秋田・五城目町で約30年にわたり地域医療を支えてきた診療所が、2026年5月末で閉院した。記録的大雨による浸水被害からの復旧を果たしたものの、人手不足と経営悪化が重なり、継続を断念。住民にとって身近な医療の拠点が失われ、地方医療の厳しい現実が浮き彫りとなっている。
地域に寄り添い続けた診療所
五城目町中心部、馬場目川沿いにある大窪胃腸科内科医院は、大窪天三幸(おおくぼ・まさゆき)院長(78)が約29年前に開業した。
消化器を専門とし、年間の内視鏡検査は胃が400件以上、大腸が100件に上るなど、地域医療の一端を担ってきた。
患者からは「大窪院長は患者のことをよく見てくれて、気軽に何でも聞けてありがたい」「腰が低くて安心して話ができる先生」と、厚い信頼が寄せられていた。
閉院の引き金となった人手不足
2026年5月30日、診療所は静かに歴史の幕を閉じた。背景には深刻な人手不足がある。
半年前に事務職員が退職した後、求人を出しても応募はなく、保険請求などの事務作業は院長と看護師で担うことになった。しかし、慣れない作業はミスも生じやすく、減収が続いた。
大窪院長は「保険請求がスムーズにいかず減収が続いている。赤字のまま続けていくのは大変」と経営の厳しさを語る。
水害が追い打ちに
経営を圧迫したもう一つの要因が、2023年7月の記録的大雨だ。
馬場目川の氾濫により診療所は約70センチ浸水し、レントゲン機器や電子カルテのデータなどがほぼ全て失われた。
被害額は2000万円以上に上るが、国の補助制度の対象外だったため、院長は自らの蓄えを取り崩して復旧にあたった。
「負債は2000万から3000万円。この2〜3年で回収しようと努力したが、職員が集まらず難しかった。もう回収は無理だと判断した」と、苦渋の決断を振り返る。
失われる“身近な医療”
周辺には総合病院もあるが、高齢者にとって長い待ち時間は大きな負担だ。
待ち時間が少なく、気軽に受診できる診療所の存在は大きかった。
患者からは「閉められるのは困る。どこの病院に行けばいいのか悩んでいる」「小さな病院は遅い時間でも診てくれて助かるが、大きな病院はそうはいかない」と、不安や惜しむ声が聞かれる。
揺らぐ地方医療の基盤 問われる持続への支援
五城目町ではかつて4軒あった内科医が、今回の閉院で2軒にまで減少する。医師不足、とりわけ地方で働く医師の不足は深刻だ。
大窪院長は「地方に行きたくない医師も多い。行政の支援がないと大変になる」と現状を憂える。
人口減少や人手不足、そして災害リスク。様々な要因が重なり、地域医療の維持はかつてないほど難しくなっている。
住民の健康を支える身近な医療機関が失われる中、地域医療をどう守るのか。
今回の閉院は、その課題を突きつけている。これ以上の縮小を防ぐため、早急な支援と対策が求められている。
(秋田テレビ)

