黒人を意味する差別用語「ボーイ」

バイデン前副大統領
バイデン前副大統領
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来年の米大統領選で、民主党側の候補者選びではジョー・バイデン前副大統領が優勢と伝えられるが、ここへきて過去の人種差別問題でつまづいた形になっている。

バイデン氏は18日ニューヨークで行われた支持者との会合で講演し「最近の政治には礼儀正しさが欠けている」と自分が上院の新人議員時代の経験を次のように話した。
「私はジェームズ・イーストランド議員と同じ派閥に属していたが、彼は私のことを『ボーイ』とは決して呼ばなかった。常に『サン(息子よ)』と言ってくれた。そこには礼儀正しさが残っていたので、私たちは意見の違いを乗り越えて仕事ができたのだ」

実は「ボーイ」という言葉は「少年」以外に「黒人」を指す差別用語として使われる。またミシシッピ州選出のイーストランド議員は、黒人を「劣等人種」とまで言った人種差別主義者として知られている。

コーリー・ブーカー候補「バイデン氏は、直ちに謝罪せよ」

コーリー・ブーカー上院議員(ニュージャージー州選出)
コーリー・ブーカー上院議員(ニュージャージー州選出)

つまりバイデン氏は人種差別主義のベテラン議員が新人の自分を「黒人」扱いしなかったから、当時は「礼儀正しさがあった」と言ったと受け止められ、民主党の候補を争う相手から非難の声が上がった。

「黒人を『ボーイ』と呼ぶことは冗談にもならない。白人優越主義を永続化し、アフリカ系米国人から人間性を奪い取るだけだ。(中略)正直言って、バイデン氏が直ちに謝罪しなかったことに失望するばかりだ。彼の言葉は多くの米国人に不快な思いを蘇らせたからだ。謝罪すべきだ」

黒人の大統領候補のコーリー・ブーカー上院議員(ニュージャージー州選出)はこのような声明を発表したが、バイデン氏は「何に謝罪するのだ」と反発している。

人種差別撤廃に消極的だったバイデン氏

この問題は、バイデン氏自身の人種差別問題にも火をつけることになった。

バイデン氏は、新人上院議員時代の1977年に「反バッシング法案」を提案した。「バッシング」というのは、教育上の差別撤廃のために白人居住区の生徒を黒人居住区の学校に、黒人生徒は白人居住区の学校へバスで通学させるというもので、当時から「逆差別」との反対論が白人社会から上がっていた。

バイデン氏の法案は裁判所がバッシングを強制できないようにするというもので、上院で賛同者を集めるのに努力したが僅差で実現できなかったが、その過程で上院司法委員長だったイーストランド議員の助けを得たようで、最近同議員に当てたバイデン氏の手紙が発見されていた。

「今回の反バッシング法案について、委員会での審議にご助力賜ったことに心より御礼申し上げます」

この手紙は、バイデン氏が人種差別主義者のイーストランド議員とは立法の助けを得る仲で、自身も人種差別撤廃には消極的であったことを裏付けたことになり、これから本格化する民主党の候補選びに出足でつまづいた形になった。

バイデン氏をめぐっては、他にも二男のハンター・バイデン氏の中国やウクライナとの金銭疑惑も取りざたされており、今は支持率でトップを走るものの先行きは波乱含みのようだ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】

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木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。