バイデン氏当確もトランプ大統領に戦々恐々?

混迷の様相を見せていた米大統領選は、バイデン前副大統領の当選確実が出たことで、一応の決着が見えた。各国が祝意を表明し、菅首相も8日朝に自らのツイッターで祝意を伝達するとともに9日朝も「日米同盟をさらに強固にするために、インド太平洋地域の平和と安定を確保していくために米国とともに取り組んでいきたい」とバイデン氏とのもとでの日米関係強化に意欲を見せた。

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しかし、この新たな日米関係の構築に向けては、4年前のトランプ氏勝利の時とは状況が違う点がある。政府内でバイデン氏との早期の電話会談や、訪米しての面会に急ぐ様子が見られないと言う点だ。

政府関係者は「1月20日の就任式まで大統領はトランプなのだから、下手に動けない。動いた瞬間に駐留経費の増額要求など何をしでかすかわからない」と話し、早期の会談に踏み切らない理由に、トランプ氏の性格と来年度以降の在日米軍駐留経費の日本側負担を巡る日米交渉を挙げた。確かに、安倍前首相と良好な関係を築いたトランプ大統領の在任期間があと2カ月ほど続く中で、率先してバイデン氏に挨拶に向かうのは外交儀礼上も、失礼にあたるという事情もある。

4年前の奇策から一転 “焦らず”様子見外交

安倍前首相が猛獣使いと称されるほど、トランプ大統領との良好な関係を築けた一因には、4年前の日本政府による緻密、いや奇策とも言える戦術があった。2016年9月、当時の安倍首相は国連総会出席のため訪米した際に、民主党の大統領候補だったヒラリー・クリントン元国務長官と面会した。もちろん大統領選後を見据えたものだった。

安倍前首相とトランプ大統領・2016年ニューヨーク

しかし安倍首相は、共和党の候補だったトランプ氏とは会談せず、陣営との関係もほぼ皆無だった。それは、その段階での大方の予想がヒラリー候補の勝利だったからだ。しかしその後、トランプ氏が勝利する可能性が現実味を帯びてきた。

そこで大統領選の直前、当時官房長官だった菅首相が当選を見据えたトランプ陣営との関係構築を指示した。そこから急遽、安倍首相との電話会談の調整を始めると、先手を打ったことが奏功し、トランプ氏勝利確定から24時間以内という素早さで、世界に先駆けての安倍―トランプの電話会談が実現したのだった。

さらにその電話会談ではトランプ氏の心に刺さるだろうと用意された「アメリカンドリーム」と「ゴルフ」という2つのキーワードがトランプ氏の心に刺さり、1週間後ニューヨークでの非公式の会談が実現した。そこから世界がうらやむ蜜月関係がスタートすることになった。

菅総理が信頼を置く“ケネディルート“で日米関係をスタート!?

では、菅首相は外交の基軸と据える日米関係を、バイデン氏とどう構築していくのだろうか。オバマ政権での副大統領を務めたバイデン氏は安倍前首相とは会談実績があるものの、菅首相とは面識がなくまさにゼロからのスタートとなる。

そこで関係構築の一つの鍵として挙げられるのが“ケネディルート”だ。菅首相はオバマ政権当時、3年あまりにわたり駐日大使を務めたキャロライン・ケネディ氏と会食や懇談を重ね、沖縄の基地負担軽減策に取り組んだほか、日米関係強化に力を注いでいた。その関係はケネディ氏の退任後も続いた。

ケネディ駐日大使(当時)と菅官房長官(当時)の共同会見・2015年12月

2019年5月、官房長官だった菅氏は、国連関連会合に出席するためニューヨークを訪問した際に、ケネディ氏の自宅に招かれた。そこで用意されていたのは前月に新元号・令和を発表した菅首相の写真を飾ったケーキだった。ケネディ氏は、令和発表を契機に知名度が急上昇しポスト安倍に躍り出た“令和おじさん”を友人として最大限のおもてなしで迎えたのだった。

また帰国後も菅首相は関係者を通じてケネディ氏と連絡を取り合い、今年の春以降はこのケネディルートを通じて大統領選の動向も探っていたという。この時点で官房長官だった菅首相に総理・総裁への意欲がどれだけあったかは定かでないが、米民主党に大きな影響力があるケネディ氏は、新たに民主党政権が誕生した際には、自らが日本政府とのつなぎ役として尽力すると菅氏に伝えたという。

強固な日米同盟構築に向け菅首相は何を描くのか

一方で、政府関係者にはケネディルートを使わずとも次期政権との関係構築はスムーズに進むのではないかという見方もある。また、首脳関係については、たたき上げで苦労人の菅首相の経歴は同じく苦労人のバイデン氏と重なる部分もあり、意気投合できるだろうとの声も聞かれる。また政策面ではバイデン氏の持論であるTPPやパリ協定への復帰など、国際規模の課題での日米連携復活に期待する声もある。

10月、首相就任後初めての外国訪問としてベトナム・インドネシアを訪れ、本格的な外交をスタートさせた菅首相。対中政策や北朝鮮の拉致問題、ロシアとの北方領土交渉等、同盟国のアメリカとの関係をどう築くのかで、菅外交の行方は大きく左右される。

安倍前首相は、アメリカとイランの敵対関係の改善にも取り組むなど、国際的にも積極外交を展開して存在感を示してきたが、官房長官として7年8カ月にわたり支えた菅首相は誰よりも安倍外交を間近で見て、同時に戦略を練ってきた一人である。その経験を胸に自らが首相となり、アメリカにも新政権が出来ることになった今、いよいよその真価が問われるときが来たと言える。

(フジテレビ政治部・千田淳一)