過去最多となった不登校の子供。学校教育はどう対応していけばいいのか。

学校教育の“昔の価値観”を変えるため、行政も動いています。

その背景にあるのは、言葉にできない思いを抱える子供たちの存在。

小中学生の不登校の数は、過去最多の35万3970人で12年連続で増加しています。社会全体の課題です。

奈良県天理市の「公教育の改革」に密着しました。

■「4人に1人が心労で休職」不登校の子供が増える一方“悩む教員”も増える

この日集まっていたのは、奈良県天理市の小中学校の先生たち。

授業改革や不登校の解決を目指し、ことしから始まったプロジェクトで、先生たちが“本音で話し合う場”にもなっています。

【天理市教育委員会】「(先生の)余裕がなくなってしまって、どんどん思考停止で、どんな事をすすめていったらいいのか戸惑って、どんどん先回りじゃなくて、言われたことだけする状況にも陥っている」

【小学校の先生】「(不登校対応の葛藤は)むちゃくちゃあります。難しいなと…。その子に応じたアプローチが必要で、(教師が)1人で抱えられる課題でもないのかなと思う」

【小学校の校長】「40年見てきて思うのは、多様性、子供もいろんな子がいる。保護者の価値観も広がってきた。いろんな選択肢があって、ひとつずつ対応していかなあかんから、学校としては大変かな」

不登校の子供が増える一方で、いまの時代、“悩む先生”も増えています。

天理市の2023年の調査では、「4人に1人が心労で休職を経験した」と回答。全国調査では、先生の休職は過去最多となっています。

■「学校が安心できる場所になる」掲げる学校の取り組み 変化する学校の考え方

プロジェクトで出会った校長に、いま学校で取り組んでいることを見せてもらいました。

朝和小学校では、授業改革に加え、不登校への対策として「学校が安心できる場所になること」を掲げています。

この日、6年生の教室では「三角柱の体積を求める」算数の授業をしていました。

「間違いじゃないけど、別のやり方でいこうか」と、先生が児童に寄り添い、問題の解き方をアドバイスしています。

(Q.算数は好きですか?)
【児童】「先生はおもしろいけど、算数は好きじゃない」

【天理市立朝和小学校 中尾斗馬先生】「(以前は)学校に来るのが当たり前やとずっと思ってたんで、学校に来るとか来ないとか以前に、自分と話してたら安心なんだよっていう存在を作っていかないと。それを自分は作っているつもりです」

■学校側の考え方には変化も…「学校に来てほしい」という思いは変わらず

勉強や集団生活に悩む児童を、個別で支援するなど、学校づくりで模索を続けています。

【天理市立朝和小学校 川井俊之校長】「遊びばっかりの学校にしたら来られる。そうじゃない。かといってカチカチの学校にしたって、それは来にくいだろう。その子が楽しく暮らせるようにやっていくのがゴールだから難しい。それを狙っているのは、随分変わったと思います」

学校側の考え方も、昔とは変わってきていますが、それでも「学校に来てほしい」という思いは変わりません。

【天理市立朝和小学校 川井俊之校長】「『家庭訪問かなん』っていう人もいるけど、そこは粘り強く、あきらめずに関わっていきたいし、うちの先生は関わってくれています」

■「学校に来てほしい」は時に重荷になることも

一方、当事者はどんな思いでいるのか…。

取材班は、不登校の子どもや親の居場所として運営されているトーキョーコーヒーを訪れました。

どうして学校に行きたくないの?と問いかけに「なんか行きたくない」と施設に訪れていた小学生は答えます。

「学校に来てほしい」という先生の思いが、時には親や子どもにとって重荷になることもあります。

まだ別の母親は、「学校のことは、ちょっと置いときたい時期」にも関わらず、先生からは「来てほしい」、「なんで来ないの?」、「こんな楽しいところなのに」と言われ、「先生としゃべっているときの温度差を感じてしまっていた」と率直な思いを話します。

