2022年に安倍元総理を手製の銃で撃ち、殺害した罪などに問われている山上徹也被告の裁判員裁判は、きょう=18日、検察側が「どのような刑罰がふさわしいか」を求める、求刑の手続きが行われる。
死刑や無期懲役などの重い刑が求刑される可能性もある。
また被害者参加制度を利用している安倍元総理の妻・昭恵さんの意見陳述が、本人が実際に述べるのか、代理人弁護士の代読になるのかはわからないが実施される見込みだ。
そして最後に山上被告本人が最終意見陳述で何を語るのかが注目される。
■弁護側“「宗教被害」が事件につながった”不遇な生い立ちが法廷で語られる
山上被告はこれまでの裁判で起訴内容について「全て事実です。間違いありません」と認め、弁護側が一部の罪の成立について争っている。
山上被告に「どのような重さの刑を科すべきか」も争点で、弁護側は、旧統一教会による「宗教被害」が事件につながったと主張し、山上被告の母親や妹が証人として法廷に立ち、その不遇な生い立ちを語っていた。
母親は長男(=山上被告の兄)が病気に苦しんでいた1991年7月、自宅に旧統一教会の女性信者が訪ねてきたことがきっかけで入信し、1年足らずの間に自殺した夫(山上被告の父)の保険金を元手に5000万円を献金したそうだ。
そして「献金することで教団側にちやほやされ、有頂天になった」(証人尋問の内容より)母親は、信仰にのめりこんでいき、当時14歳の山上被告、1歳上の兄、まだ10歳だった妹を置いて、1人で教団行事に参加するため、韓国に渡ったこともあると話した。
<証人尋問より>
(Q.世話は誰が?)
【山上被告の母親】「父がしてくれていました」
(Q.前もって言ったのか?)
【山上被告の母親】「そう思います。食事は3日分作って冷蔵庫に入れて行きました」
【山上被告の母】「私が加害者だと思っています。献金を黙ってしていたし、子供たちを置いてほったらかしでやってきたのも事実。教会に尽くしたら(家が)よくなると思ったので。それを利用したのは教会だと思う」
■妹が語った「児童養護施設にでも行けばよかった」
また妹は、子供の頃、信仰に反対していた祖父に家から追い出されたときのことについて、「山上被告と2人で児童養護施設にでも行けばよかった」と涙を流しながら語った。
【山上被告の妹】「(祖父から)『出ていけ』と追い出され、家の隣の駐車場に立っていたことがあった。部活帰りの徹也が帰ってきて家に入ろうとしたとき、おじいさんは『出ていけ』と徹也にも言い、徹也は出ていってしまった。私と徹也の2人だけでも、あのとき児童養護施設にでも行けばよかったと後悔している」
■検察側「生い立ちに被害者は関係ない」
一方で検察側は、「生い立ちに被害者は関係ない」と指摘し、刑事責任は重いという考えを示している。
初公判での検察側の冒頭陳述は、次のように指摘している。
<検察側冒頭陳述より>
「元総理大臣の安倍氏が応援演説中に白昼堂々、手製銃で殺害されたことは戦後史上において前例をみない極めて重大な結果をもたらした。
生い立ちに被害者は関係なく、旧統一教会への注目を集め、批判を高めるために殺害を企てた。計画性、危険性の高さは目を見張るものがある」
■検察側質問に 安倍元総理襲撃は「本筋ではない」被告語る
裁判の中で山上被告は母親の信仰に反対していた兄が自死した後、旧統一教会へ恨みを募らせ、教団の韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁たちの襲撃を考えるようになったと語られた。
そして山上被告は、教団幹部が来日しないことなどから狙いを変えるようになり、「本来の敵は統一教会。安倍元総理は統一教会に対する影響力はかなりあったと思う。それが標的に入った理由です」と法廷で語った。
この“襲撃対象の変化”について検察側は被告人質問でつぎのようなやりとりをしている。
【検察側】「(襲撃を)考える中で安倍元首相を襲撃対象に決めた。安倍元首相を狙うことについて、すっきり納得していたのか?『ちょっと違うな』と思っていたのか?」
【山上被告】「あくまでも統一教会が対象。統一教会に賛意を示す政治家の最も著名な人は、意味ないとは思わないが、本筋ではないと思っていた」
■検察側は「厳しい刑」を求めるか
さらに別の機会に検察側は「事件を起こすことで報道されたいという考えはあったか」と質問し、「その方が統一教会に打撃を与えられるという意味ではあったと思うので」という山上被告の回答を引き出している。
まさに冒頭陳述の「生い立ちに被害者は関係なく、旧統一教会への注目を集め、批判を高めるために殺害を企てた」という点への立証を考えていたとみられる。
また銃弾の軌跡など現場の状況の解析にあたった警察官の証人尋問では、検察側が被害者以外に弾が当たった可能性について聞くと、「場合によってはほかにも被弾していた可能性も十分ある」などと語られ、被害者がほかにも出た可能性を示唆した。
こうした裁判の経緯からも、検察側は厳しい刑を求める可能性があると考えられる。
■安倍元総理の妻・昭恵さんや遺族に謝罪の言葉も…最後に山上被告は何を語る?
そしてきょう=18日の裁判で注目されるのが、山上被告が最終意見陳述で何を語るのかということだ。
山上被告は安倍元総理の妻・昭恵さんや遺族に向けては次のように謝罪の言葉を述べている。
「安倍昭恵さんをはじめ、首相のご家族には何の恨みもありませんので、殺害したことで3年半つらい思いをされてきたことは間違いない。わたしも突然、肉親が亡くなるのは経験したことなので、弁解の余地はありません。非常に申し訳ないことをしたと思っています」
しかし安倍元総理本人への謝罪の言葉はない。最後に何を語り、この裁判が締めくくられるのだろうか。