メルカリと東大が“風船バイク”を開発中
風船のように空気で膨らませるとバイクが完成し、それに乗って出かける。
夢のような話だが、このような乗り物の開発が今、進められている。新たな乗り物「poimo(ポイモ)」の開発を進めているのは、メルカリの研究開発組織「mercari R4D」と東京大学の研究グループ。
「poimo」は、車体から車輪まで多くの部分を“風船の構造”で構成した、乗り物。
軽くてやわらかいという“風船の構造”の特性を活かし、普段は小さくたたんでしまっておき、必要な時に取り出して膨らませるという、これまでにない使い方が可能だ。

この「poimo」について、研究グループは“電動バイク型”と“手動車いす型”の開発を進めている。

このようなやわらかい乗りものを実現するため、研究チームは、従来は硬質な素材で構成されていた車輪やステアリング(ハンドル)などを、“風船の構造”で製作する手法を開発。
使用しているのは、「ドロップスティッチファブリック」と呼ばれる、布と樹脂の複合素材だ。高い空気圧に耐え、高い強度を持つため、簡単にパンクすることはないという。
最高速度は「時速6km」 総重量は約9kg
電動バイク型の動力となるのは、小型のモーター(小型ブラシレスモータ)とリチウムイオン電池。
最高速度は「時速6km」。1回の充電で、約1時間、走行できるという。総重量はおよそ9キログラム。折りたたみ電動スクーター並の重さとなっている。

さらに、乗るポーズをとるだけで、自分の身長や姿勢に合わせた大きさと形状の乗り物をオリジナルでデザインできる専用のソフトウェアも開発。
例えば、電動バイク型の「poimo」をデザインする場合、バイクをイメージしながら、いすなどを使ってそれに乗るポーズを取る。
ソフトウェアは、そこから姿勢の3次元情報を抽出し、ポーズに合わせた形状・大きさの乗り物を自動的に設計して3次元モデルとして画面に表示。
提案されたデザインをもとに、ハンドルや座席の位置などをさらにカスタマイズすることができるというのだ。

この近未来を感じさせてくれる乗り物。どのような使い方を想定しているのか? 「mercari R4D」のプロジェクト担当で責任者の山村亮介さんに話を聞いた。
「人に優しい乗り物になるんじゃないか」
――このような乗り物を開発しようと考えたのはなぜ?
「mercari R4D」も参加させていただいた「ERATO川原万有情報網プロジェクト」の合宿で、東京大学の講師・新山龍馬さん、学術支援専門職員の佐藤宏樹さんが研究されている、ソフトロボティクスの研究成果と車いすをかけ合わせれば、「風船の構造で車いすが作れ、乗る人にも周りの人にも優しい乗り物が作れるんじゃないか」というアイデアが出たのがきっかけです。
そこから、“使いたい時に膨らませて、持ち運べる乗り物”は「人に優しい乗り物になるんじゃないか」という話になり、今、公表しているようなプロトタイプになりました。
――やわらかい素材を使うと、どのようなメリットがある?
例えば、人などへの衝突を考えた場合これまでの金属・樹脂のような硬質な素材と比べ、衝撃力をやわらげることができるなど安全性の向上が期待できます。
――継ぎ目から空気は抜けない?
接着剤で内部の空気を密封し、外への空気漏れを防いでいるため、通常使用の範囲では空気が抜けることはありません。
――どうやって空気を入れる?
市販されている手動、もしくは電動の空気入れです。パーツの数にもよりますが、1つのパーツは手動の空気入れで、30秒程度で膨らみます。

100キロ程度の重さに耐えられる
――車輪と車体の強度は?
100キログラム程度の重さに耐えられます。それ以上は実験装置の限界があり試験できておりません。
――砂利道、階段などは走れる?
砂利道は、摩擦係数が低く、グリップができないため、走れません。階段は、自転車、バイク、電動キックボードと同じく、走ることを想定しておりません。
歩道の段差程度は走行できるように改良を進めています。

――どのような場面での使用を想定しているの?
以下のような使い方を想定しています。
・通学や通勤で持ち運んで、電車やバスを降りてから使う
・旅行先に持っていって使う
・キャンプに行った先で使う
・軽量な車いすとして使う
・荷物の搬送に使う
実用化への課題は?
――現時点で見えている実用化の課題は?
「公道走行などの規制」「もう少し簡便に使えるようにするなどの利便性」「どんな方でもすぐに乗りこなすことができるという走行性能」が課題です。
――いつ頃の実用化を目指している? 販売価格はいくらぐらいになりそう?
研究段階のため、未定です。
膨らませればバイクや車いすのサイズになり、空気を抜いて折りたためばコンパクトに収納…手軽に持ち運びが可能だという、夢のような乗り物「poimo」。実用化の見通しはまだ見えていないが、実用化すれば、“移動”という概念自体が変わるかもしれない。
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