「白身のトロ」と呼ばれる高級魚ノドグロが、富山の実験場で世界初の完全養殖に成功した。すでに東京と大阪の店では期間限定で販売され、大ぶりなもので1万円ほどする姿焼きが1800円で提供され、評判は上々だ。しかし、この偉業の裏には11年にわたる苦労の物語があった。

富山湾の恵みが支えた世界初の成功

富山県射水市にある近畿大学水産研究所富山実験場。ここで11年前から続けられてきたノドグロの養殖研究が、ついに実を結んだ。

「10年かかったので大変なこともあったが本当にうれしかった。かわいらしいなと思う」と語るのは、同実験場の中村尚隆技術職員。現在、去年10月にふ化した稚魚およそ7000尾が5センチほどに成長している。

4年前、新潟の海で採取したノドグロの卵を人工ふ化させ、成長した魚から卵を採取し再度人工ふ化。去年、世界で初めて完全養殖に成功した背景には、富山湾の豊かな資源があった。水深100メートルから汲み上げる富山湾の海水は、夏でも20度を下回る冷たさで、深海魚であるノドグロの飼育に最適な環境を提供したのである。

想像以上に繊細な「のんびり屋」

水深200メートル前後の深海に生息するノドグロの養殖は、想像以上に困難だった。最大の課題は、その独特な性格にあった。
「エサを食べさせることが非常に難しい魚。他の魚だと水面が沸き立つぐらい勢いよく食べてくれるけど、この子たちゆっくりしか食べてくれなくて」と中村さん。のんびり屋さんというノドグロは、エサを与えても競い合うことはせず、あまり多くは食べない。照明の色や明るさを変えるなど工夫を凝らしているが、まだ大きな効果はなく、食べる気を起こさせる工夫が今後の課題だという。


さらに深刻なのは、ノドグロの極度の神経質さだ。飼育棟の天井には光を遮る遮光シートが張られ、成魚の飼育棟入り口にも黒い幕が設置されている。

「この幕がないと扉を開けた時に太陽の光が水槽に差し込んでノドグロがパニックで驚かせてしまうので」と説明する中村さん。パニックを起こすと「水面に上がってきて水槽の壁面にぶつかるようにアタックするように泳いで、最悪の場合そのまま死んでしまうこともあるナイーブな魚」なのだ。
能登半島地震で8000匹が大量死

研究過程では痛ましい被害も経験した。以前、夜に鳴った雷の光が差し込んだことでパニックを起こしたノドグロ3000尾が大量死。また能登半島地震では新鮮な海水を送る配管が壊れ、8000尾が死ぬ被害もあった。

「振動にも驚くのでエサやりから掃除まで驚かさないように気を使いながら飼育」している現状は、まさに神経戦だった。今年秋に産卵予定の成魚の水槽も、黒いシートで覆われている。
持続可能な漁業へー 今後の課題と明るい未来

完全養殖成功の一方で、新たな課題も浮上している。「人工ふ化で育てたノドグロは約97%がオスになってしまう問題がある」と中村さん。ノドグロはオスよりメスの方が成長が早く大型化するため、「生産効率を高めるためにメスを多く育てていくための技術開発が必要」だという。

それでも、7~8年後には完全養殖のノドグロが私たちの食卓に並ぶ見込みだ。東京と大阪の店で期間限定で販売されたノドグロを食べた客からは「めちゃ食べたい。家でも食べたい」「(ノドグロは)高級お寿司のイメージがあった。夫がどハマりしてたので(売っていたら)絶対スーパーで買います」という声が聞かれた。

持続可能な漁業をめざし、富山で続く研究。中村さんは「富山の皆さんにも食べてもらえる機会ができて富山生まれのノドグロを身近に感じてもらえたらうれしい」と話している。富山生まれ富山育ちの養殖ノドグロが、私たちにとって身近な存在になる日も近いかもしれない。
(富山テレビ放送)
