人口減少が進む富山県南砺市で、部活動の在り方が大きく変わろうとしている。学校ごとに競技を割り振る独自の「拠点校制度」の本格導入、そして地域クラブへの完全移行も。生徒・教員・保護者それぞれの現場から見えてきた、地域部活の可能性と課題とは。
◆8校に部活を割り振る「拠点校制度」とは
南砺市内には5つの中学校と3つの義務教育学校がある。少子化が進むなか、それぞれの学校に複数の部活動を維持し続けることはもはや難しい。そこで市が打ち出したのが、競技を学校ごとに割り振る「拠点校制度」だ。
たとえば女子バレーボール部は井波中学校に、柔道部は福野中学校にまとめられる。自分の校区にない部活動を希望する場合は、その部活がある学校へ校区を越えて入学することも認められる。自分の学校にない競技に挑戦できたり、安定したチーム編成で大会に出場できたりするなど、生徒にとってのメリットは少なくない。
さらにこの制度には、教員の長時間勤務を是正するねらいも重なっている。教員が顧問として担うのは平日2日間のみ。残りの平日2日と休日1日は「地域のクラブ活動」として行い、指導するのは原則、地域の指導者だ。
◆先行導入の福野中バドミントン部
この仕組みをいち早く取り入れたのが、福野中学校バドミントン部だ。2024年度から拠点校制度を先行導入し、毎週火曜・金曜は学校の体育館で45分ずつ練習。希望者は「クラブ活動」として月曜・木曜・土曜に近くの体育館で時間をかけて練習できる。生徒自身が勉強や習い事とのバランスを見ながら活動量を選ぶ仕組みだ。
「部活は時間が短いので1分1分を大切にしていて、夜練(クラブ活動)では2時間なので打つ時間も増えるし試合もできて楽しい」と話すのは中学2年の男子生徒。中学1年の男子生徒も「地域でバドミントンを長くやっている方から教われるのは良い点だと思う」「コーチと1対1でやれることもある」と目を輝かせた。
クラブを運営するのは南砺市バドミントン協会に所属する地元の指導者たちだ。この日8人の生徒に対して5人の指導者で指導にあたった。
福野地域バドミントンクラブ」の城方秀之代表は、「一人に対して指導者の目が行き届きやすい。子どもたちと接する時間や指導を深くできるのがメリット。量は限られているので、質で勝負」と城方代表は言う。「子どもたちには言われるだけでなく自分で考えることをやってもらえたら変わっていくのかな、と意識している」と話した。
◆顧問の時間は4分の1に
メリットは教員側にも及んでいる。バドミントン部顧問の岩崎和寛教諭は、これまで平日4日に加え土日も練習や遠征に対応していた。現在は週2回の学校での練習と月1回の遠征引率のみ。顧問として関わる時間は週約16時間から約4.4時間へ、およそ4分の1に減少した。
「夕方、生徒が帰ってから自分の仕事ができる」と岩崎教諭は話す。「部活動が減った分、家庭訪問や明日の授業の準備、テストの丸付けができるようになり、今まで家に持ち帰っていた仕事を学校でできるのが大変ありがたい」。
◆野球・サッカーは学校部活を廃止
一方、学校の部活から切り離して完全に地域へ移行した競技もある。南砺市は競技に必要な人数が集まらないとして、昨年、市内の野球部とサッカー部をすべて廃止。それぞれ新たなクラブを立ち上げた。
サッカーの「南砺FC」は市内全域の生徒を受け入れ、48人が所属している。平日3日間活動しており、市は指導者への謝礼金や施設の使用料を補助している。さらに南砺市外に住む生徒の参加も認めており、小矢部市や砺波市からも生徒が集まってくる。
砺波市から通う生徒は「転校する訳にもいかないのでここに来た。いつもの学校の人だけでなく様々な人と触れ合って一緒にサッカーできるのが楽しい」と話す。城端地域から参加する生徒も「大人数でやった方がポジション争いやライバル意識が生まれて、全員のレベルアップにつながっていると思う」と歓迎している。
◆保護者の本音
だが、課題も浮かび上がっている。8つの町と村が合併した南砺市は広大で、多くの生徒の送迎は保護者が担っているのが実情だ。
城端で洋菓子店を営む安居範光さんは、中学2年の長男・大翔さんを南砺FCの練習へ毎日送り届けている。城端から福光の練習場所まで約9キロ。徒歩では2時間かかる距離だ。「店は夜7時までなんですけど、送迎がある時は早く店を閉めたりしていますね」と安居さんは話す。「バタバタした時間にもなりますよね。お客さんも夕方に来られるパターンが多いので」。
スイミングに通う小学6年の長女と、3歳になったばかりの次男・蓮叶くんの送り迎えも家族で分担しながら乗り越えている。「送迎の間で息子たちとこうやって話ができることは、コミュニケーションをとる上で良いことなんじゃないかな」と安居さんは前向きに捉えている。ただ、近くに祖父母がいるため頼れる環境にある自分たちと違い、「頼るところがない家庭であればすごく大変なんじゃないか」とも語った。
安居さんが最も懸念するのは、送迎の難しさが子どもの選択肢を狭めることだ。「ハードルが少し上がることで、やってみたいという子が少なくなるところが問題なんじゃないかな」。「子どもたちの選択肢とやる気、取っ掛かりが薄れていくのが今後不安」という言葉には、一保護者としての切実な思いがにじんでいた。
◆解決策は「共助版ライドシェア」
南砺市教育委員会も、この交通問題を認識している。当初は電車やバスなど公共交通の活用を模索したが、運行ルートの難しさや、部活によっては練習場所がその都度変わるケースもあり、実現が難しかった。
そこで市が検討しているのが「共助型のライドシェア」だ。実態として多いのは、ある保護者が近くに住む複数の生徒をまとめて送迎しているケース。これをきちんと制度化し、車の保険や燃料費などを市が賄えるような仕組みにしようという構想だ。
南砺市教育委員会教育部の上野容男次長は「家族の都合が悪いと保護者グループの中で誰かにお願いするケースが実態としてある。それを制度として、保険や燃料費などを市で賄えるような仕組みづくりが良いのではないか」と話す。
例えば長崎県雲仙市では昨年、まちづくり団体や温浴施設、スポーツ少年団などで構成するプラットフォームが、温浴施設の送迎用マイクロバスを活用して部活の送迎を行う実証実験を実施。保護者からの反響が大きく、新年度からは1人1回200円で乗車できる形での本格導入を目指しているという。
南砺市はこうした先進事例を参考に、できるだけ早く制度を整備したい考えだ。
子どもたちが「やってみたい」と思った気持ちを、通えないという理由で諦めさせない仕組みづくりが、今まさに問われている。