長野県木曽町で3代続く老舗そば店を、製造業を営む地元企業が引き継ぎました。従業員はそのまま残り、こだわりの味を守る。企業のフォローを受けての再出発です。

■創業58年 老舗そば店の再出発

長野県木曽町日義の国道19号沿いにあるそば店「旅籠そば 水車家」。店でひいたそば粉を使って作る、香り高いそばが自慢です。

客:
「おいしいです。歯ざわりがいいし、ふわっと香りがいい」
「風味がよくて、おいしいです」

2026年で創業58年。変わらぬ味を提供し続けていますが、実は2年前に一度、閉店。

店舗と営業権を地元企業の「テヅカ精機」に移し、5月から、新たなスタートを切りました。

水車家 3代目・古田秀行さん:
「水車家って名前が残ったという安心。本当にうれしいっていう感じですね」

■見て覚えた味 3代続くこだわり

1968(昭和43)年に古田さんの祖父が始めた「水車家」。バブル前後の繁忙期には、一日800人を超える客でにぎわいました。

古田さんは父から受け継ぎ、二十歳から店に。

古田秀行さん:
「(修業は)見てるだけです。目で見て覚えるとか、味を盗め、とか」

こだわりは信州産の「玄ソバ」。そばの実を店内の石臼で挽いています。

新そばの時期には地元・開田高原産、それ以外も県内産を仕入れ、香りや風味が損なわれないよう、時間をかけてゆっくり挽いています。

そば打ちは、毎日早朝から。

古田秀行さん:
「毎日毎日、普通に起きて、普通に健康にそばを打てて、変わらない味を出せたらいいなと」

■病とコロナ禍…閉店決断

実は古田さん、数年前からそば打ちと店の経営の両立が難しいと悩むようになりました。

病気を患い、10年以上前から人工透析のため週3回、通院。

コロナ禍に落ち込んだ客足も回復せず、2024年12月末に、一度は店を畳みました。

古田秀行さん:
「さすがにもう体もいろいろと大変になってきていたので、(店を)自分でやるよりは、(仕事を変えたほうが)体も楽じゃないかと」

■「地域に必要」製造業が承継

それでも、「水車家」が今も営業を続けられているのは―。

テヅカ精機・手塚良太社長(40):
「なくなっちゃうというのは、地域にとって余計に人口減少を加速させるひとつの要因になってしまうんじゃないかなと思うので」

地元の製造業・「テヅカ精機」が店を引き継いだからです。

会社は主力の電子部品の組み立てのほか、住宅建設、クリーニング事業など「経営の多角化」を進めています。

飲食業の経験はありませんでしたが、付き合いのあった古田さんが、閉店後の対応に悩んでいることを知り、引き継ぐ決断をしました。

■理念は「まちづくり」への貢献

好評のそばはもちろん、広い宴会場は人が集まる拠点にもなっていて、「地域に必要な店だ」と考えたのです。

テヅカ精機・手塚良太社長:
「会社が掲げる理念『ものづくりからまちづくりへ』っていう理念を目指す上で、ここがなくなるとか、この地域が衰退するっていうのはありえないというか。自社の理念に向かっていくために絶対そういうのも大事」

閉店から4カ月後に店を再開させ、5月、正式に譲渡されました。

古田さんにとって、経営は企業に任せつつ「水車家」の看板を守ることができる―。願ってもない申し出でした。

古田秀行さん:
「今まで35年やってきた、慣れた仕事がそのままできる。いつもと同じことを丁寧にやればいい」

■家族で守る変わらない味と場所

「水車家」はもともと家族経営。

50年ほど厨房に立つ母・典子さん(79)は主に天ぷらを担当。妻・昌江さん(56)は接客担当。長男・健介さん(28)も調理を手伝います。

3人とも従業員として店に残り、変わらぬチームワークを発揮しています。

古田さんが打ったそばやこだわりのつゆ、人気の天ぷらなど、メニューや味も一切変わりません。

客:
「20年くらい前から、いつもおいしいから、つられて来るんです(笑)」
「どこの店も大変な時代なので、続けていけるということでよかったですね」

母・典子さん:
「おいしいって声が聞こえてくるから、そのまま続けていければいいな」

■人手不足と物価高騰も克服へ

一方で、個人経営では難しかった課題にも対応することができました。

古田秀行さん:
「まず人件費。一番お金かかりますし、あと人(の確保)。これは自分ではもう探せなかっただろうなという感じです」

5月からスタッフとしてテヅカ精機の社員が配属されました。

社員も飲食業は「初めて」ですが―。

水車家に配属 テヅカ精機・矢ケ崎健二さん:
「喜んで帰っていただきたいと思いますので、これはどの業種も同じ。先代の思いを受け継ぎながら、一緒にやっていこうと思いますね」

混雑時には、手塚社長もいちスタッフとしてフロアに立つことも―。

5月の大型連休には、社員が連日助っ人に訪れ、乗り切りました。

今後は味を引き継ぐ人材育成にも取り組みます。

もう一つの課題は「物価高騰」。

客足が遠のくのではと、値上げに踏み切れずにいましたが、会社が市場調査をした上で値上げし、店のこだわりを打ち出すなど、PRを強化しました。

古田秀行さん:
「社長はやる気満、アイデアのいっぱいある人ですから」

■「点から線へ」宿泊業にも挑戦

福島宿にある創作和食店「肥田亭」。

こちらも一度は閉店しましたが、「水車家」の経営を決めたことを契機に手塚精機が引き継ぎ、先にオープンしました。

会社は今後、宿泊業にも挑戦する予定で、「水車家」を含め、多角的な事業で木曽地域の活性化につなげたいと考えています。

テヅカ精機・手塚良太社長:
「まだまだ点の発信しかしていない。それがちゃんと線としてつながって、全体として、地域として発信できれば、木曽という地域はまだまだポテンシャルを持っているんじゃないかな。(水車家の)良さを残して、さらにブラッシュアップしていきながら、地元からも外からも愛されるそば店になっていったら」

■「あと10年」味を守り続ける

58年目にして再スタートを切ったそば店。

古田さんは味を守りながら、店がさらに発展するよう力を尽くします。

水車家 3代目・古田秀行さん:
「水車家という名前も残るし、あと10年、15年はここで頑張っていきたい。おいしかったよと言ってくれるお客さんが増えるようにしていきたい」

長野放送
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