プレスリリース配信元:九州歯科大学
公立大学法人 九州歯科大学(キャンパス:福岡県北九州市、学長:粟野 秀慈)生化学分野 古株彰一郎教授らの研究グループは、毛を剃ったマウスの背中にピロキシリン(※1)などの接着性材料(※2)を塗布すると明瞭な発毛が誘導されることを見出しました。この発見は、脱毛症などに対する新たな治療方法や発毛・育毛剤の開発に貢献できることが期待されます。本研究結果は、2026年5月11日付でSpringer Nature社が発行する雑誌Scientific Reportsに掲載されました。
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【本研究発表のポイント】
- ピロキシリンなどの接着性材料で局所塗布すると、塗布部位に一致して発毛が誘導される。
- ピロキシリンなどの塗布により、休止期にある毛包(※3)の毛周期(※4)が成長期へ移行する。
- この発毛誘導は複数のマウス系統、背部以外の皮膚、高齢マウスでも観察される。
- 1匹のマウスで複数の発毛誘導部位を評価できる。
【九州歯科大学 生化学分野について】
1952(昭和24)年に創設され、2017(平成29)年から現在の体制で新たにスタートしました。生命の最小単位である細胞が生物としてさまざまな機能を営む「しくみ」の解明に取り組んでいます。
【研究の背景】
薄毛や脱毛に対する社会的関心は非常に高く、毛髪再生や発毛促進に関する研究開発が世界的に進められています。一方で、毛髪の成長を制御する仕組みは複雑であり、薄毛や脱毛に対して十分に満足できる治療法が提供されているとは言えません。そのため、発毛や毛包再生を効率的に誘導する方法の開発が望まれています。
毛包では、毛を成長させる「成長期」、毛包が退縮する「退行期」、活動を休止する「休止期」からなる「毛周期」が生涯にわたり繰り返されています。薄毛や脱毛では、その成長期が十分に維持されないことや、休止期が長くなることが問題となります。そのため、どのようにすれば休止期にある毛包を効率的に成長期へ移行させることができるのかを調べることは、毛髪再生研究における重要な課題です。マウスは生命科学研究で広く用いられているモデル動物ですが、毛周期、とくに休止期が長いことから、自然に発毛が始まる時期を正確に予測することが難しいという課題がありました。
【研究の内容と成果】
九州歯科大学 生化学分野の古株彰一郎 教授を中心とした研究グループは、広島大学原爆放射線医科学研究所、中国四川大学華西口腔医院、東京科学大学、熊本大学発生医学研究所との共同研究として、毛を剃ったマウスの背中にピロキシリンなどの接着性材料を塗布すると、塗布部位に一致して明瞭な発毛が誘導されることを見出しました。
この発毛誘導は雌雄にかかわらず観察され、さらに複数のマウス系統、背部以外の皮膚部位、中年齢および高齢マウスにおいても確認されました。組織学的解析では、ピロキシリン処理後に皮膚の浅い領域を中心とした創傷変化と炎症細胞の集積が認められ、その後、毛包の伸長や脂腺を伴う毛包構造の形成が観察されました。また、発毛進行と並行して、毛周期や毛包形成に関わる遺伝子の発現上昇も確認されました。
これらの結果から、ピロキシリンなどの接着性材料が皮膚表層に局所的な刺激を与え、その刺激に伴う炎症反応などを介して、休止期にある毛包が成長期へ移行した可能性が示唆されました。
ピロキシリンは、これまでにも創傷被覆や固定など、ヒトに対して用いられてきた材料で、安全性に関する情報も蓄積されています。したがって、本研究成果は、将来的に局所的な発毛誘導法の開発につながることも期待されます。また、本手法では1匹のマウスあたり20ヶ所以上の皮膚部位で発毛誘導を評価できることから、薬剤の効果を検討する場合など、毛髪再生研究の効率化や動物使用数の削減につながる可能性があります(図:今回の論文のFigure 1Aより改変)。
<図>

