耳が不自由な人に日常生活に欠かせない音を伝える「聴導犬」が広島県内で初めて誕生し、25日、お披露目式が行われました。広島で初めて誕生した聴導犬のデビューまでの道のりを追いました。
鶴村美恵子さん63歳。
耳が不自由な彼女の隣にいるのはパートナーの「グレース」です。
一見、ペットと暮らす日常に見えますが…
これは生活で必要とする音を伝える「聴導犬」になるための訓練です。
インターホンの音を聞き分け、鶴村さんを誘導します。
音のない世界で暮らしていくにはグレースの支えが必要不可欠です。
耳に何も不自由さを感じていなかった鶴村さん。
しかし、20代の時、突発性難聴を発症。
徐々に耳が聞こえづらくなり、59歳のときに右耳が完全に聞こえなくなり、左耳は補聴器をつけていてもほとんど聞こえない状態になったといいます。
耳が聞こえないことは見た目にはわからないため、周囲が理解してくれることは難しいのが現実です。
【鶴村美恵子さん】
「中途失聴なので、話せるので話せるのになんで聞こえないのって。聞こえてないけど、口の動きと、あと断片的に聞こえてることをつなぎ合わせて、こういうことを言われてるのかなっていうので答えてるんですけど。その部分ってわからないじゃないですか、他の人には」
外を歩けば、近づく自転車に気づけないこともよくあると言います。
【鶴村美恵子さん】
「ひとりで外を歩いていて自転車とぶつかりそうになったことが何回もある。実際にぶつかったこともあるし、ぶつかりそうになって怒鳴られたこともあるし」
忘れられないのは災害の時、大切な情報が届かなかったこともありました。
【鶴村美恵子さん】
「西日本豪雨の時に断水したんですよ。この辺も被災したので、その時に今からもうちょっとしたら断水しますよっていう放送があったらしいんですけど、わからなくて、水貯めたりできなかった。それがあって、気がついたら水が出ない」
必要な情報が耳を通して入ってこず不安な日々を過ごしてきた鶴村さん。
そんなとき、生活に必要な音を伝え命を守る大きな存在である「聴導犬」のことを知り、グレースと出会いました。
先月からはじまったトレーナーを交えた訓練。
トレーナーが玄関のチャイムを鳴らします。
しかし・・・トレーナーが気になるのか、音がする方向へ鶴村さんを導くことができません。
【トレーナー・砂田眞希さん】
「この状態で会話しても何も伝わらないのは、犬もいっしょなので、例えば、人同士だと、こっちに向いてもらってから要件を伝える。なので聴導犬も一緒で、グレースの場合は、まず自分のほうに注目をさせる。音が鳴ったら、ちょんちょんちょんと飛びつく。鶴村さんが、なになになにとなったら、何が鳴っているかが、わからないので、音源まで連れていく。そういう2つの作業をする」
グレースが鶴村さんに伝えるのは、インターホンや火災報知器など鶴村さんが生活する上で必要とする音だけに限定しています。
(火災報知機の音を伝えようとするグレース)
足で伝えたり伏せをしたりするなどして鶴村さんのまわりで何の音が鳴っているのか速やかに伝えます。
自宅以上に、難しいのが外の世界です。
なかなか思ったように歩かないグレースに鶴村さんも戸惑います。
【トレーナー・砂田眞希さん】
「こっちに行ったとき戻して、おやつで釣らないで」
【鶴村美恵子さん】
「緊張していたので、いつも通り歩かなくて、その様子にまた緊張して、すごく内心焦った」
【トレーナー・砂田眞希さん】
Q緊張すると…
「すごく伝わる」
【鶴村美恵子さん】
「すごく響きますよね」
【トレーナー・砂田眞希さん】
「すごく響く。いつも通りに、ということでもう一周だけ」
様々な音が鳴り響く飲食店では、静かに待機できるよう訓練することも大切です。
【トレーナー・砂田眞希さん】
「家でキッチンタイマーを教えているじゃないですか。そしたら、うどん屋さんとかお蕎麦屋さんの厨房からキッチンタイマーが鳴っていると、そわそわしたりする」
【鶴村美恵子さん】
「きょうは落ち着いている」
【トレーナー】
「きょうはタイマーの音がしないから」
グレースと過ごす音のない日常が、その世界を確実に広げていきます。
【鶴村美恵子さん】
「私は美術館とか博物館が好きなんですよ、水族館も好き。そういうところバンバン行きたいと思う」
見た目には障がいの状態がわからない耳の不自由な人たち。
そして、その暮らしを支える聴導犬がいます。
広島県内で初めて誕生した聴導犬に対する社会の理解がいま求められています。