東京都内の農地は2011年からの10年間で1190ヘクタール失われたとされる。

背景には農家の高齢化による後継者不足に加え、相続税の支払いのために農地を手放さざるを得ないといった大都市ならではの事情がある。

そうした中、農業経験がまったくない若者たちが、脱サラをして農家を目指すケースが増えている。

後継者不足の一方「新規就農者」増加

両親が農家で、脱サラをして農業を引き継ぐ形で就農する場合は、「親元就農」。

一方、両親が農家ではなく、ゼロから農業を始める人は、農外からの「新規就農者」と呼ばれる。

いま、こうした新規就農者になりたいという若者が増えている。

後継者不足で都内で減り続ける農地
後継者不足で都内で減り続ける農地
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東京都で新規就農者を目指す場合、まずは東京都農林水産振興財団や東京都農業会議で相談をする流れになる。

研修や支援制度もあり、研修中は、就農準備資金として、(月約12万5000円程度)の支援などを受けられる。

就農の見通しが立つと、青年等就農計画を区市町村に提出し、認定新規就農者を目指すことになる。

新規就農者の育成を行う「東京農業アカデミー八王子研修農場」では、募集定員5人程度に対して毎年約3~5倍の応募があるという。

自転車小売店勤務から脱サラ農家

新規就農者の1人、小澤揚徳さん(45)は以前は自転車小売店でサラリーマンなどをしていたが、子供のころから好きだった「さつまいも」を自分で作りたいと思い30歳の時に脱サラをして農家の道を選択した。

小澤揚徳さん
小澤揚徳さん

小澤揚徳さん
さつまいもが子供のころから好きでした。これを作って誰かに買ってもらって喜んでくれるならと思い脱サラしました。高齢化で、食料自給率も少ない 社会課題でもあり、やりがいのある仕事だと思ったのもあります。

専門学校で農業を学びはじめた小澤さんは都心で行われた農業フェアで、東京都でも農地を借りることができるうえ、行政からの支援もあり農家になれるということを知る。

その後東京都農業会議からの後押しもあり、40歳の時に新規就農者として認定された。

小澤さんの畑は、あきる野市にあるJR武蔵引田駅の近くにある。3月にはさつまいもの苗をビニールハウスで育てる作業を進めていた。苗が大きくなった5月ごろに畑に植え、9月末ごろから収穫が始まるという。

小澤揚徳さん
植え方は試行錯誤の連続です。どんなに近くても畑によって土質が微妙に違うので、育て方を間違えるとさつまいもにひびがはいってしまうこともあります。ひびが入ると売れません。技術は、本などで勉強もしますが、最近ではネットやAIで検索することが多いです。

小澤さんによると、畑の周辺には、脱サラして農家を目指す20代の女性など、若い就農者が8人ほどいるという。

最初は虫が苦手な人もいたというが、いまでは、野菜についた虫を手づかみでとるのが当たり前になったそうだ。

東京都が新規就農者を支援

東京都産業労働局農林水産部 農業振興課長・渋谷圭助さん
就農時に必要となる資材から、ハウスの設置、トラクター等の機器等の導入、スマート農業を図るための設備投資など、農業経営にかかる様々な経費への補助。普及指導員による技術指導のほか、基礎研修から高度栽培技術、経営戦略までステージに応じた研修制度、女性農業者の活躍支援など、東京都は農業に取組む方を全力で支援しています。

小澤さんによると、東京都などからの支援が充実しているため、新規就農者の多くは、就農時の投資負担が比較的少なく農家を始めることができているという。

小澤さんが耕作する畑は、約1.5ヘクタールとかなり広い。

高齢の農家から自分の畑も使ってほしい、と頼まれた畑が大半をしめる。

約1.5ヘクタールある小澤さんが耕作する畑
約1.5ヘクタールある小澤さんが耕作する畑

先祖代々の畑を託されるほど、小澤さんと地元農家の人との距離が縮まったのは、2019年の台風災害だった。

付近を流れる川の氾濫によって、流域の住宅で被害があり小澤さんは家の片づけなど地元の人たちと一緒に復旧作業を行った。以来、地域の人から祭りや集会のたびに誘われるようになったそうだ。

現在、小澤さんは江戸川区で区内在住者を対象に野菜の栽培講習もしている。

「将来、観光農園を開業して観光客を地元に呼び込むのが夢です。自分で育てたさつまいもで焼き芋を作っていきたい」と今後の目標を語る。

雑草や野生動物への対策

ただ、農業はやりがいばかりではない。栄養のある畑ではふつうの地面よりも栄養が豊富な分、雑草もよく育つ。1週間に一度、雑草取りの作業がかかせない。

さらに、野ネズミによる被害も深刻だ。

野ネズミがさつまいもを食べたり、ビニールハウスに侵入して苗をかじられたりする被害が絶えないという。

農業の担い手となる後継者の確保育成などを行っている東京都農業振興事務所 西多摩農業改良普及センター原島浩一さんは、野ネズミ以外にも、ハクビシン、イノシシ、アライグマなどが畑を荒らすケースがあるという。

原島さんは「ハクビシンやアライグマは民家の屋根裏や道路の側溝のほか、 使っていない小屋にも巣をつくります。空き家や放置された物置があると、畑をあらす野生動物が増える原因になります」と話す。

小澤さんは農業についてこう話す。

小澤揚徳さん
畑作業は、自然のなかで、やりがいを実感できる素晴らしい仕事です。地元の古い農家さんから様々なアドバイスをもらえますし、若い新規就農者同士で助け合ったり、農家って人のやさしさにふれることが多い業種だと思います。

農業分野で直面する後継者不足の問題は小澤さんのような新規就農者が増えていけば、解決の糸口の1つになるかもしれない。

(執筆:フジテレビ社会部 大塚隆広)

大塚隆広
大塚隆広

フジテレビ報道局社会部
1995年フジテレビ入社。カメラマン、社会部記者として都庁を2年、国土交通省を計8年間担当。ベルリン支局長、国際取材部デスクなどを歴任。
ドキュメントシリーズ『環境クライシス』を企画・プロデュースも継続。第1弾の2017年「環境クライシス〜沈みゆく大陸の環境難民〜」は同年のCOP23(ドイツ・ボン)で上映。2022年には「第64次 南極地域観測隊」に同行し南極大陸に132日間滞在し取材を行う。