【今後の展開】
この発毛誘導がどのような細胞応答や分子メカニズムによって起こるのかを明らかにしていきます。特に、皮膚表層の刺激がどのように毛包幹細胞(※5)に伝わり、発毛のスイッチを入れるのかを解析する予定です。また、本手法を応用することで、発毛促進物質の探索や薬剤評価に役立てるとともに、将来的には新たな毛包再生医療への展開を目指します。
<執筆責任者からのコメント> 生化学分野 古株 彰一郎教授
歯科大学で毛の研究を行っていることを不思議に思われる方も多いかもしれません。しかし、実は歯と毛は胎児期における形成過程が非常に似ており、発生学的に深い関連があります。実際に、歯と毛の両方に症状が現れる疾患も少なくありません。
本研究は、別の実験の過程で偶然観察された現象、すなわちセレンディピティーに端を発した研究でした。そのため、当初は毛の研究に関する実験ツール、ノウハウ、さらには研究領域の常識も十分に持ち合わせておらず、論文としてまとめるまでには多くの苦労がありました。そのような中で、本当に数えきれないほど多くの方々にご助言とご協力をいただきました。この場を借りて、心より感謝申し上げます。

古株彰一郎教授
【用語の解説】
※1 ピロキシリン:ニトロセルロースの一種で、皮膚表面に薄い膜を形成する性質を持つ。
※2 接着性材料:皮膚や組織の表面に付着し、乾燥や硬化によって膜を形成する材料。本研究では、
ピロキシリンのほか、複数の接着性材料を用いて発毛誘導効果を検討した。
※3 毛包:毛をつくり出す皮膚内の小さな器官。毛包の中には、毛の成長や再生に関わる細胞が存在
している。
※4 毛周期:毛が生え、伸び、抜け落ち、再び生え始めるまでの一連の周期。毛包はこの周期を繰り
返すことで、毛の成長と生え変わりを制御している。
※5 毛包幹細胞:毛包の再生や毛周期の進行に関わる幹細胞。休止期から成長期へ移行する際に活性
化され、毛の成長に主要な役割を果たす。
【論文題目】
題名:Pyroxylin shortens the resting stage of the hair cycle in mice
著者:Shoichiro Kokabu, Kunikazu Tsuji, Chou Ying-Ying, Ayako Washio, Tomohiko Shirakawa, Yusuke Ono, Quan Yuan, Osamu Kaminuma, Takuma Matsubara
論文雑誌:Scientific Reports
DOI: 10.1038/s41598-026-52804-0
【謝辞】
本研究は、文部科学省・日本学術振興会 科学研究費助成事業 22KK0141、25K02826、25K22695、鈴木謙三記念医科学応用研究財団、北九州産業学術推進機構、YMFG地域企業助成基金、熊本大学発生医学研究所共同利用・共同研究拠点、放射線災害・医科学研究拠点ネットワーク事業の支援を得て行われました。
【問い合わせ先】
九州歯科大学 生化学分野
教授 古株 彰一郎 (こかぶ しょういちろう)
E-mail: r14kokabu■fa.kyu-dent.ac.jp
※送信時は、■を@に置き換えてご送信ください。
【公立大学法人九州歯科大学について】
九州歯科大学は、全国にある歯学部、歯科大学の中で唯一の公立大学で、歯学科と口腔保健学科からなる「口腔医学の総合大学」です。私たちが考える歯学とは「口の健康」を通して、日々の生活を、幸せを支える医療です。歯学部並びに大学院歯学研究科において、歯学のプロフェッショナルの育成に取り組んでいます。また、併設する附属病院は1914年開設以来、地域に密着した歯科の専門性を持った中核病院として歩み続けています。
< 概 要 >
学校名 九州歯科大学
所在地 福岡県北九州市小倉北区真鶴2丁目6番1号
学長 粟野 秀慈
設立 1914年
HP https://www.kyu-dent.ac.jp/

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