冬の訪れとともに旨みが増す富山県朝日町の郷土料理「たら汁」。国道8号線沿いには「たら汁」の文字が並ぶ「たら汁街道」があり、地元の人々に愛され続けている。肝や白子も楽しめるこれからの季節、その歴史とともに一杯のこだわりを訪ねた。

75年以上の歴史を持つ朝日町の郷土の味


朝日町の国道8号線沿い、通称『たら汁街道』にやって来ると、周りには『たら汁』の文字がたくさん並ぶ。


そのなかで今回「たら汁」を求めて訪れたのは「ドライブイン金森」。店主の金森直司さんは「これから、肝とか白子もついて、良い時期」と冬のたら汁の魅力を語る。

たら汁の歴史について、朝日町漁業協同組合の水島洋組合長に話を聞いた。

「宮崎地区は、昔からお父さんたちが漁をして、お母さんたちがとってきた魚を調理して富山方面に行って行商に行っていた」
水島さん自身の記憶をたどると、たら汁の歴史は少なくとも75年前にさかのぼるという。「(現在81歳の)自分の幼いころを思い出したら、75年ぐらい前から『たら汁』はあると思う。夏の暑い時に浜辺でブルーシートを敷いて家族で鍋と箸を持って行って、たら汁食べたことがしょっちゅうあった」と当時の思い出を語った。
漁獲量の増加から生まれた郷土料理

朝日町の東側、新潟県との県境に近い宮崎地区では、昭和30年代にタラがよく獲れていたという。とれすぎて日持ちしないタラを自分たちで「たら汁」として食べたのが始まりで、次第に宮崎地区の名物料理として定着していった。
ドライブイン金森でいよいよたら汁を堪能する。


「お待たせしました。はい。二人前です。どうぞゆっくりお召し上がりください熱いうちにどうぞ」と金森さんが運んできたのは、温かく湯気の立つたら汁。

「あったかい。あたたまりますね。タラの旨みが、ギュッとつまってます。おいしい」


タラの身はホロホロとくずれ、やわらかな食感と脂ののりが特徴的だ。ドライブイン金森では「たら汁」とごはんがセットになった「たら汁ごはん」が人気メニューとなっている。
時代の変化と伝統の継承

ところが、かつて朝日町で豊富に獲れていたタラが10年ほど前から減少傾向にあるという。しかし金森さんは「(朝日町の)タラがなくても北海道や岩手から毎日タラが入ってくるので、年中『たら汁』を提供できる」と話す。地元のタラが減っても、タラ自体がなくならない限りこの味は朝日町に残り続けるという。
時代の変化は客層にも表れている。かつては長距離トラックの運転手が主な客層だった「たら汁街道」だが、モータリゼーションの進展とともに様変わりした。「いまは客層が完全に逆転して、地元の客、それこそ県内の客が主流」だという。

時代の変化に合わせて、ドライブイン金森では多くの人に満足してもらえるよう「作り置き」の料理にも力を入れ、煮魚やモツ煮なども人気を集めている。
家庭ごとに異なる味わいを持つ郷土の誇り
冬場のたら汁は格別の美味しさだ。この時期はタラの白子やたらこも加わり、さらに旨味が増す。朝日町でのタラの漁獲は減少しているものの、北海道や岩手の三陸でとれたタラを取り寄せて、伝統のたら汁を守り続けている。
朝日町の宮崎地区では各家庭でもたら汁を作って食べる文化が根付いており、家庭ごとに異なる味があるほど親しまれている郷土料理となっている。

厳しい冬の到来を告げる富山の風物詩、朝日町のたら汁。地元の人々の思いとともに受け継がれるその味を、ぜひ一度訪れて味わってみてはいかがだろうか。
(富山テレビ放送)
