北陸新幹線が県内で開業してから11年あまり。1973年に建設が計画されてから50年以上が経過した今もなお、福井県・敦賀駅から西側の区間は工事すら始まっていない。自民党と日本維新の会などで構成される与党整備委員会が8つのルート案の再検証を進めるなか、国会の会期末まで1か月を切った。小浜ルートか、米原ルートか——沿線自治体の思惑が複雑に絡み合う膠着状態を、いかに打破するのか。
「個別評価」か「一体評価」か——逆転した費用対効果の数字

先週の与党整備委員会の会合で、国土交通省は各ルート案の最新の「費用対効果」を示した。費用対効果とは、新幹線開業で得られる利益を建設費などの費用で割ったものであり、これまでの実績では数値が「1」以上であることが着工可能の目安とされてきた。

今回、国交省は敦賀から新大阪までの未着工区間だけで計算した「個別評価」に加え、新たに東京から新大阪までの全線で計算した「一体評価」を示した。すると、未着工区間のみの個別評価では米原ルートのみが1以上となったのに対し、一体評価では小浜ルートが1.1となり、最も高い評価になるという"逆転現象"が起きたのである。

与党整備委員会の共同委員長を務める日本維新の会の前原誠司氏は、従来通りの個別評価を重視する考えをこう示した。
「今までは全部個別評価なんです。一体評価が出てきたのは今回が初めて。だったら今まで着工5条件はB/Cが1を超えているっていうのは全部個別評価できている。それを重視するのは当たり前じゃないですか」

一方、自民党の西田昌司参議院議員は異なる姿勢を見せた。
「はっきり言いましてB/Cは一つの参考の数字ですから、それについて個別にどうだこうだということは我々自民党側からはない。」
西田氏は、費用対効果の数値にとらわれず、沿線自治体などの意見を尊重する考えを強調した。与党整備委員会の共同委員長としての冒頭挨拶でも、「今国会中にルートを決めたいというのは我々の総意でありますので本日も精力的に議論を行っていただきたいと思います」と述べており、期限を意識した議論の加速が求められている。

「何もせずに10年経ってしまった」——京都の反対運動が招いた膠着
そもそも現行の「小浜・京都ルート」は、10年前の2016年12月に与党プロジェクトチームが正式ルートとして決定したものだ。当時の試算では建設費は2兆700億円、工期は15年の予定だった。

しかし、小浜ルートでは京都市内の区間はほぼすべて地下トンネルを走る計画であり、トンネル工事が地下水に悪影響を与えるという懸念や、京都府・京都市が背負う巨額の建設費負担などを理由に反対運動が起き、着工のめどが立っていない。

京都の市民団体はこう訴える。
「私たちは京都の市民で、京都の地下に巨大なトンネルを作ることは絶対にダメだということで声を上げています」
こうした状況を受け、改めて脚光を浴びているのが「米原ルート」である。敦賀駅から東海道新幹線が停車する滋賀県の米原駅に接続するルートで、工事区間が短いのが特徴だ。当時の試算では建設費が5,900億円、工期は小浜ルートより5年短い10年とされていた。

石川県内では、県議会の重鎮である自民党の福村章県議を中心に、米原ルートを求める声が高まっている。南加賀6つの市町や経済団体で構成される「オール加賀会議」、そして県議会も米原ルートの再検討を国に求める決議を可決した。福村県議はこう語る。
「私はもういっぺん米原。経費は4分の1。時間も10年以内で必ずできるんです。これを本当にもういっぺん原点に帰って考える」

さらに福村県議は、京都の問題の深刻さをこう強調した。
「(ルート決定から)10年経って、京都の反対運動はますます大きくなる。一歩も前へ出ない。今や京都を本当に説得しておられる方が誰もいない。着工できない。これではね、15年どころか、何もせずに10年経ってしまったと。」
しかし、国交省が示した新たな試算では、小浜ルートの工期は25年から26年。一方、米原ルートについても、計画変更や環境調査のため「25年以上」かかるとされた。必ずしも米原ルートの方が早くつながるとは言えない状況だが、福村県議はこう反論する。
「(小浜ルートは)25年で大阪まで行くって言ってますがね。こないだは15年だったんですよ、我々に。今度は25年。これ、私は40年以上かかると思いますよ。京都に入ったら1kmごとに工事差し止め訴訟が起きますよ、今の状況ではね。そしたら40年、50年かかると思いますよ。そんな話を今決めてどうするんですか?」

