東京オリンピックも残りわずかとなった6日、IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長が会見に臨んだ。閉幕前にIOC会長が大会について語る恒例の会見だ。
そこで垣間見えたのは“ぼったくり男爵”ともやゆされるバッハ会長の本音だった。
何世代にもわたって五輪の恩恵を受けられる
バッハ会長:
「(東京オリンピックは)私の期待を大幅に超えたものだった。日本側の大会準備を疑ったことは一度もない。最も準備ができている大会だと申し上げてきたが、その通りだった。会場もボランティアも素晴らしかった。模範的だった。もちろん大会に関しては色々問題があったが、円滑に行われた。期待通りだった」
最上級の褒め言葉で日本側を持ち上げたバッハ会長。しかし開催都市の財政負担に関する質問になると顔色が曇った。日本人記者から現在のオリンピックは開催都市の負担が大き過ぎないかと問われたからだ。
バッハ会長:
「オリンピックにおける投資はオリンピックムーブメント(IOC)とホスト国(日本)または開催都市(東京都)で公平に分けられている。新しい会場の建設もこの投資に含まれていて、日本国民や東京都民は何世代にもわたって恩恵を受けられるだろう」
バッハ会長は、選手村や新たに整備された会場は日本国民や東京都民が何十年にもわたって使用できるから大会の代償とは言えないと主張した。しかし大会後、新たに整備された競技会場のほとんどが赤字の見通しとなっている。
中止でも…保険を使えばIOCの損失はなかった
さらにバッハ会長は「大会が中止されていたら…」と前置きしてから、これまで公表されてこなかった「保険」について触れた。
バッハ会長:
「もし大会が中止されていたら、誰も日本や東京には来なくなり、東京にとって、日本にとって、スポンサーにとっても露出の機会は無かっただろう」
バッハ会長:
「一方で(延期決定)当時、IOCにとって(大会の)中止はむしろ簡単な解決策だった。保険を使えばIOCの損失はなかったから。しかし、我々は保険を使わず、アスリートのために大会を実現すべく、銀行からの支援を受けてさらに8億ドル(約880億円)の追加投資をした」
たしかにIOCは延期に伴い約880億円を拠出している。しかし、そのほとんどは各国・地域のオリンピック委員会(NOC)を支援するもので、日本に対して拠出したものではない。
延期してでも開催したのは“日本のため”
バッハ会長:
「日本と東京が世界中の人々に対して、日本人がどのように頑張ってきて、この状況でも頑張っているのか示してもらおうと思った」
大会延期に伴い、日本側は2940億円の追加経費を負担し、開催経費は1兆6440億円に上る。無観客開催により約900億円のチケット収入のほとんどを失い、大会予算の赤字は必至だ。
アメリカのワシントン・ポスト紙のコラムで“ぼったくり男爵”とやゆされたバッハ会長。延期してでも開催したのは“日本のため”と強調して、7日に行われる女子マラソンの会場、札幌市に向かった。
(経済部 オリンピック・パラリンピック担当 一之瀬 登 谷リサ子)