レーダー照射問題は収束に向かいつつあるが…

1月22日午前 改めて日本の主張の正当性を強調する岩屋防衛大臣
1月22日午前 改めて日本の主張の正当性を強調する岩屋防衛大臣
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韓国海軍駆逐艦によるレーダー照射問題は、発覚からちょうど1か月となる1月21日、日本の防衛省が「協議を韓国側と続けていくことはもはや困難であると判断」すると最終報告書に記載し、収束に向かいつつある。「大人の対応(※防衛省関係者談)」を見せた防衛省は、レーダーを照射された際の音も公開したが、韓国側は「実態の分からない機械音」と一蹴し、協議の打ち切りと合わせて「強い遺憾の意」を表明した。

今回の最終報告書では、どうしても公開された音と協議打ち切りに目が行ってしまうが、防衛省はもう一つ、重要な点を明らかにしている。それは、「自衛隊の哨戒機が低空威嚇飛行をした」との韓国側の批判への反論だ。

矛盾?過去の同様の飛行に対しては抗議もしなかった韓国

韓国側は、12月20日に日本の哨戒機が韓国の駆逐艦「広開土大王」に「低空威嚇飛行した」として抗議し、謝罪まで求めている。日本はレーダー照射に対して再発防止のみ求め、謝罪を求めていないのとは対照的である。哨戒機が駆逐艦に最も近づいた際の高度は150メートル、距離はおよそ500メートルという事実関係は日韓で共通しているが、その評価は180度異なる。日本は「威嚇ではない通常任務」であり、韓国は「低空威嚇飛行」だと主張しているのだ。

防衛省の最終報告によると、韓国側になぜ威嚇飛行なのかと聞いたところ、「脅威を受けた者が、脅威と感じれば、それは脅威である」と客観性に欠ける説明を繰り返したという。防衛省はさらに、去年4月27日、4月28日、8月23日の3回、日本の哨戒機が、12月20日の事案とほぼ同じ高度150メートルと距離500~550メートルで駆逐艦「広開土大王」に接近して写真撮影したが、全く抗議を受けなかった事も明らかにしたのだ。

韓国国防省は去年12月24日の会見で、「異例で特異な飛行」だと批判した。しかし、去年4月と8月に、3回も同様の高度と距離で哨戒機は飛行しているのに、なぜ今回だけは「特異で異例」で「脅威」なのか?全く辻褄が合わない。防衛省は「レーダー照射に関する重要な論点を希薄化させるものと言わざるを得ない」と強く批判している。この指摘が図星ならば、レーダー照射を否定する韓国側の主張は虚偽である事が推認されるだろう。

韓国国防省はこの「矛盾」に対し、どう答えるのか?
 

防衛省資料より
防衛省資料より

「事実」が全く一致しない日韓

1月22日の定例会見で私たちは韓国国防省報道官に疑問をぶつけた。

ーー(フジテレビ)日本の防衛省は4月に2回、8月に1回の計3回、12月20日とほぼ同じ高度と距離で広開土大王艦の近くを飛行したが、その時は抗議を受けなかったと発表した。4月と8月の3回の飛行時に広開土大王艦から威嚇飛行を受けたとの報告が韓国側にあったのか、また、12月20日だけ威嚇飛行だと抗議しているが、以前の3回の飛行とはどんな部分が違うのか?

韓国国防省:まずその写真(防衛省が公開した4月と8月に撮影した写真)の正確な(撮影)位置、150メートルと500メートルの位置で撮ったものなのかが確認されなければなりません。 日本側は、私どもが毎回正確な事実が含まれている情報を提供してくれと言いましたが、正確な資料を提供しなかったです。それでこの写真がその時撮影されたその写真なのか、そして正確なその高度で撮られた写真なのかを、まず検証しなければなりません。

二つ目は、当時私たちは訓練中であったし、作戦中であったのは合ってます。そして哨戒機が来たことも合ってます。当時の飛行と今回の飛行はとても違いました。そして距離なども私どもが把握しているものとは非常に差があります。当時近くまできたとしても、距離が違ったし、今回の事例とは違って、そのような部分に対して総合的に考慮した時、今回の事例と前回の事例を同一に見ることはできません。

ーー(フジテレビ)具体的に距離はどう違ったのか?

韓国国防省:日本が明らかにしたものとは非常に差があります。 そのため正確にどんな地点で撮った写真なのかについて、日本側で確認してくれなければならない部分があります。

韓国国防省は会見で、「日本は毎回正確な資料を提出しない」と批判しながら、4月と8月の哨戒機の飛行は、防衛省が主張するような高度150メートル、距離500~550メートルではないと主張した。また韓国国防省関係者は「高度150メートルで、距離は1~2キロだった。日本側の数値を信じる事は出来ない」とも述べている。韓国国防省は、防衛省が嘘をついていると主張しているわけだ。レーダー照射の事実関係はもちろん、4月と8月の飛行についても、日韓の主張する「事実」は全く一致しない。

本当に再発防止できるのか?

 
 

日本か韓国か、どちらかが嘘をついている事になる。嘘つき呼ばわりされた防衛省の反論が出ていないので断言は出来ないが、これまでの両者の主張を見てみると、防衛省の主張にはブレが無いが、韓国側の主張は二転三転しており、信頼度が低い印象はある。象徴的なのは、火器管制レーダーの照射の有無についてだ。

韓国国防省は問題発覚当初、火器管制レーダーを照射したことを認めていた。韓国の通信社最大手・聯合ニュースなど大手メディアは12月21日と22日の記事で、「出動した駆逐艦は遭難した北の船舶を迅速に見つけるため火器管制レーダーを含むすべてのレーダーを稼働し、この際、近くの上空を飛行していた日本の海上哨戒機に照射された」との韓国軍の説明を記事にしている。その後、「火器管制レーダーは照射していない」「日本が低空威嚇飛行をした」と、韓国側が主張を一転させたのはご案内の通り。しかし、この主張の変遷を指摘する大手の韓国メディアの記事は、私が確認した限り皆無だ(保守派のフリー記者が運営するネットメディアでは、指摘はあった)。

日韓関係に詳しい韓国人の専門家は、「レーダー照射の有無については分からない」としながらも、「二転三転する国防省の主張について、韓国の記者がおかしいと指摘しないのは疑問だ。日本関連の問題で政府と対立する内容の記事を書くことが出来ないという雰囲気があるのなら、大きな問題だ」と話す。自国政府の主張でも、おかしいところはおかしいと指摘するメディアの健全な機能は、問題の再発防止の観点から見て不可欠だ。

頑なな韓国政府が態度を変える可能性はゼロに近いが、せめて防衛省が求めているように、偶発的な衝突時に備えた無線通信要員の教育や訓練など、(今回韓国側は「無線は聞き取れなかった」と言っているが…)韓国側が再発防止策を進めることを願う。

執筆:FNNソウル支局長 渡邊康弘

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渡邊康弘
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FNNプライムオンライン編集長
1977年山形県生まれ。東京大学法学部卒業後、2000年フジテレビ入社。「とくダネ!」ディレクター等を経て、2006年報道局社会部記者。 警視庁・厚労省・宮内庁・司法・国交省を担当し、2017年よりソウル支局長。2021年10月から経済部記者として経産省・内閣府・デスクを担当。2023年7月からFNNプライムオンライン編集長。肩肘張らずに日常のギモンに優しく答え、誰かと共有したくなるオモシロ情報も転がっている。そんなニュースサイトを目指します。