県内屈指の観光地として知られる熱海。ただ、観光客が多いだけに、ひとたび災害に見舞われると多くの帰宅困難者が生まれてしまう。このため、市はこうした帰宅できなくなった観光客に配布するための防災備蓄品を新たに開発した。
災害時もスイーツで“ホッと”
熱海市が食品関連の企業などと共に2年の歳月をかけて開発した防災備蓄品・だいだいチーズケーキの缶詰。
斉藤栄 市長は「熱海の魅力を発信しながら、防災と地域振興を両立させる新しい取り組みだと考えている」と胸を張る。

追い求めたのは、万が一の際にも心が安らぐおいしさで、熱海市観光建設部の立見修司 部長は「交通障害等々によって、特に熱海駅での帰宅困難者の集中ということが考えられたので、頭を少し冷やしてもらう、落ち着いてもらえるように、甘いものがいいのではないだろうかということでチーズケーキにした」と話す。
観光地を襲う“帰れない”不安
2月8日。
強烈な寒波の影響で記録的な大雪となった熱海市。

同じく観光地として知られ、隣り合う伊東市では観光客が足止めされ、小学校の体育館などで一夜を明かした
地元愛が詰まった“一缶”
このように多くの観光客が訪れる熱海市や伊東市では、台風など自然災害によりひとたび交通網が麻痺してしまうと、いわゆる帰宅困難者が大勢出てしまうことが課題となっている。
ケーキを防災備蓄品とするのは全国的にも珍しい試みで、近年スイーツの街として名をはせる熱海らしい取り組みだ。
爽やかな酸味と香りを持つ市内で獲れた“だいだい”の果汁を使用していることが特徴で、見た目や味にもこだわり試作を重ねた。

開発に携わった国分中部に飯原恵之朗さんによれば「缶詰にすると、火を入れて圧力鍋みたいな工程になるので物が柔らかくなってしまう」ことが課題になったというが、非常に良い商品になったと自信をのぞかせる。

缶詰加工されていることで製造から3年間という長期保存が可能で、濃厚なチーズケーキをすっきりとした味わいに仕上げているほか、十分なエネルギー量も確保されていて、前出の立見部長は「帰宅困難な状況に陥ったとしても、熱海のことを悪い思い出ではなく、良い思い出にしてもらうために、少しでも心づくしのプレゼントに近いような形で用意した」と狙いを明かした。
困難を“思い出”に 熱海の心意気
全国的に進められている大規模な地震などを想定した帰宅困難者対策。
ただ、一時的な交通網の麻痺に伴い行き場を失った観光客を想定した対策はあまり考えられていないのが現状だ。

こうした中、内閣府は2026年1月、大規模地震以外のケースで発生した帰宅困難者対策のガイドラインを公表。
ここでは自治体や交通機関などが連携し、事前に体制を整えておくことが重要とされていて、斉藤市長は「災害が起こると心身ともに大きな負担がある。そのような状況だからこそ、甘いものが心を和らげる力を持っている。本商品が非常時において、少しでも避難されている人に安心と安らぎを届ける存在となることを願っている」と口にした。

熱海市では2025年度にまず“だいだいチーズケーキ”を3000個製造し、その後、毎年3000個ずつ追加することで、保存期間が過ぎていない缶詰を常に1万個ほど備蓄する考えで、 交通網の早期復旧が見込めない場合、観光客に無料で配布する方針だという。
