人口全国最多の「町」にある議論が沸き起こっている
広島市にぐるりと囲まれた、全国でも極めて珍しい立地の安芸郡府中町。人口は5万1675人(今年4月時点)で、町として全国最多を誇る。町内には自動車メーカー「マツダ」本社や中四国最大級の商業施設「イオンモール広島府中」がある。
民間会社による県内自治体の住みここちランキングでは7年連続首位を獲得し続けており、子育て環境や生活利便性の高さが広く評価されている。
そんな府中町が今、大きな転換点を迎えようとしている。「町」から「市」への移行だ。
なぜ「市」を目指すのか――町長が語るねらい
府中町が「市」への移行を検討している背景には、今後見込まれる人口減少への危機感がある。1990年以降30年以上にわたって人口5万人以上を維持してきた府中町だが、少子高齢化の進行により、現状のままでは人口が減少していくと予測されている。寺尾光司町長は、市制移行によって〝イメージやブランド力〟が向上し、人口維持につながると説明する。
【府中町・寺尾光司町長】
「東京とか大阪から見れば、『町』といえば中山間地のイメージが強い。『市』ということになれば、広島駅から3キロということで、都市部であり大きな企業もあるということで、人・もの・情報をしっかり呼び寄せられると思っていて、そういった街づくりを進めていきたい」
一方で、日々の行政サービスの観点では「大きく変わることはほとんどない」としている。
「市」になるための条件とは
「市」への移行には、地方自治法と広島県条例の要件を満たす必要がある。「人口5万人以上」の要件についてはクリアしているが、県条例には「高校またはこれに準ずる学校が3校以上」という要件も定められている。現状、高校は県立安芸府中高校と通信制高校の2校。町内の専門学校が〝準ずる学校〟として認められるかどうかは、県との協議が必要な状況だ。
議会からも上がる慎重論
市制移行をめぐっては、町議会も慎重だ。
【府中町議会・力山彰議長】
「メリットが漠然としていて具体性がない。住民もなかなか納得しないと思う」
【府中町議会・二見伸吾議員】
「町が市になったからと言ってそのことだけで行政がよくなるわけではない。新たな自治体の名前がブランド力どころか、よくわからないような自治体の名称になってしまうのではないか」
【府中町議会・山口晃司議員】
「(一連の議論で必要なのは)府中町がどのように発展するかが想像しやすい話が出てくること。それをもとに住民の皆さんに説明して、その反応を大事にしていきたい」
議会が町に求めるのは、具体的な将来像の提示だ。
気になる「コスト」や自治体名の問題
市制移行に伴うコストも無視できない。過去に市制移行した自治体では、コンピューターシステムの改修や看板の修正などで2億円前後の経費が生じた事例がある。町は経費は国の特別交付税の対象となると説明しているが、現時点で具体的な算出は行っていない。
また、自治体名の変更も伴うが、「府中市」はすでに県内や東京に存在するため、市への移行が決まった場合は、新たな市名の検討も必要になる。
住民の声も賛否さまざま
実際に暮らす住民の反応も一様ではない。
【30代】
「安芸郡府中町というと県外の人からみると田舎のイメージが強いので、賛成」
【20代】
「町より市のほうが大きいイメージがあるので、悪くないと思う」
一方で、現状維持を望む声も根強い。
【80代】
「人口が全国最多の町という意味でネームバリューがある気がする。町として頑張っているところを見てもらえるのではないか」
【60代】
「名前が変わること自体がデメリット。今まで登録しているものをすべて変えなければいけない。そういう負の側面の方が大きい気がする」
今後のスケジュール
町は5月に有識者や地域団体、企業などを交えた審議会を設置し、自治体の在り方や市の名称について第三者的な視点からも検証を進める。6月以降には住民向けの説明会やアンケートを実施し、住民の意向を踏まえた上で判断する。市制移行が実現する場合、早ければ2028年度中になる見込みで、今後の議論が注目される。
テレビ新広島
