自動車盗の被害が後を絶たない。車の解体や保管をする『ヤード』の一部は、“自動車盗の温床”にもなっているとの指摘もある。そんな中、法律を守って営業を続ける愛知県弥富市のヤード業者が取材に応じた。「真面目にやっている人が困る」。疑いの目と不公平な競争にさらされる現状を訴えた。

■狙われた「ランクル」防犯カメラが捉えた“約20分”の大胆な犯行

愛知県内の自動車販売店で、人気のトヨタ「ランドクルーザー」が盗まれる一部始終を、防犯カメラが捉えていた。

7月の未明、1台の車に乗ってやってきた2人組。防犯カメラのほうを見上げるが、つばの広い帽子とマスクで顔を隠している。

被害店舗の経営者:
「出しにくいようにはしてあって、盗むにしてもだいぶ時間がかかる、万全の態勢だと思っていたんですけど」

営業時間外は、ランクルの前に別の車を止めるなどして、車を持ち出せないようにしていた。

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犯人は、持参した大きな工具で後ろのフェンスを切り始めると、最後は足で蹴り倒した。その後、青い服の人物は車の助手席のドア付近に行き、なにやら作業を始めた。その間、もう一人は見張りをしているようだ。

そして、ドアに穴が開くと、作業を交代。車のシステムに侵入して、ロックの解除やエンジンの始動ができてしまう特殊な装置「CANインベーダー」をつないでいるとみられる。

エンジンがかかると、高さ数十cmの塀を乗り越えるために階段状にブロックを置いて車の持ち出しに成功。およそ20分にわたる大胆な犯行だった。

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被害店舗の経営者:
「確実に下見はしているなと思いました。車盗む時に持ってくる道具じゃない。窃盗に対しての罪が軽すぎるのかな。その世界に入りやすいのかなって。何とも言えないモヤモヤ感がずっと残る」

■1日約3台が盗まれた計算…難しい「ヤード」摘発

11月に開催された「ジャパンモビリティショーナゴヤ」。2026年に発売予定のランドクルーザーの新モデルなどに人だかりができていた。

その“モビリティの祭典”で異彩を放ったのが、愛知県警が展示した、無残に解体されたプリウスだ。盗難車とわからなくするためか、車の1台1台に割り振られた「車台番号」も削りとられていた。

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このプリウスは何者かに盗まれ、2025年7月、愛知県愛西市のヤードで変わり果てた姿で見つかっていた。

東海地方でとくに猛威を振るう「自動車盗」。

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愛知県では、2025年1月から10月末までに955件。1日におよそ3台が盗まれた計算で、全国ワーストだった2024年の866件をすでに上回っていて、年間1200件に迫るペースだ。

盗まれた車の多くがヤードに運ばれているとみられるが、摘発されるのはごく一部。

愛知県警生活安全総務課の山田幸司警部:
「県内にたくさんのヤードがありますけど、どのヤードが違法行為をしているか、違法行為をしないのはどのヤードかというのを一見して見分けることができないのが難しい。自動車盗組織が分業化されて組織化されているので、組織性を捜査の中で明らかにしつつ、捜査を進めるというのが困難」

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名古屋市の会社役員の男性は10月、ランドクルーザーの盗難被害に遭った。

見つかった場所は、名古屋から300km以上離れた千葉県山武市のヤードだった。

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名古屋で盗まれた車がどのように千葉のヤードに運ばれたかなどは、明らかにされていない。

■「ルールを守っているヤードもある」中古車ヤードが取材に協力

車の解体や保管をする「ヤード」。一部は、輸出を目的とした自動車盗の温床にもなっていると指摘されているが、一体どんなところなのか。

愛知県弥富市でヤードを運営する業者が、「ルールを守っているヤードもあると知ってほしい」と取材に協力してくれた。

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パキスタン出身のチュグタイ・モハメド・イスマイルさんは、15年ほど前から、ここにヤードを構え、日本車を中心に、ミャンマーや南アフリカなどに年200台ほどを輸出している。

海外ではやはりトヨタ車が人気で、中古車のオークションなどで仕入れる「アルファード」は、南アフリカのファミリー層から注文が多いという。

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世界的に流通量が多いトヨタ車は、性能はもとより、修理で必要な部品が手に入れやすいのも人気の理由だと、イスマイルさんは話す。

この需要の大きさを背景に、日本国内で自動車盗の被害もやはりトヨタ車が多くなっている。

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こうして集めた車を海外へ運ぶ際、奥行き12m・高さ2.5mほどのコンテナへ、車4台を積み込むという。

コンテナの一番奥まで入れた車は、フォークリフトでフロント部分を浮かせて固定し、その下にぴったり隙間なく、高級SUVを積み込む。

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残るは2台は、フォークリフトがコンテナ内で持ち上げた後、タイヤにワイヤーを巻いて、天井に固定する。まるで、宙に浮いているようだ。

最後の車は、タイヤの空気を抜いて車高を下げる数cm単位の勝負。ぶら下がった車の下に入れれば、作業は完了。コンテナは名古屋港に運ばれる。

輸出には車台番号などの記録が必要だが、税関もすべてのコンテナをチェックするわけではない。犯罪グループは、中身を「自動車部品」と申告したコンテナに盗難車やそれを解体した部品を忍ばせるケースが多いとみられている。

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法律を守って営業を続けるイスマイルさんは、いわば“原価ゼロ”の盗難車を扱う業者への怒りを口にする。

イスマイルさん:
「かなり迷惑ですよ。真面目にやっている人が海外でも困る、売れなくなる。客は値引きしてほしい。盗難車は値引きできる。自分のお金で買ってきて、少しでも利益がほしい、少しでも。値引きしたいけど損はしたくない。そこで戦うことはできない」

悪質なヤードの取り締まりを強化しようと、愛知県では2019年からヤードの届け出や標識の掲示を義務づける「ヤード条例」が施行されている。

実際の届け出の状況は公開されていなかったが、情報公開請求の結果、尾張地方にやや多く、県全体で95のヤードの届け出があることがわかった。一方、届け出のない「違法ヤード」が複数存在することもわかっている。

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ヤードへの取り締まりが自動車盗を減らす“カギ”なのだろうか。

■国に新たな「ヤード法」求める声も

「車両盗難厳罰化にする会」の発起人KUN(くん)さんは、窃盗罪の罰則の強化と、全国でヤードを規制する法律の制定を求めて活動している。KUNさんは10月30日、トヨタ出身の国民民主党・浜口誠参院議員を訪ねた。

KUNさん:
「簡単に売れない、簡単に買えない、そういう風にすれば、窃盗犯罪が激減するんじゃないかと思いまして。それでヤード法を提案している」

条例としてヤードの規制を導入しているのは愛知県や三重県など9つの自治体しかない。

浜口誠参院議員:
「犯罪の入り口を塞いでいくことで、防げる自動車盗難も多くあるんじゃないかと。全国各地、愛知はもちろんですけど、いろんな県で発生しているので、しっかり国としても体制を整えるのは極めて意義のあることだと思っています」

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増え続ける自動車盗をどう止めるのか。必要なルール、そして窃盗グループの実態は…。

東海テレビ「ニュースONE」では、自動車盗についての取材を続けています。car@tw.tokai-tv.co.jp まで情報をお寄せください。

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