マカオの“飛び地”が中国本土に相次ぎ登場

カジノの街として有名なマカオ、2019年末中国返還20周年を迎えた。一国二制度によって今も中国とは法律が異なり、中国とマカオの境界には出入境施設が設けられている。同年、中国はマカオ対岸に位置する広東省珠海市の経済開発区「横琴新区」の税関施設周辺をマカオに貸与することを決めた。

面積は約16万平方メートルで、東京の日比谷公園とほぼ同じ大きさ。この中ではマカオの法律が適用され、いわばマカオの“飛び地”にあたる。2020年3月には3段階のうち最初の部分が引き渡された。貸与期限は2049年12月までだが、延長も可能だとされている。

中国側にある税関施設周辺がマカオの“飛び地”に
中国側にある税関施設周辺がマカオの“飛び地”に
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実はこのすぐ隣にも2013年に認められた“飛び地”が存在する。横琴新区に設けられたマカオ大学のキャンパスだ。周囲は高い壁で囲われ、自由に出入りができないようになっている一方で、マカオ側からは専用の海底トンネルで自由に行き来が出来る。

キャンパス内ではマカオの法律が適用され、敷地は中国本土にありながら完全にマカオの一部となっている。

横琴新区にあるマカオ大学キャンパス 周囲は高い壁で囲われている
横琴新区にあるマカオ大学キャンパス 周囲は高い壁で囲われている

こうしたマカオの“飛び地”が次々と設けられている横琴地区は、元々未開発の荒れ地だったが、2009年に新区が設立され、2015年から正式に自由貿易区となった。マカオの西側に位置する島で、一本の川を隔て、最も近い所でわずか187mしか離れていない。

川を挟んですぐそばにマカオが見える
川を挟んですぐそばにマカオが見える

新区には、こうした飛び地のほか、マカオナンバーの車が行き来できるなど、マカオからヒト、モノ、カネが流れやすい仕組みが作られている。2019年末までに横琴に登録したマカオの企業は2219社、マカオの企業による横琴への投資額は累計で総額188.33億ドル(約2兆円)におよぶ。開発を始めてまだわずか数年だが、高層ビルが立ち並び、街の拡張工事が進められていた。

さらに新区内に建設した新築住宅3800戸をマカオ市民に安価で提供する計画も進んでおり、マカオと同様のビジネスや生活環境を整えることで、マカオからの投資を呼びやすい環境作りをしているのだ。

左側にはマカオタワーなとが見え、右側は建設が進む横琴新区のビル街
左側にはマカオタワーなとが見え、右側は建設が進む横琴新区のビル街

これは広東省・香港・マカオを巨大な経済圏にしようという「ビッグベイエリア(粤港澳大湾区)」構想の一環だ。2018年には香港とマカオ、広東省珠海を結ぶ世界最長の海上橋・港珠澳大橋を開通させるなど、中国政府は経済圏として一体化を進めており、東京湾、ニューヨーク湾、サンフランシスコ湾に匹敵する湾岸都市圏を作る狙いがある。

横琴版「シリコンバレー」で“融合”ぶりアピール

深圳経済特区成立40年を機に、中国政府はこのほど横琴新区とマカオの融合ぶりを一部外国メディアに紹介した。マカオ大学のすぐ隣に位置する「横琴・マカオ青年創業谷(バレー)」は創業を目指す若者らに対し、科学技術企業創業関連の税制などを適用し、人材や資金などをサポートしている。

2015年の開園以来、500以上のベンチャー企業がここに拠点を構えたという。ちなみに創業「谷(バレー)」はアメリカのシリコンバレーを意識したネーミングと見られる。取材を受けたベンチャー企業のうち一社は、発売前の商品についてビッグデータを基に海外市場の潜在的なニーズを予測するサービスを提供していた。元ポルトガル領だったマカオの特徴を生かし、ポルトガルやブラジルなど主にポルトガル語圏を得意先としているという。

横琴版「シリコンバレー」のベンチャー企業 ビッグデータを使って商品の潜在的ニーズを予想
横琴版「シリコンバレー」のベンチャー企業 ビッグデータを使って商品の潜在的ニーズを予想

また、音声認識AIに強みを持つベンチャー企業は、スマートカーなどに技術を提供していると説明していた。企業担当者は「ここには資金的なサポートのほか、マーケットへのアクセスや、人材のアクセスなどについても優位性がある」などと語っていた。

このほか、横琴に住むマカオ市民向けの総合サービスセンターも公開された。子供の遊び場や図書館、高齢者用の施設など、地域のコミュニティーセンターのような場所だ。習近平国家主席も副主席時代に視察に訪れたことがあり、いわばマカオの経済力を中国に取り込むモデルケースにもなっている。

マカオ市民向け総合サービスセンター
マカオ市民向け総合サービスセンター
習近平氏も副主席時代に視察に訪れたことがある
習近平氏も副主席時代に視察に訪れたことがある

「香港・マカオの青少年に祖国の求心力を」習主席が“一体化”促進明言

習主席は、深圳経済特区成立40年の記念式典で演説し「一国二制度の基本方針を貫徹し、中国本土と香港、マカオの融合発展を促進しなければならない」と述べ、経済の一体化を更に推進する考えを示した。また、「ビッグベイエリア構想」を推進し、鉄道建設を加速することで市場の一体化レベルを高める方針を示したほか、横琴新区の名前も挙げ、建設加速に言及した。

さらに習主席は「香港とマカオの青少年を学習、就業、生活のため中国に誘致し、交流を促進し、祖国の求心力を高めなければならない」と述べ、経済以外の分野にも一体化を広げていく考えを示した。中国共産党の統治手法に拒否感が少ないマカオをまず取込み、香港へとつなげる思惑が伺える。

深圳経済特区成立40周年の記念式典で“一体化”促進の方針を示した
深圳経済特区成立40周年の記念式典で“一体化”促進の方針を示した

今後も経済を中心に進みそうな中国・香港・マカオの一体化。発展の恩恵を受ける地域の住民も多い一方で、いわば中国政府主導の枠組みに香港・マカオが徐々に取り込まれる形になることに、民主派らは「一国二制度」の形骸化が一層進むことを懸念している。マカオモデルがそのまま香港に通用するかは、不透明だ。

【執筆:FNN北京支局長 高橋宏朋】

高橋宏朋
高橋宏朋

フジテレビ政治部デスク。大学卒業後、山一証券に入社。米国債ディーラーになるも入社1年目で経営破綻。フジテレビ入社後は、社会部記者、政治部記者、ニュースJAPANプログラムディレクター、FNN北京支局長などを経て現職。