治療が困難な患者に対して、体の痛みなどを和らげるためのホスピス。
その多くは大人向けですが、子ども専用のホスピスに注目が集まっています。
治療が困難な場合だけでなく、長期療養中の子どもがこれまで諦めていた、楽しいこと・やりたいことを実現させるこどもホスピス。
立ち上げへの思いと家族の願いを取材しました。
女子高校生が家族に振る舞う手料理。
この日のメニューは紅ショウガ入りの厚焼き卵です。
料理が趣味だという高校3年生の果歩さん(17)。
生まれつき心臓に重い病気を抱え、入退院を繰り返しながら成長してきました。
先天性心疾患がある果歩さん:
左心低形成症候群と慢性心不全と蛋白(たんぱく)漏出性胃腸症と洞不全症候群と多脾(たひ)症候群があります。
その果歩さんが訪れたのは、神奈川・横浜市にあるこどもホスピス「うみとそらのおうち」という施設。
ホスピスとは治療が困難な患者に対し、体の痛みや精神的苦痛を和らげる緩和ケアを目的とするのが一般的です。
一方、こどもホスピスは治療が困難な子だけでなく、闘病中や障害がある子どもたちの“やりたいこと”をかなえてあげる場所です。
先天性心疾患がある果歩さん:
あまり会ったことがなくてドキドキです。
あるお願いをかなえるためにやってきた果歩さん。
ケージで運ばれてきたのは、ウサギです。
大の動物好きなのに、これまで病気のせいで動物と触れ合う機会が少なかったという果歩さん。
“ウサギと遊んでみたい”という夢がこどもホスピスで実現しました。
先天性心疾患がある果歩さん:
すごくかわいくて、散歩楽しかったです。ウサギって散歩するんだって。ここに来ると、みんなが笑顔で迎えてくれて、この時間だけは治療を頑張らなくてもいい時間になってます。いつ死んじゃうか分からないから、後悔しないように全部やりたいっていう気持ちが強いです。
果歩さんの母:
この後も体がどうなっていっちゃうかわからなくて、病院から出られなくなっちゃうかもしれないけど、「もうやっぱ無理だよ、こんなの」と思わないで、とにかくチャレンジして好きなように生きてほしい。
子どもたちの“やってみたいこと”をかなえたい。
ここでは寝たきりでも遊べる特注のブランコの他、広い寝室、大浴場など、遠出が難しい家族でも旅行気分を味わえるスペースも完備しています。
“子どもが子どもらしく遊べる場を作りたい”との思いで、5年前にこどもホスピスを立ち上げた施設長の田川尚登さん(68)です。
横浜こどもホスピス・田川尚登さん:
大人と違うのは、(子どもは)病気になっても成長、発達を続けている。治療している以外は“子どもらしい時間”が必要なんですけど、日本にはそういう居場所がないのが現状です。
病院とは別の場所に設置されたこどもホスピスは全国で2カ所のみ。
国会でも超党派の議員連盟が発足するなど、普及を求める声は高まっています。
約13年前からこどもホスピスの重要性を訴え続けている田川さん。
その原動力となっているのが、娘の闘病でした。
横浜こどもホスピス・田川尚登さん:
(6歳のときに)悪性の脳腫瘍とわかって、その脳腫瘍は治療法がなくて、「余命はもう半年です」とその場で言われて…。
しかし、娘のはるかさんは…。
横浜こどもホスピス・田川尚登さん:
右手が動かなくても、左手であっという間に右手と同じように字が書けるようになったり、どんな状況でも子どもは成長してるんだなって姿が見えたとき、子どものやりたいことをやれる。そういう場があることが必要だっていうのを娘を見て思いました。
闘病の末、6歳でこの世を去ったはるかさん。
そこから田川さんは、「こどもホスピス」の立ち上げに奔走します。
子どもや家族の“したい”をかなえるため、施設には小児科病棟で働いていた看護師や保育士、教師経験がある人が常駐。
子どものケアのプロがサポートしてくれます。
スタッフにはこどもホスピスの利用者だった遺族も。
娘を亡くしたスタッフ:
娘が小児がんを患って治療をしていく中で、花火させてもらったり、かき氷作らせてもらったり、家族以外の人が、娘の人生のこと丸ごとを一緒に考えてくれたのが一番大きくて。遺族だからっていうんじゃなくて、人と人として接したらいいのかなって(働き始めた)。
こうした人々の思いが重なり、子どもたちの諦めてきたことがかなう場所となった「こどもホスピス」。
生まれつき成長障害や心疾患などの合併症を伴う「18トリソミー」という病を抱えている、9歳の恭子ちゃん。
このホスピスに来るまで、本物の遊園地に行ったことはありませんでした。
恭子ちゃんの母:
大がかりな(移動式)メリーゴーランドが駐車場にドンってできてて、初めてメリーゴーランドに乗って、遊園地の雰囲気を初めて味わって。すごく楽しい思いをしました。
恭子ちゃんの父:
「やりたいことあったら、どんどん言って」って言ってくださるのがすごいなって。「どうやったらできるか考えるから」みたいな。
恭子ちゃんの母:
子どものためなんだけど家族のためってことも考えてくれるので、ありがたい場所ですね。
病気と闘う子どもたちやその家族にとって、こどもホスピスで過ごす時間はかけがえのない思い出と経験になっています。
