夫が経営する化粧品店で働く妻と、同じ商店街で接骨院を営む男性。日常的に顔を合わせていた2人がやがて不倫関係に陥り、家族の平穏と店の行く末を揺るがす事態を招いた。
東京地裁は2025年12月、不貞行為を認め、被告となった男性に慰謝料200万円の支払いを命じた。争点となったのは、「賠償をしない合意」の有無と、生活圏の“近さ”ゆえにもたらされた原告の精神的苦痛への評価だった。
2度の話し合い、そして提訴
原告の男性は1996年に妻と結婚し、2006年に長男を、2011年に次男をもうけた。家業である化粧品店を経営していて、妻もそこで働いていた。
一方、今回の裁判で被告となったのは、原告が経営する化粧品店と同じ商店街で鍼灸接骨院を経営する男性だった。両店舗の距離は約34メートルと近く、いわば“ご近所”だ。
被告と妻は当初顔見知り程度だったが、2021年ごろから、妻が週1回ほど接骨院に通院するようになったのをきっかけに、施術時や被告が化粧品店に行った際に会話する機会が増えたという。その後、2022年末までに、2人で食事をしたりプレゼントを渡し合ったりする関係となり、ついには複数回の性行為に及んだ。
そして2022年12月末、夫が経営する化粧品店内で2人で会っているところを目撃され、不倫関係が発覚した。
年明けの2023年1月には、原告夫婦と被告男性、さらに被告の交際相手を交えて話し合いが持たれた。そこで原告は、お互いの携帯電話のやり取りの履歴を削除することや、受け取ったプレゼントの処分、二度と会わないことなどを当事者の2人に約束させた。
しかし、これ以降も2人は電話でのやり取りを続けていた。
8月、再び話し合いが行われ、被告男性は「2人の関係が商店街の噂になった場合、金300万円を支払う」と記した誓約書を原告側に差し入れている。
原告は2024年に、被告男性に損害賠償を求める訴訟を起こし、夫婦は最終的に2025年8月に協議離婚した。
家族の平穏が崩壊・・・原告主張
原告は、不貞行為により夫婦関係が悪化し、強い精神的苦痛を受けたと訴えた。
生活圏が同じ商店街という近さゆえ、日常の動線で相手と交わる可能性を常に意識せざるを得ず、近隣の目も気になったという。とりわけ子供の受験期に発覚したため、家庭内で不和を悟らせないよう振る舞うこと自体が負担だったとした。
また、創業者である父の思いを継いで2019年に開いた化粧品店は、家族の歩みの象徴でもあった。そこで2人が会っていた事実は重く、心情的に店を閉めざるを得なくなったと主張。こうした事情を踏まえ、慰謝料として500万円を求めた。
被告は「請求しない合意」訴え
一方で被告は、話し合いの場で、原告側が損害賠償を求めないことで合意が成立していたと主張した。
さらに、不貞関係は原告の妻側から求められたもので、自身は消極的だったことや、二回目の話し合い後の誓約書のやり取りを引き合いに、「これで終わる」との趣旨の理解があったと主張した。
また500万円という請求額の妥当性も争い、慰謝料の大幅減額または免責を求めた。
近接する生活圏が苦痛を増幅 裁判所の判決
東京地裁はまず、被告側が主張した「損害賠償をしない合意」の成立を否定した。
二度の話し合いの経過から、原告がそう述べた事実は認められず、誓約書も、口外を控える趣旨にとどまり、不貞行為自体の賠償を放棄するものではないと判断した。
次に、不貞行為の内容について、2人が施術者と患者という関係から発展し、少なくとも複数回の性行為があったと認定。被告の「消極的だった」という主張は、被告から食事に誘い、化粧品店に赴き、その場の雰囲気に応じて身体的接触をした事実関係から受け入れがたいとした。
また、原告の妻から積極的に求められたとしても、被告が支払うべき慰謝料額を左右する事情とはいえないとした。
夫婦関係については、関係発覚以前に破綻があったとは認められず、不貞行為が夫婦の不和の原因となり離婚に至ったと判断した。
2人の不倫関係の期間は比較的短いが、夫婦が離婚に至っていることや、子の受験期に発覚したため家庭内の配慮が必要になったこと、商店街内で起きた行為で近隣の目を気にし、原告が心情的に閉店に追い込まれたことなどを総合考慮。
東京地裁は2025年12月、同じ商店街で起きた不貞行為によって原告が被った精神的苦痛を認め、被告の接骨院経営の男性に対して200万円の賠償を命じる判決を言い渡した。
