中学受験でSDGsをテーマにした入試問題が増えている。SDGs(持続可能な開発目標)とは、2030年までに世界を変えるための17のゴールを国連が示したものだ。

先週の「世界に負けない教育」では、日本のデータサイエンスの第一人者、安宅和人氏がこんなことを語った。
「この地球はいまのままでは100〜200年後100%近く、sustainability(持続し続ける力)を失うんですよ。(中略)サステナビリティ問題がこれほど人類史上大事な時は無いのに、学ばない、考えないというのはありえなくないですか?」

地球が持続可能でいられるかどうかは、いまを生きる子どもたちの未来に直結する。では、SDGsについて、教育現場はどんな学びの場をつくっているのか?その答えを、“シカクいアタマをマルくする。”中学受験塾の日能研に取材した。

提供:日能研
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変わってきた入試問題

「もしあなたが国連の食糧問題の担当者だとしたら、日本の中学生に対してどのような活動をしますか。50字以内で書きなさい。」

これは大宮開成中学校が今年出題した社会の問題だ。

問いには「飢餓と貧困をなくすことを使命とする国連の世界食糧計画(WFP)によると、世界では9人に1人が飢餓に苦しんでいます。」とあり、SDGsの目標「飢餓をゼロに」するため、受験生それぞれが何をできるのかを問いかけている。

「『安ければいい』という基準で選んでしまう食べ物の例とその食べ物の問題点をあげて、『取り返しのつかないこと』がおきないようにするにはどうすればよいか、あなたの意見を100字以内で書きなさい」

これは、昨年、横浜女学院中学校が国語の問題として出題したものだ。

この問題では、「外国から入ってくる安価な養殖サケ」を取り上げ、「安さ」の裏側に何かリスクは考えられるかを問いかける。日常的に接する「食べ物」を通して、受験生はSDGsの目標「つくる責任つかう責任」「海の豊かさを守ろう」などを考えるのだ。

なぜ入試問題にSDGs?

 
 

中学受験塾「日能研」では2016年から「SDGs(世界の未来を変えるための17の目標)2030年までのゴール」という冊子を作り、中学受験をする子どもたちのSDGsへの理解を深めようとしている。日能研の高木幹夫代表になぜいま入試問題にSDGsなのか、聞いた。

ーーなぜいま中学入試にSDGsが取り上げられるようになったのですか?

これまでも中学受験の入試問題は、自由な出題がされていたんです。私立中学校はアドミッション・ポリシー(※)を持って入試問題を作っているので、学校それぞれの取り組みや教育活動が入試問題にあらわれてくるわけです。

(※)入学者の受け入れ方針

ーー私立中学は入試問題を通して、社会課題の解決に積極的に取り組んでいる姿勢を示しているということですか?

はい。もともと私学は、SDGsという概念が無い頃から社会課題に取り組んできましたし、入試問題も出していました。それにSDGsというスポットライトが当たりより明確になったことで、今年はさらに増えましたね。
 

 
 

ーー日能研では子どもたちにどのようにSDGsを教えているのですか?

教科は国算理社としていますが、教科を超えたテーマは環境系が多いです。環境系をテーマにしたプログラム、たとえば「学習応援教室」として、子どもが学ぶ場を作っています。また、教室の壁に「中学入試問題を入り口に考えるSDGs。“私”が動き出す!」と題して入試問題が貼ってあって、授業時間外に子どもたちが自分自身の「答え」を自由に付箋で貼ったりしています。

必ずしも解決できるわけではない問題を考える

 
 

ーー日能研ではSDGsの学びを通じて、子どもに何を伝えていきたいですか?

学校のテスト問題は「答え」があるので、ある意味必ず「勝利」できます。しかし今の社会問題は必ず解決できるとは決まっていません。だから「勝利」を目指して向かっていくと、そのうち向かう先がわからない子どもになってしまいます。

今の社会課題はずっと付き合い続けなければならないものです。ですから「勝利」に至らなくても、ずっと付き合い続けられることが大事です。そういう意味で、答えの出にくい問題、いろいろな意見が出せる問題、最終的には答えがあるかもしれないけど答えまでの距離が遠い問題を考える、そういうプロセスを楽しめることが大事だと伝えていきたいですね。

日能研では、子どもたちはSDGsを「難しい」と避けるのではなく、むしろ自分の考えを発表できる楽しさを感じ、仲間の「答え」に「答えは一つじゃないんだ」と刺激を受けてやりとりが深まっているという。

また、保護者はこれまでSDGsをテーマにした入試問題を「こんな問題がなぜ出たんだろう」と「変わった問題」扱いしてきたが、最近は「学校がこういうことを考えてほしいんだ」と意識が変わってきたそうだ。

「正解」のない問いに寄り添い続けなければいけない時代に、学校教育の現場も変わり続ける。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】
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鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。