海中に広がる驚きの光景 「サメ、サメ、サメ」

千葉県館山市付近の海は黒潮の影響でたくさんの魚が集まると言われている。
また、サンゴが見られる豊潤な海としても知られている。

今回取材に訪れたのは伊戸漁港。
そこからわずか300メートル沖合の海中に信じられない光景が広がっていた。

日本では珍しく多くのサメと触れ合える、ここ館山の海は世界中からも多くのダイバーが集まる人気のダイビングスポットだ。
「シャークスクランブル」と呼ばれるサメの大集合は圧巻の一言。
エサ籠を開けると、カメラのことはお構いなしに、我先にと次々ぶつかりながら迫ってくる。
まさに大迫力の光景を目の当たりにすることができる。
サメとサメが交差し、次第にサメが作る渦は幾重にも重なり、時にはそれが上に重なり「シャークタワー」と呼ばれるほど高さが増す事もあるとか。

まさに、「サメの渦」がダイバー達を「感動の渦」へと誘うのだ。
 

 
 
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実は人を襲わないおとなしい性格 ドチザメ

このシャークスクランブルを作るのは主にドチザメという1メートルほどのサメ。その他にアカエイも見ることができる。
ドチザメは危害を加えない限り、滅多に人を襲うことのないおとなしい性格で、普段は海底でじっとしている事が多いという。

時折、海水浴場に現れてニュースになるお騒がせ物の一面もあるが、シャープな顔立ちにぱっちりした目でエサをねだるように寄ってくる姿は愛嬌たっぷり。
サメ=怖いというイメージを変えてくれる。

 
 

「厄介者」から「人気者」へ

実はこのシャークスクランブルが見られるようになるまでには多くの苦労があった、とダイビングサービス「BOMMIE」代表の塩田寛さん(54)が語ってくれた。

伊戸は元々、サメが多く、地元漁協は、定置網漁にかかるサメたちに悩まされていた。
サメは食用としての商品価値は無く、また網にかかった他の魚を食い荒らすほか、暴れて網を噛みちぎるなど、地元の漁師たちにとってはまさに「厄介者」だった。

そんな折、新たなダイビングスポットを探していた塩田さんと漁協が出会う。

漁協側からこの話を聞いた塩田さん、試しに伊戸の海に潜ってみたところ、あまりのサメの多さに驚いたという。
興奮した塩田さんに漁協側は「ダイバーがサメを見て喜ぶとは知らなかった」と逆に驚いたという。

これをきっかけに塩田さんは、地元漁協の協力で、漁で獲れたが売り物にならない魚をわけてもらい、それを餌付けすることでサメを一か所に集め、漁業被害を無くそうという試みを始めた。

警戒心の強いサメたちは、最初ダイバーに近づこうとしなかったが、時間をかけて徐々に戒心を解き、「ここに来ればエサがもらえる」という意識づけをすることでサメを集めることに成功した。
こうして、漁業被害はなくなり、新たなダイビングスポットができたことで、漁協側とダイバー側双方が喜ぶと共に、人が集まることで地域も潤うという相乗効果が生まれたのである。

みんなの力でついに「厄介者」は「人気者」に変わったのだった。

【アクセス】
千葉館山自動車道富浦IC出口からおよそ30分
東京駅発 京成成田行き千葉駅乗り換え内房線館山駅下車

サメは一年を通して見られる魚。水温が高い日の方が活発な泳ぎが見られる。

【問い合わせ先】
伊戸ダイビングサービスBOMMIEボミー
千葉県館山市伊戸962番地
電話 0470-29-1470

【撮影後記】
今までにいろんな海に潜って来ましたが、数え切れないほどのサメやエイが一か所で乱舞する光景を目にするのは初めて。
こんなに凄い海が、東京からほど近い千葉県にある事が、信じられないほど。
この日は、透視度が4-5メートルと低く、その上、潮流が速く撮影には不向きなコンディションだった。
ズーム(望遠)での撮影は困難と判断し、ワイド(広角)でサメに近づいて撮影する事にした。
結果的に、サメを至近距離から迫力の映像を撮ることができ、サメの躍動感を表現すること出来た。
(水中撮影担当 植之原カメラマン)

今回陸上と船上の撮影を担当しました。
水中映像の迫力もさることながら植之原カメラマンをはじめダイバーの方々が興奮した様子で海から上がってくるのを目の当たりにして、この海に惹かれる理由分かりました。
波が少々荒い中での船上での撮影となりましたが、陸からわずか数百メートルの地点にこんな世界が広がっているということを表現することに努めました。
(陸上撮影担当 増子カメラマン)

(取材撮影部 植之原・増子)