米国はウクライナ問題に関わるべきではないという意見が、保守派の間から上がり始めた。

ウクライナへの「不干渉」訴える声

FOXニュースの看板キャスターで、保守派の論客として知られるタッカー・カールソン氏は、18日に放送された自身の番組の中でこう言った。

今回のウクライナ危機の原因を考えてみましょう。なぜロシアが腹を立て、衝突の危機が迫っているのでしょうか?その理由はこうです。米国政府は長年にわたってウクライナをNATO(北大西洋条約機構)に加盟させるよう推し進めてきました。もしメキシコが中国に軍事的に支配されたらと考えてみてください。我々は当然、それを疑いもない脅威と受け取るでしょう。ロシアもNATOによるウクライナの支配をそう見ているのですが、間違っているでしょうか。それに引き換え我々は、ウクライナをNATOに押し込んでもなんら得なことはないのです。
(FOXニュース「タッカー・カールソン・トゥナイト」1月18日放送)

輸送機に積み込まれるウクライナへの物資(カリフォルニア州・トラビス空軍基地 1月22日)
輸送機に積み込まれるウクライナへの物資(カリフォルニア州・トラビス空軍基地 1月22日)
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この発言は大きな反響を呼び保守・革新双方から批判の声があがったが、カールソン氏は屈せず、21日には自身の番組で“ウクライナ不干渉説”を説いた。

昨日はロシアとウクライナの戦いという暗い話題について話しました。ワシントンでは超党派のネオコンの同盟が、この衝突を発火させるべく仕掛けてきました。米国の外交問題の当事者たちは数億ドルもの兵器を世界でもっとも不安定なこの地に送り込み、爆発が起きるのを期待して待っているのです。
その期待が叶う日が近いようです。爆発は起きそうですし、それは米国をいとも簡単に紛争の中心に吸い込むことになるでしょう。私は昨夜そう言ったわけです。しかし正直言って、信じられないことです。我々は本当に戦略的に意味のない地域の腐敗した国のために戦わなければならないのでしょうか。我々の国で他にもいろいろな問題を抱えている時にです。正常な人間ならばそんなことをするわけがないでしょう。それなのになぜそうなるのでしょうか。
(FOXニュース「タッカー・カールソン・トゥナイト」1月21日放送)

カールソン氏は「ネオコン(新保守主義者)」に対抗する「ペイリオコン(伝統的保守主義者)」で、外交的には「孤立主義」の立場をとり、かつてトランプ前大統領にアフガニスタン撤退を助言したと言われる。

バイデン政権の「ワグ・ザ・ドッグ」作戦?

ウクライナ問題に対しては、別の視点から疑問を挟む声もある。

この(バイデン)行政府は、ウクライナ問題を「ワグ・ザ・ドッグ」に利用しようとしています。

保守派のコメンテーターのジャック・ポソビエック氏は、19日に公開したポッドキャストでこう言及した。

ロシア軍の演習(ウクライナ国境周辺 1月21日公開)
ロシア軍の演習(ウクライナ国境周辺 1月21日公開)

「ワグ・ザ・ドッグ」とは、直訳すれば「(尾が)犬を振る」で「本末転倒」を意味するが、かつて同名の映画(邦題『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』)が、大統領のスキャンダルを隠すために米国が架空の戦争を始めるという筋書きでヒットした。

現実でも、ビル・クリントン元大統領が1998年8月にアフガニスタンとスーダンに爆撃を命じたが、それは同じ日に大陪審で行われたインターンの女性との不倫問題の聴聞から世間の関心を逸らすための「ワグ・ザ・ドッグ」だったと言われている。

ポソビエック氏は、ホワイトハウスのスタッフから得た情報として、行政府はその失地挽回と国民の関心を逸らすためにウクライナとロシアの間の緊張激化を利用していると、そのポッドキャストで語った。

彼ら(バイデン政権)は武装衝突を利用して米国の若者たち、あなたの息子や娘たちを戦地に送り込もうとしているのです。政権の国内的、対外的な信頼感を取り戻すために。

そして同氏はポッドキャストでこう警告した。

これは「ワグ・ザ・ドッグ」に他なりません。そしてウクライナで米国人が殺されるのです。ちょうど(アフガニスタンの)カブールで起きたのと同じように。私の言葉を信じなさい。

 こうした中、バイデン政権の新たな支持率が47%という世論調査の結果が23日伝えられた。
最近の平均支持率より5ポイントほど上昇している。それも、バイデン政権には厳しいFOXニュースの行った調査なので説得力がある。「ワグ・ザ・ドッグ」作戦が功を奏しているのかもしれない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。