるかは、別の課題でもある。
東京都、地方、スタートアップ、3者の協働によって、次のステージへと押し上げていけるのか。さらなる“イノベーション”が求められている。

