2020年11月3日に投票が行われたアメリカ大統領選挙。FNNプライムオンライン編集部では、専門家が現地の情勢を本音で語り合うオンラインイベント『ガチトーク』を6週連続で開催中。

11月4日(水)、アメリカでは開票作業が進められる中で開催された第6回(最終回)では、開票の途中経過をふまえ、明らかになってきた大勢の背景について議論した。アメリカ政治・外交、国際政治を専門とする慶應義塾大学総合政策学部の中山俊宏教授とフジテレビ報道局の風間晋解説委員の2人に加え、国際政治学者の三浦瑠麗氏をゲストに迎えてガチトークを展開。その内容をお届けする。

「勝手に勝利宣言」トランプ氏のSNS的戦術

フジテレビ・風間晋解説委員:
日本時間で4日夕方4時過ぎに、トランプ大統領の事実上の勝利宣言。勝手にやったらダメだろともいえますが、受け止めは。

慶應義塾大学・中山俊宏教授:
選挙結果の確定までに時間がかかるから、敗者は潔く敗北を認め、勝者は勝利宣言を行う。これはルールではないが、長年の間に生まれてきた権力の平和的移譲のための規範。それを完全にぶち壊すような行為で、トランプ氏はどこまでもトランプ氏だという感じ。

国際政治学者・三浦瑠麗氏
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国際政治学者・三浦瑠麗氏:
ツイッターでよくある、フェイクニュースを広めたとしても放置して流れていけばいいや、という非常にSNS的な感覚。平和的権力移譲のための伝統的な儀式がそこに使われてしまっている。

同時に、トランプ氏は支持者に対して「こんなに主力メディアが不利な報道をし続けたのに俺たちはやってやったよな」と呼びかけている節がある。これは真実を軽視する態度であると同時に、主要メディアが実際に党派的な報道をしてきたから、主張が支持者に説得力を持ってしまう。トランプ氏が接戦州をことごとく落として大敗していれば使えなかった戦術。

中山:
状況を混乱させ、法と秩序という言葉をもう一度発する状況ができれば、トランプ氏にとっては有利。今は民主党にストレスがかかっており、一触即発の部分がある。何かが起きれば有利だとトランプ氏の頭にあるのだろう。

バイデン氏が有利だと言われていたのに、なぜこの結果に?

風間:
バイデン氏が有利と言われていたが、結局それは外れて接戦に。 

中山:
バイデン氏が300前後の選挙人を取って勝つという読みが一番強かった。私は2016年に起きたトランプ氏の当選は逸脱だと思っていたが、2020年のこの結果を見ればアメリカの底流での変化を見誤っていたのかと反省せざるを得ない。トランプ支持者と一緒に時間を過ごしたり、その強さをわかっていたつもりだが、いずれ"消えていく存在"として見てたところがあった。またこの4年間のトランプをみたら、アメリカの良識が働くと思っていたが、その構図は全否定された。

三浦:
2016年と現在では構図が同じ。オバマ前大統領や民主党の候補者だったブティジェッジ氏のような新しい人が出てくれば変わりうるが、グリーン・ニューディールを政策として掲げても、バイデン氏自身が古すぎる。構図に変化の要素はなかった。2016年の構図と同じものは何かというと、経済的に中道からやや分配寄りで社会的には保守の人たちの票をトランプ氏が安定的に取ったこと。それが基盤化された。

ただ、前回のヒラリー氏とバイデン氏との間に異なる要素は多少あると思っていた。ヒラリー氏のメール問題をしつこく取り上げた反省にのっとって、メディアはバイデン氏に対する攻撃をほとんどしなかった。さらに女性だというだけで飛んでくる敵意というものがある。ヒラリーはいい人なのに、そこまで嫌うかと。周囲のリベラル派の男性も彼女を嫌う人が多かった。バイデン氏においてはその点がマシだったかもしれない。

