鹿児島中央駅からJRでわずか約10分。谷山地域が、いま静かな注目を集めている。
2016年にJR谷山駅が高架駅としてリニューアルされて以降、街の雰囲気は少しずつ、しかし確実に変わってきた。新しい店舗が増え、人の流れが生まれ、かつて「学生しか歩いていない」と言われた時代を知る人たちも、その変化を肌で感じている。
昼も夜も、食で街を盛り上げる
JR谷山駅から歩ける距離にある「FOOD CHANNEL」(谷山中央1丁目)は、6年前のオープン以来、弁当7種類・惣菜15〜20種類を揃えて人気を集めてきたお弁当・惣菜店だ。オープンの11時から行列ができるほどの盛況ぶりで、地域の日常食を支えている。
今年3月からは夜の営業(午後5時〜9時)もスタートした。料理3皿で1,000円、おでん500円、飲み物1杯500円という気軽な価格設定が人気を呼んでいる。
代表の奈須美和さんはこう語る。「ありがたいことにお昼の営業が忙しくて、なかなかお客様と話す機会がなかったので、ゆっくりお酒を飲みながら話せればと思って」。賑わいの裏側に、お客との距離を縮めたいという思いがあった。
定点観測が映す、街の6年間
駅周辺で珈琲店を営む池田さおりさん(池田珈琲店、谷山中央2丁目)は、店のインスタグラムにJR谷山駅周辺の工事現場をほぼ毎日記録し続けてきた。「勝手に応援している感じで、毎日勝手に記録していた」と振り返る。
鹿児島市坂之上育ちの池田さんが、亡き祖母ゆかりのこの土地に珈琲店を開いて6年目。「お花屋さんができたり、居酒屋さんが移転して新規オープンしたり。なんか明るくなった気がします」と街の変化を穏やかに見守っている。
昔から通う人が語る、谷山の底力
この地に80年暮らし、不動産業を営む濵田武美さんは「落ち着いているし、変に騒がしいものがない。通勤にも便利な場所」と語る。かつて「谷山市」として独立した自治体だったこの街は、1967年に鹿児島市と合併。現在の谷山エリアの人口は、谷山市時代から約4倍に増えたという。
「谷山市」だった当時の写真一方、32年間にわたって街の一角で営業を続けてきた「山田フルーツ店」の山田トミエさん(79歳)は、来年の閉店を決めている。「自分も年になってしまったから。あと1年頑張ろう」という言葉は、街の歴史そのものを体現している。
移転してきた料理人が見つけた「いい街」
今年3月、鹿児島市坂之上から移転してきた「料理屋 発氣揚々」(谷山中央2丁目)の店主・濵﨑裕之さんは、修行時代に谷山に縁があった一人だ。新鮮な刺身や原始焼きを提供する同店では、かつての知人が「お前が出したから会いに来た」と顔を出してくれることも多いという。「やっぱり自分のことを覚えてくれて、飲みに来てくれる温かい方が多い。いい街ですね」とその印象を語った。
新たなランドマーク「La Plus」の誕生
先に紹介した池田さんが定点観測を続けていた建物の正体は、2年前にオープンした14階建ての複合施設「La Plus」(谷山中央1丁目)だった。
就労支援事業所が運営するこの施設には、1階のビアバル・ベーカリー・スペイン陶器の店、3階のフットサルコートと天然温泉「谷山温泉えびす湯」(サウナ・露天風呂・貸切湯あり)、5階の「ブックカフェ バタフライブックス」(1,000冊以上)、「えほんのもり ブックワーム」やキッズスペース、9階には400人収容の多目的ホールまでが揃う。
1階の「ビアバル ヨカビト」では、施設内の「クラフトビール醸造所 マグマブリューイング」が手がける11種類のクラフトビールが飲み放題で楽しめる(2時間飲み放題・料理7品で1人5,000円)。店長の宮路貴之さんは「11種類のクラフトビール飲み放題は全国的にも珍しい。谷山以外の方にもぜひ楽しんでいただきたい」と話す。
谷山は、まだ「成長の途中」
花工房「アン」(谷山中央2丁目)を20年以上続ける黒木大作さんは「駅が新しくなってからはいいような気がする。地元の小さな商店街が残ったのも良かった」と振り返る。通りがかりに「頑張ってるね」と声をかけてくれる地元の人たちの存在が、この街の通りを「いい」と感じさせる理由だという。
新しいビルが建ち、新しい店が生まれながらも、長年この場所で積み上げてきた人と人との結びつきは変わっていない。便利さと温もりが共存するJR谷山駅周辺は、まだその進化の途中にある。