「とても迷惑な話」——滋賀県が抱える財政負担と技術的課題
米原ルートはどのように受け止められているのか。接続先となる滋賀県で取材をすると、意外な声が聞かれた。

ある滋賀県民はこう話した。
「(北陸新幹線は)別に米原に来なくても良いですし。とても迷惑な話なのでいらないって感じです。」

また別の県民は、
「(米原ルートでも小浜ルートでも)どっちでもないですかね。北陸にあんまり行かないので」
と答えた上で、東京・大阪への移動手段を問われるとこう続けた。
「新幹線で京都からそのまま。東海道新幹線で。10分で京都駅まで行きますし」

滋賀県としての立場も明確だ。三日月大造知事は2025年5月の北陸新幹線建設促進大会でこう述べた。
「米原ルートにつきましては申し訳ないですけれども望んでも求めてもおりませんので、まずはこのことを明確に申し上げておきたい」

滋賀県が地元を通る米原ルートではなく、現行の小浜ルートを求めている最大の理由は「巨額の財政負担」だ。新たな試算では、米原ルートの建設費は1.3兆円から2.1兆円以上。その多くは国やJRが負担するものの、自治体にとっては極めて重い負担となる。また、特急しらさぎが走る北陸線や特急サンダーバードが走る湖西線などの在来線がJRから経営分離され、滋賀県がその運営を担わなければいけない可能性も出てくる。

課題は財政面だけではない。米原駅から乗り換えなしで京都・大阪方面へ向かう場合、複数の技術的な壁が立ちはだかる。東海道新幹線の路線へ乗り入れるには、異なる運行システムを統合する新システムを開発しなければならない。

北陸新幹線の建設に携わった富山大学都市デザイン学部の金山洋一特別研究教授はこう指摘する。
「信号を共有化するってことは、初めからそれを織り込んでいれば大きな問題はないわけですけども、それぞれ独自に進化して、すごい費用をかけて、実績もあるシステムを融合するっていうことについては、非常に冒険的な要素もあるし、費用も工期もかかるのが実態だと思います。だから不可能とは言いませんけれども、フィージブル、つまり現実的とは言えないのではないかという点だと思います。」

また、脱線防止レールの形状などが異なるため、北陸新幹線の車両やレールをすべて東海道新幹線仕様に入れ替える必要もある。そして最も大きなハードルが「過密ダイヤ」だ。東海道新幹線の米原〜新大阪間は、およそ4分に1本が走る超過密路線。そこへ北陸新幹線が乗り入れれば、ダイヤが制限されて運行本数が減る恐れがあるほか、災害などで東海道新幹線が乱れた際、北陸新幹線もその影響をまともに受けることになる。

金山教授はこう続けた。
「米原については一見すると合理的に見えますけども、繰り返しですが、ダイヤ編成の問題とか、異常障害からの復旧とか、雪に対する強みとか、そういった観点で技術的に見て一定の課題が存在しておりますので、これまでの北陸新幹線の整備効果というものが相当減じることも想定されるんですね。」
「決め方を明示されなければ軽々に判断はできない」—来月17日の会期末に向け

工事区間が短いとされる米原ルートも課題は山積みだ。沿線自治体のスタンスを見ると、福井・富山・滋賀が小浜ルートを明確に支持する一方で、京都府や大阪府は、いまだどのルートを支持するか明言を避けている。

与党整備委員会のメンバーで石川県選出の宮本周司参議院議員は、今後の議論についてこう釘を刺した。
「何を重んじて最終決定をするのか、この決め方を1回ちゃんと整理して明示されなければ、我々としても軽々に判断はできないということを今日強く(委員長に)言いましたので、沿線自治体の方々をはじめ、国民の皆さんが理解していただける決め方を明示した上で決定できるように、誘導していきたいと思ってます。」

整備委員会は、このあと京都と大阪の知事と市長からヒアリングした上で、国会の会期末である来月17日までにルートを決定する方針だ。1973年の計画から50年以上を経て、北陸新幹線の全線開通に向けた最大の難関が、いよいよ決断の時を迎えようとしている。

(石川テレビ)

