「またか」という思いが頭をよぎった方も多いのではないでしょうか。
大西洋を航行中に「ハンタウイルス」の感染が相次いだクルーズ船。
乗客・乗員約150人のうち、5月13日までに9人の感染が確認され、3人が死亡しています。
これを受け、全国の空港や港では出入国者に対し注意を呼びかける事態に。
新型コロナウイルスのように世界的なパンデミックとなる危険性は?日本の水際対策はどうなっているの?北海道は大丈夫?
さまざまな疑問や不安に感染症対策の専門家、塚本容子教授が答えます。
クルーズ船で感染が続くハンタウイルスに、新型コロナのようなパンデミックは起こるのでしょうか。
ハンタウイルスはネズミなどの齧歯類が原因とされる感染症で、ネズミの尿や糞が乾燥して空気中に飛散したり、ネズミに噛まれた際の唾液から感染します。主な症状は発熱や頭痛ですが、型によって重症度が大きく異なります。
「アメリカで勤務していた時に、ハンタウイルスの患者さんが運び込まれてきて1名だけ診たことがある」と話す塚本教授。この時の患者は北米型で、ヒトからヒトへの感染はしないタイプでした。
現在問題となっているのは、クルーズ船で発生しているアンデス型(南米型)です。主な症状は呼吸器疾患で、致死率はアジア型が3%から15%なのに対し、アンデス型は40%から50%と非常に高くなっています。
塚本教授は「イメージとしてはアンデス型はエボラぐらい怖いという認識。最初は風邪のような症状ですが、そこから急激に呼吸ができないような、ひどい肺炎のような状態に至る」と話します。
今回のクルーズ船の事案で特に気になる点が2つあると塚本教授。
1つ目は感染経路。
これまでハンタウイルスは、たとえば夫婦間やキス・ハグなどの極めて近い接触、「濃厚接触」で感染するとされていました。
しかし、過去には誕生日パーティーで約100人が参加し、そのうち15人が同じテーブルで食事をしていた際に感染した事例があります。感染者の半数近くが亡くなりました。パーティーの持続時間は90分で、「濃厚接触」とは言えない状況です。
「今回のクルーズ船も、夫婦間で亡くなっている方もいますが、同じテーブルで一緒に食事をしただけという方もいるのではないか」と塚本教授は話します。
2つ目はウイルスの変異です。
ハンタウイルスは体内で1日に数億個も増殖し、新型コロナウイルスよりも変異しやすい傾向があります。
では、新型コロナのようにパンデミックは起こるのでしょうか。
塚本教授は「現時点では可能性は低い」と見ていますが、北海道にもクルーズ船が入港しているため、水際対策・医療体制の見直しは必要です。
「コロナのようには感染力が強くないと考えられるので、あの時のような状況にはならない。ただ、まだ遺伝子解析が行われている最中なので100%とは言えない」とした上で、「日本にはアンデス型を引き起こすウイルスを持っているネズミがいない。ただ、北海道にはクルーズ船がたくさん来るため、感染者が知らないうちに来ている可能性がある」と話します。
ハンタウイルスの潜伏期間は2週間から8週間と非常に長いため、その期間中に感染を広げてしまうことがあります。
「稀な疾患なので、疑える人がなかなかいない。風邪の症状に似ているので、見分けがつきにくい」と塚本教授は指摘しています。
では、私たちが気を付けるべきことは何でしょうか。
現在、日本ではアンデス型は確認されていないため、これから登山やキャンプなどでアウトドアシーズンを迎えますが、必要以上に不安にならなくてもよいということです。
ただし、海外に行く場合は、渡航先で何かが流行っていないか事前に情報を得ることが大事です。
アンデス型は主にアルゼンチンで発見されていますが、気候変動で雨量が増えたことで、2025年に比べて感染が2倍になっています。
「雨の量が増えてネズミの個体数が増え、その糞尿が拡散し乾燥したものが舞っている状況。人間と生物、昆虫や動物の距離が近くなってきたという問題」と塚本教授は話しています。
クルーズ船での感染についてはわからないことも多いですが、原因の究明と水際対策が必要です。