三浦氏「バイデン氏の恐怖政治的コロナ対策はstupid(愚か)」

風間:
僕が今のアメリカの政治から感じるのは「やられたらやり返す政治」ということ。特にトランプ大統領の場合はオバマ前大統領を否定し、自分が今回再選されなければ民主党に全てやり返されるぞ、というポジションを取って戦っていたのではないでしょうか。

フジテレビ・風間晋解説委員

中山:
「否定する力」は何かを肯定するエネルギーよりも強い。トランプ大統領は明らかに、それをうまく政治的に使うセンスに長けている。確かに民主党は反トランプで盛り上がっていたが、それだけではダメだった、バイデン氏には「否定する力」は足りなかった。意識的にやらなかった面もあると思うが。

三浦:
そうですか? コロナで散々「恐怖キャンペーン」をやったじゃないですか。私は、バイデン氏のコロナ対策はstupidもいいところだと。経済的弱者を守る政党が、経済的弱者に一番ダメージの強いロックダウンをやるなんて。

お行儀のいいリベラルからすれば、「ロックダウン」とか「命は大事」と言っていれば喉元過ぎるとなんとなく思っているのかもしれないけれど、恐ろしいダメージがある。それなのにあそこまで恐怖を煽って、完全にpolitics of fear(恐怖政治)の世界じゃないかと思った。それが作用してここまで善戦した、というのが私のバイデン評です。

中山:
逆に、コロナがなければトランプ氏の圧勝だったかも。

三浦:
ここまで恐怖キャンペーンをやってバイデン氏が勝てないのなら、米国民の良識が働いた面も一部にはあるのでは。もちろん人種問題については、トランプ氏が非・良識のほうだと思いますけど。たとえば経済の面で投票した人がフロリダではそれなりに多かった。

右派と左派が分断する中で、経済的・社会的「中道」はどこに?

風間:
投票数がかなり上がったと見られている割には、若い人があまり行かなかったのでしょうか。

三浦:
BLMが暴動につながるという恐怖があれば、中間層の白人は焦ります。

普通に日本にいて大学人やメディア人をやっていると、リベラルな立場からトランプ支持者を無教養だと思いがち。だけどそれは間違いで、トランプ支持者は共和党員における亜種であるという考え方はたぶんもう成り立たない。

それを作り出してしまったのは、オバマ大統領の8年間「黒人に支配された」という感情。社会が多様性に振った後、自分たちの生き方を否定されたという思いを白人が強く抱くに至ったところに、さらに暴動が起こったことが大きい。

慶應義塾大学・中山俊宏教授

中山:
トランプ氏が勝てば、共和党の「トランプ党化」のプロセスが完成する。これは共和党が保守政党から反動政党に舵を切ることにほぼ等しい。民主党もヒラリー氏やバイデン氏という穏健派でダメだったので、思いっきり左に振れると思う。すると溝は限りなく深くなる。アメリカはどうやってひとつの大きなアクションを取っていくのでしょう。Divided states of Americaという感じです。

三浦:
順番論でいうと共和党が「ギングリッチ革命(1994年の中間選挙での共和党の圧勝)」で、社会保守主義で動員した中産階級の有権者から小さな政府に対する支持を取り付けた。その後、民主党支持者の経済的左傾化が起こった。それに対して、共和党支持者は中道より若干右寄りにいるだけで、極右の経済思想を持っている有権者はほとんどいない。

だから私みたいな外部の人間からすれば、トランプ氏の経済政策には合理性があると映る。そもそも民主党はどうしちゃったのか、なんで成長戦略の一丁目一番地が太陽光発電なのか、という。経済の常識から考えたらあり得ない。

中山:
経済の軸と同時にsocial justice(社会正義)の軸がある。ジェンダー、環境問題、人種問題。私は今の左傾化は、新しい傾向としてはそこを中心に起きていると思う。その点で共和党は、特にトランプ的なる現象は、中道右派ではなく右にぶれている。経済的には中道右派という説明は可能だが、この軸を持ち込むとかなり右にいて、一方で左派もかなり左にいる。この分裂はどうしようもない。

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