家づくりの新しいビジネスモデルに迫った。

環境負荷も中間コストも軽減

幕末から明治維新にかけ、日本の変革をけん引してきた鹿児島。新たなイノベーションを構築する気風は今も満ち溢れていた。

背の高い木々に挟まれた山道を抜け、見えてきた巨大な工場。この施設で今、林業や建築業のこれまでの常識を覆す取り組みが行われている。

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"住宅の素材"となる丸太が積まれた場所から歩くこと約3分の同じ敷地内に、家を輪切りにしたようなものがたくさん並んでいた。

三菱地所など7社が設立した、総合木材会社「MEC Industry」が始めた新たな取り組み。

まず、丸太を製材し、床や天井、パネル材などに加工。
それらを組み立てて躯体を製造し、内装工事まで行い戸建住宅のユニットが一気通貫でできあがる。

これを現場で組み立てれば立派な平屋建てが完成するというのだ。

例えばこのモデルルームの15畳のリビング・ダイニングは、3つのユニットからできている。
供給網の川上から川下までを統合することで、環境負荷を軽減するばかりかこれまでよりも中間コストを抑制することも可能になった。

街と森林の架け橋に

MEC Industry・小野英雄社長:
工場で生産することで、より良い製品をローコストでお客様に提供できると考えております。これまで木の利用がなかなか進んでいなかったというところがあって、その結果、山にお金が落ちて行かなくなって労働力も増えて行かない。国産材の需要が増えて来れば、もう一度山に着目してまたそこに就業者が戻ってきてくれればいいかなと思います。

廃校となった高校の跡地を活用し建てられたこの工場には、約100人が勤務。その7割以上が地元出身で若いスタッフが目立つ。

1年目の地元出身のスタッフ:
友人が福岡で働くということだったので、自分もそこを考えてはいたんですけど、家からも近かったし製造職につきたいというのもあったので、大きな会社ができたのでここに。

県内在住の女性スタッフ:
自宅と近い方が働きやすいので、県内にこういう会社があれば県内で働きたいですね。

国産材に注目し、また地域に根ざすことで、地方の課題だった次世代の人材育成も期待できる新たなビジネスモデル。

MEC Industry・小野英雄社長:
都市部で木を利用することで、山の木を伐って街で利用してまた山に木を植えるという形で森林のより良い循環を促していく。 街と森林の架け橋になっていく役割を担っていきたいと考えています。

中間マージン削減と品質安定

三田友梨佳キャスター:
コミュニティデザイナーでstudio-L代表の山崎亮さんに聞きます。
今回の試み、どうご覧になりますか?
 

studio-L代表・山崎亮さん:
これまで"木の家"をつくるには、森で伐採した木を麓まで降ろし、平場の製材所で製材して材木を建設現場に運び、そこで組み立てて住宅を作ってきました。
今回の取り組みはかなり効率的に住宅を建てることに繋がると思いました。

三田キャスター:
家づくりの常識が変わるきっかけになるかもしれませんね。
 

studio-L代表・山崎亮さん:
日本の住宅は相対的に高価なため、コストを下げようとすると工業的な材料を使った規格化住宅になることが多かったんです。

また、"木の家"は職人の技術が要りますから、腕次第で良い住宅にも、いわゆる欠陥住宅にもなってしまう場合もありました。

それが今回の取り組みなら中間マージンが削減できて、職人の腕によらず工場で住宅ユニットをつくるため、品質に違いが起こりにくくなる可能性があります。
 

三田キャスター:
ただ、品質に間違いのない家が出来るのは歓迎ですが、家づくりから個性が失われてしまうと懸念する方もいるかもしれません。これについては、いかがですか?
 

studio-L代表・山崎亮さん:
確かに「家を工場で作るの?」「働く人から家をつくる喜びを奪っていませんか?」などの懸念の声があるかもしれません。

実は歴史を振り返ると、昔から工場生産による家具や空間の提供については、職人仕事との間に葛藤がありました。
19世紀のイギリスでは産業革命の結果、安いけど粗悪な工業製品があふれ、その反動から職人の手仕事に回帰しようという「アーツ・アンド・クラフツ」という運動も起きました。

しかし、その後は機械生産の技術が上がり、工場でのモノづくりでも良いのではという潮流になり、今では「手仕事」と「工場生産」は両立することが分かっています。
 

三田キャスター:
今回の取り組みも家族と一緒に暮らす夢の空間として広く愛されていくかもしれませんね。
 

studio-L代表・山崎亮さん:
職人が腕をふるった注文住宅もあれば、工業的な材料を用いた規格化住宅もある。
さらに地球にも人にも優しい"木の家"でありながら、コストを抑えることも出来る今回のような取り組みも始まった。

家は人生で最大の買い物という言葉があるように、高い買い物なので選択肢が広がることを歓迎したいです。
 

三田キャスター:
日本の森林面積は国土の3分の2にあたる世界有数の森林大国です。未来を見据えた企業の取り組みを通して、林業が抱える課題解決にも期待が高まります。

(「Live News α」8月23日放送分)