朝のゴミ出し、照明カバーの掃除、仏壇の花の買い出し…。
どれも些細な「困りごと」に見えて、高齢者にとっては切実な問題です。
大阪府堺市を拠点に、そんな声をひとつひとつ拾い上げる男性がいます。
「5分110円から」
破格の料金を掲げ、前掛け姿で依頼者のもとへ駆けつける、その名も「御用聞き」。
御用聞きの小谷真一さん(43)に密着しました。
■エレベーターのない団地で「朝のゴミ出し」
ある朝、小谷さんが最初に向かったのは、エレベーターのない団地に住む男性のもとでした。
依頼はゴミ出し。階段の上り下りに苦労するようになった男性にとってはゴミを下に持っていくのが重労働です。
軽口を交わしながら、小谷さんはゴミ袋を受け取り、階段を軽やかに駆け下ります。
次の依頼は照明カバーの掃除。天井に手が届かなくなった高齢者にとって、これもまた自力では難しい作業です。
小谷さんは手際よくカバーを外し、汚れを拭き取っていきます。
■「88歳になったら大変やねん」シニア助ける御用聞き
次に向かった住宅では、風呂とトイレの掃除を依頼されました。
【依頼者】「もう88歳になったら大変やねん。トイレと風呂場と、水場だけ。もう1年お願いしてます」
以前は、自分で屋根の掃除までこなしてきたという依頼者ですが、子どもたちから「絶対屋根に上がらないで」と言われ、無理はできません。
風呂とトイレを1時間でピカピカにして、料金は3,190円でした。
この日は6件の「御用聞き」をこなしました。依頼はひっきりなしです。
小谷さんのもとを訪れる依頼者の多くは、後期高齢者と呼ばれる75歳以上の方々です。
65歳以上が3,600万人と、人口の約3割を占める超高齢社会の日本。
特にひとり暮らしの高齢者が急増しています。
【小谷真一さん】「活動を始めて3年経って思うのは、ご高齢の方のニーズっていうものが本当に多いなと」
■「自分に何ができるだろう」売り上げ至上主義への疑問から始まった転機
小谷さんは元々、飲食や貿易などの会社で働いていました。
売り上げばかりを求める日々に行き詰まり、30代半ばで地元・堺に戻ります。
そこで目の当たりにしたのは、年老いた両親や地域の人が、ゴミ出しや買い物に困る姿でした。
【小谷真一さん】「『自分に何ができるだろう、自分はこれから何をしていきたいんだろう』と考えたときに、東京で『御用聞き』というサービスをやっていると分かりました。心から共鳴して。『ぜひこれ僕、大阪でやらしてください』と」
当初はなかなか依頼が来ませんでしたが、口コミが徐々に広がり、いまでは定期的に利用する人が増えました。
■「制度の隙間を埋める」行政・介護とも連携
実は小谷さんは、行政をはじめとする公的な機関とも連携しています。
堺市にある地域包括支援センターでは、毎月1回スマホの無料相談会を実施していて、小谷さんはそこで高齢者の困りごとを直接拾い上げています。
【地域包括支援センターの職員】「高齢者の数がすごく増えてるというところと、それを補う制度にも少し限界が見えて来ているところもありますので。
介護保険とかだけではカバーしきれないという部分が出てくるので、制度の隙間を埋めてもらう活動で、小谷さんとコラボして対応していくのが結構多い」
介護現場からも、小谷さんは欠かせない存在として頼りにされています。
【ケアマネージャー】「『片付けしてほしい』とか、『大きな物があるからよけてほしい』とか、色々あると思うんですけど、『そこはできません』というのが介護保険上の訪問介護の決まりがありますので。小谷さんはとても助かってます」
介護保険の枠ではカバーしきれない「ちょっとした困りごと」。制度と日常の間に落ちてしまう声を、小谷さんが拾い上げているのです。
【小谷真一さん】「できる限りチームになって、一緒に支え合う。きっとそれは自分にとっても良いし、生活者さんにとっても良いことになっていく、豊かになっていくと思う」
■94歳と外出依頼のワケ
この日の依頼は、まさに介護サービスの範疇では難しいものでした。
有料老人ホームで暮らす俊雄さんは94歳。ホームの事情で外出の同行サービスがなくなり、小谷さんが付き添うことになりました。
2人で向かったのは寿司店。俊雄さんにとって、久しぶりの外食です。
【小谷真一さん】「元気になって良かった。お祝い、乾杯!」
俊雄さんには難病を患う60代の娘・京子さんがいて、懸命に支えていました。
しかしことし1月、俊雄さん自身が病気で倒れ、車いす生活に。自由に外出ができなくなり、塞ぎ込むようになったといいます。
そんな俊雄さんを心配した京子さんから届いたのが、「外に連れ出してほしい」という依頼でした。
「ちょっと気分転換になった」と報告する俊雄さん。
俊雄さんに元気になってもらい、小谷さんと3人で外出するのが、京子さんの目標です。
【娘・京子さん】「ちょっと外へ出かけて、何か自分に良い刺激をもらうようにやってみようかな」
■ 「御用聞きは、寄り添う人」
「御用聞き」として日々働く中で、自分自身の役割が明確になってきたと小谷さんは話します。
【小谷真一さん】「御用聞きは『寄り添う人』というのは、すごく段々自分の中で理解できるというか、本当に大切なことだなと思うようになりましたね」
そして、こう続けました。
【小谷真一さん】「誰しもが自分らしく心豊かに生活できる、そんな日常が増えていくといいな」
制度の狭間に埋もれた、声なき声を拾い上げる御用聞きの役割は、これからさらに増していきそうです。
(関西テレビ「newsランナー」2026年5月26日放送)