「卵巣がん」は、発生率が過去数十年で上昇してきました。
しかも欧米など先進国では減少や横ばい傾向なのに、日本は例外的に増加傾向が目立つ国の一つになっています。
その背景には、昔の10倍に増えた「生理(月経)回数」と、ある薬の普及の問題がありました。
今回、佐藤綾華医師(日本専門医機構 産婦人科専門医)の監修で、「生理回数」と「女性のがん」との関係についてまとめました。
また、5月28日は「月経衛生デー」となっています。
排卵は「爆発」…毎回傷つく卵巣
ほとんどの先進国で卵巣がんは減少傾向か落ち着く傾向にあるのに、日本では増加傾向にあります。

あまり知られていませんが、「卵巣がん」の原因に、「多すぎる生理(月経)回数」があります。
「生理は月1回で、それ以上は来ない。多すぎるとはどういう意味?」と思われる方も多いでしょう。
実は、女性が生涯で経験する生理の回数が、昔に比べて激増しているのです。

実は、卵巣は毎月の排卵・生理のたびに、大きなストレスを受けているのです。

卵巣から卵子が飛び出す排卵は、卵巣にとっては一種の“爆発”のようなもの。 そのため、卵子が飛び出すときに、卵巣には「傷」ができてしまうのです。
卵巣はその「傷」を、毎回「修復」しなければなりません。
しかし、毎月毎月「傷」と「修復」を繰り返すと、ガン化のリスクは確実に上がっていってしまいます。
つまり、排卵のたびに「卵巣ガン」のリスクは高くなるのです。
逆に言えば、排卵の回数が少ないほど、「卵巣ガン」のリスクは減ります。
出産が大幅に減り…「生理回数」が10倍に
では、女性はその生涯を通じて、何回くらいの生理を経験するのでしょうか。
昔の女性が生涯で経験する月経の回数は、約50回程度だったと見られています。
「えっ、そんなに少ないの?」と感じられるかもしれません。
一方、現代女性はそれよりもはるかに多く、約450~500回と推測されています。
なぜでしょうか。
昔は14~15歳くらいで初経を迎えると、20歳前に結婚。子どもを5人~10人と産むケースが多かったのです。
赤ちゃんへの授乳期間も排卵が抑制され、生理が止まります。
妊娠期間は約10ヶ月、 授乳期間は約1年であると考えると、女性が一度妊娠すると2年近くは排卵・生理がないことになります。

一生の間に10人出産する女性では、なんと20年近くも排卵・生理がなくなります。
つまり、昔の女性は何度も出産していたので、現代に比べて、排卵・生理回数が圧倒的に少なかったのです。

一方、現代女性の場合は、初経年齢は早まったのに、結婚や初産年齢は遅くなりました。初産の平均年齢は30歳を超えています。
平均的には、初経から妊娠までの約20年間は、毎月 生理が来ている事になります。
さらに、出産回数も大幅に減少し、1人が出産する赤ちゃんは2人を下回っています。
その結果、「生涯に経験する月経回数は、昔の女性に比べて10倍にもなる」という報告もあるほどです(※ Hilary O. D. Critchley, et al : Am J Obstet Gynecol 2020; 624-664)。
このことで、現代の女性が、圧倒的に「卵巣がん」にかかりやすいことがわかります。
多すぎる月経は、女性の健康を脅かす大きな問題になっているのです。
しかし、そうした事情は多くの先進国で共通していること。
にもかかわらず、ほとんどの先進国では、この20年間に「卵巣がん」は減少か落ち着く傾向にあります。
なぜ、先進国で日本の女性だけは「卵巣がん」が増加傾向なのでしょうか。
高い予防効果の「低用量ピル」 服用止めても効果継続
実は、「卵巣がん」の発生率に、「低用量ピル」の普及が影響している可能性があります。
「低用量ピル」が早くから普及した国ほど、「卵巣がん」の減少率は大きく、それがピルの効果だと考えられているのです。
なぜでしょうか。
「低用量ピル」を内服すると、卵巣からのホルモン分泌が抑制され、排卵は止まります。そうなると当然、卵巣が傷つく回数が減ることになります。
その結果、「卵巣がん」になるリスクが大きく下がります。
その効果は、「低用量ピル」服用を長期間継続するほど大きくなります。
5年継続で約30%、10年継続で約40%、15年継続では約50%まで、リスクを減少させることがわかっています。(Lancet Vol. 371January 26 2008)
しかも、服用を止めた後も、その効果は少なくとも20年は継続するのです。

「低用量ピル」は、全世界で1億人以上の女性が利用していて、これまでに約20万人の「卵巣がん」発症が予防され、約10万人の命が救われたと推計されています。
一方、日本における「低用量ピル」の利用は、閉経前の女性4%前後と極めて少なくなっています。
その結果、日本の「卵巣がん」発症数は右肩上がりの増加となっているのです。
他の「がんリスク」も下げる効果が!
「低用量ピル」の予防効果は、これだけではありません。
「子宮体がん」についても、発症リスクを約30%下げます。
こちらも、3年以上継続で50%、10年以上継続では80%もリスクを低下させます。
服用を止めた後も、効果は少なくとも20年継続します。
さらに、大腸がんの発症リスクを下げることも報告されています。
服用できない場合も
「低用量ピル」の副作用として、血栓症のリスクがあります。
血栓症の発症率は、年間1万人に対してピルを飲んでいない人は2〜5人、ピルを飲んでいる人は3〜9人と言われている。その差は大きくはありませんが、脳梗塞、心筋梗塞などの血栓性疾患の既往がある方は服用できません。
また、35歳以上で1日15本以上の喫煙者や肥満の方、乳がんの既往のある方、前兆がみられる片頭痛のある方等も服用できません。

いずれにしても、医師の診察を受けた上で処方してもらうことが肝要です。
まだ妊娠・出産を考えていない女性は、「低用量ピル」内服で、将来「卵巣がん」になる可能性を劇的に減らす事ができます。
「低用量ピル」に興味のある方は、近くの産婦人科等で相談されてもいいでしょう。
また、排卵障害や体重減少などで月経がない方の場合も別の健康障害が考えられるため、早めに受診されたほうがいいでしょう。

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