【小学生3人の母】「学校では答えがあるものを教えてもらってきてるから、(不登校の理由に)答えがあるって思っちゃう。だけど別に答えはなくて、ほんと悩みますよね」

親も先生も、子どものことを思っているのは同じなのに、はがゆい現状です。

■「官民連携」で新しい学校の開校を目指す

こうした状況を踏まえ、天理市が掲げたのは「公教育の改革」。まず始めたのは民間との連携です。

【天理市 並河健市長(46)】「学校がその子にとって、安心できる居場所でなくなってしまったっていうことが、むしろ問題なんだ。これはみんなでやんないといけない。我々も一生懸命やりますけども、我々だけではできていかないなという中での、官民連携であります」

パートナーとなるのが、アートスクール「アトリエe.f.t.」。代表の吉田田タカシさんは不登校問題に力をいれてきました。

目指すのは「新しい学校の開校」。 2027年の4月開校を目指しています。

【e.f.t.カレッジオブアーツ 吉田田タカシ代表(48)】「全ての大人が、本当に“未来の豊かさ”とつながってる教育ってどんなものか。この対話をするだけで、教育って必ず変わると思うんです。そのことをこの天理から発信して、日本の教育を変えていくということを、人生かけて実践します」

吉田田さんは、全国400以上に拠点がある不登校の親子の居場所「トーキョーコーヒー」を運営しながら、日本の教育改革の必要性を問いかけ続けてきました。

新たな学校は、天理市の児童館だった場所を活用し、「アートスクール」を作る計画です。

【吉田田タカシさん】「子供たちのワクワクを誘発するようなもの、コンセプトは気持ちいいっていうこと。ここにいたら気持ちいいなと思えることが大事。木を生やして、上が天窓になって、できたら天窓を開けたら雨が降り注いでくる場所になればいいな」

グランドには森を作り、一部は地域の人にも開放され、大人向けの研修施設としても活用されます。

■子どもたちの「発見」を大切にする学び

吉田田さんは、すでに大阪市と生駒市にアートスクールを開校していて、4歳から大人まで、200 人ほどが学んでいます。高校の卒業資格が取得できるクラスもあります。

この日は、水風船を落としても「割れない装置」をグループで作りました。

図面を引く子供や、きれいな箱を作るチーム。思い思いの装置ができていきます。

最初は失敗してすぐに水風船が割れてしまいましたが、そこから大切な発見がありました。

「これ使えるぞ!濡れた新聞紙!びりびりやつ濡らした方が、もっといけるんやろ!」と、水を含んだ新聞紙が、クッションになることを見つけました。

大人は作業の邪魔をせず、子どもたちが自発的に大切なことを見つけていく場になっています。

何度かの挑戦の末、水風船を落としても割れない装置が完成すると、子供たちからと歓声が上がりました。

【子供たち】「3・2・1!おー!何とか成功~!」

このアートスクールを天理市に移設し、行政や、地域の大人を巻き込んだ「新たな学びの場」にしていく計画です。

■「環境設定」うまくできれば教育はわくわくする

子供の変化を見た親からは「結構引っ込み思案だったのが、いまも人前で喋っていてびっくりするし、好きなことをさせて自己肯定感を高める、今の時代に必要なことをやってるなって思います」との声も聞かれました。

吉田さんは教育の本質をこう語ります。

【e.f.t.カレッジオブアーツ 吉田田タカシ代表】「(子供に)意欲を持って取り組むんだよって言わなくても、自分が内発的にやりたいっていう動機があったらやるんですよ。

そういう環境設定がうまくできないから、『言うこと聞け』みたいな感じになる。うまく引き出す環境設定や声かけの仕方を、大人がちょっと学べば、全国の公教育は、もっとわくわくするものになる」

子供の未来を守る教育改革。2027年にどんな学校ができているのでしょうか。

(関西テレビ「newsランナー」2025年12月16日放送)

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