勢いが止まらない世界的な抹茶ブーム。海外からの爆買いや、抹茶商品の人気で盛り上がる一方で、私たちの日常生活に欠かせないお茶が密かに危機を迎えています。
抹茶の原料確保のため、他の茶葉の生産量が減り、価格が高騰する事態に発展。回転寿司店の無料サービスや、ペットボトル飲料まで影響が広がっているのです。
■無料サービス“お茶”の価格が1.5倍に 飲食店の悩みのタネに…
昼時の回転寿司店で客は「美味しい」と寿司を頬張っています。しかし、今日の主役は寿司ではなく、その横に添えられたお茶です。
【客】「最初に一口飲んでからお寿司頂きますね」
【客】「お寿司にお茶は絶対欠かせないです」
お寿司を食べる際に欠かせないお茶。しかし、この無料サービスが店舗にとって悩みの種となっています。
【北海素材御影クラッセ店 副店長】「昔(4~5年前)に比べるとだいぶ金額は上がってるかなと。価格としては1.5倍ほど」
あらゆるものの物価高が続く中、お茶の価格上昇には特殊な理由があります。それが、世界的な抹茶ブームです。
■「シルバー色に変わった」抹茶ブームで茶畑の異変
京都府和束町で起きていたのは、茶畑の異変です。
【上香園 岡田文利代表】「全部、黒とかシルバーとか、色が変わってますよね、これが、全部抹茶になる『てん茶』」
畑をおおうシートは抹茶の原料となる茶葉を作るためのもの。抹茶ブームに合わせ、より多く抹茶を生産するため、風景が大きく変わっていました。
抹茶の生産量を増やした結果、抹茶以外のお茶が減り、価格が高騰する事態に発展しています。
■海外から「茶葉100キロ購入したい」 “抹茶バブル”も生産者は複雑な思い
春に向け休眠中の茶畑。しかし、農家には世界各国からSNSやメールで抹茶の大量購入依頼が殺到しています。
【上香園 岡田文利代表】「『グラムじゃなくてキロでほしい』と。『良い抹茶だったら高くなりますよ』と、『結構ですよ』と、『1キロですか』と、『いや50キロ、100キロです』と」
50キロ、100キロという注文も珍しくなく、抹茶ブームは「抹茶バブル」と呼べる状況に発展。しかし、農家の思いは複雑です。
【上香園 岡田文利代表】「今までの顧客がいますから、(海外には)余ったやつを売っている。売れるけど、せっかく精魂込めて育てたお茶を、お金もうけのためだけに扱ってほしくないなと」
■“お茶”産地の道の駅でも「原料の確保が難しい」
良いお茶の「仕入れ」は、以前よりはるかに難しくなっています。
京都府南山城村にある道の駅では、地元のお茶を使った商品が人気です。特に抹茶を贅沢に使ったパウンドケーキや濃厚な抹茶プリンは大人気商品となっています。
【株式会社南山城 森本健次代表取締役】「原料にこだわって、茶の良さを引き立てるような商品作りをしてます」
しかし、抹茶の人気が高まる中、原材料の確保は難しくなっています。
【株式会社南山城 森本健次代表取締役】「激変を感じますね。ほうじ茶プリンの原料を一軒の農家さんからお願いしていたが、その方も今度、抹茶の原料になる“てん茶”に重心を置くので、新たに代わりの物を探さないといけないというのが、課題として出てきている。安定して調達していくっていうのが、すごく難しいなって感じますね」
■「宇治茶」の文字が消えた老舗ブランド
京都のお茶の有名店「祇園辻利」では去年、ある変化がありました。
【祗園辻利 三好雄大専務取締役】「祇園辻利と書いてるロゴなんですが、“宇治茶”というロゴが外れまして」
商品に使用する京都以外の茶葉の割合が増え、こだわってきた宇治茶の定義に一部が当てはまらないと判断。その分、伝統の味を守ることに力を入れていると言います。
【祗園辻利 三好雄大専務取締役】「高くなったお茶を同じ品質で、それなりの価格でお届けできるか考えて、“宇治茶”にこだわることはないんじゃないか」
■ペットボトルにも押し寄せる値上げの波 原因は「秋冬番茶」が去年の6倍
価格の高騰が止まらないペットボトルのお茶。去年10月に「伊右衛門」が180円から200円に値上げし、さらにことし3月からは「おーいお茶」、「綾鷹」の値上げも決まっています。
取材をすると見えてきたのは、ペットボトルのお茶を支えてきたある「茶葉」を襲う危機でした。
【ライフドリンクカンパニー 浅井祥平執行役員】「過去数十年を見ても異常な価格」
ペットボトル飲料を販売するメーカーが、深刻なコストアップの要因として挙げたのが「秋冬番茶」です。
【ライフドリンクカンパニー 浅井祥平執行役員】「二番茶から秋冬番茶を、独自の比率で配合して使っている。秋冬番茶(の市場価格)が昨年に比べて約6倍」
秋冬番茶とは一番茶、二番茶と収穫が続いた後、秋ごろ最後に摘み取られるもの。比較的安価なことが特徴で、ペットボトル飲料に多く使用されます。
しかし、その秋冬番茶の取引価格が去年突然高騰。本来最も高価な一番茶と並ぶ価格となっているのです。
【ライフドリンクカンパニー 浅井祥平執行役員】「(今後は)海外産の使用であったりとか、調達先の変更も検討している」
■「値段はしばらく安定しない」と専門家指摘
安さが売りのお茶も例外ではない「抹茶ブーム」の影響。お茶の専門家は「秋冬番茶の値段はしばらく安定しないだろう」と指摘します。
【横浜県立大学 中村順行教授】「今年てん茶をもむ機械を買ってしまったら、来年使わないわけにいかない。何千万という投資をしますので。少なくとも抹茶のブームは来年あたりまで尾を引いていくと思う」
世界で存在感を示す日本のお茶。しかし、その人気の高まりが日本国内での価格高騰を引き起こし、私たちの身近な存在であるお茶との距離が生まれつつあります。
(関西テレビ「newsランナー」2026年1月26日放送)