前代未聞ともいえる事件で逮捕された女。
その容疑は、タクシー事業の許可を得たことを表す「緑ナンバー」の悪用だった。
女は、会社の名義を他人に貸して、違法に緑ナンバーを取得させていた疑いがある。
■「正規タクシー」を装った違法営業の実態
関西テレビの取材班が関西空港を訪れると、タクシーが停まってはいけないエリアに何台もの「緑ナンバー」の車が停車していた。
取材班が「これはタクシーですか?」と質問すると、ドライバーは無言で立ち去った。
正規のタクシーと見せかけて、実は違法な営業をしているのではないか。
この背景には、一体どのような事情があるのだろうか。

■福祉タクシーとは何か
福祉タクシーは、車いすの方など障がいがある人が利用するための特別な車両サービスだ。
取材班が訪れた福祉タクシー会社は、3カ月前から事業を開始していた。
福祉タクシー榮 榮木徳定代表:運輸局に申請して、許認可をいただいての開業になります。事業用ナンバーでないと有償運行できませんので、必ず全ての車に事業ナンバーで登録して運行しています。

■中国籍の介護サービス会社代表が逮捕
警察によると、大阪市の介護サービス会社の代表で中国籍の女(43)ら2人は、2年前に福祉タクシーの営業許可を取得。
去年12月からことし10月までに、雇用関係のない男女5人が所有する車を自分の会社のものと偽って「緑ナンバー」を取得させ、観光客などを乗せるタクシー営業をさせていたとみられている。
介護サービス会社を訪れると、一般的な一軒家のように見える。
近隣住民は「中国語で会話しているのは聞いたことがある。色んな方が出入りしているかな。ことしからそこに止まっているバスが、(家の前に)止まっているなと。何してはるんかなと」と証言している。
福祉用として申請したバスに観光客を乗せていた可能性もある。

■「福祉タクシー」と「一般タクシー」の参入障壁の差
取材を進めると浮かび上がってきたのは、タクシー業界の実情だった。
タクシー事業を所管する国土交通省近畿運輸局によると、一般タクシーと福祉タクシーの間には大きな参入障壁の違いがある。
「一般タクシーの場合は、地域によって参入する規制がかかっているエリアがある。大阪市域交通圏では、新たに参入するのは難しい」と近畿運輸局旅客第二課の樫岡弘さんは説明する。
一方、福祉タクシーについては「一般タクシーの利用が困難な方を、安全に円滑に移動していただくためのものなので、異なった需要に対応する意味で、一般タクシーとは違って、参入規制もなく、最低車両数という規制もかかっていない。比較的一般タクシーよりは参入しやすい」と話す。
具体的には、一般タクシーの場合は10台以上の車とドライバーを配備する必要があるのに対し、福祉タクシーの場合は1台以上から始められるのだ。

■抜け穴を突いた違法営業の現場
今回の事件では、違法な状態のタクシーを使って、関西空港などで客を乗せていたとみられる。
現場を取材してみると、実際に関西空港では、一般車両のみが停めることのできるスペースに緑ナンバーの車がちらほら見られた。
取材班が話を聞こうとしても、「管理会社に聞いてください」と言って立ち去るドライバーばかり。会社名を聞いても答えてくれなかった。

■専門家「早急にルール見直しが必要」
今回の事件について、違法タクシーの現状に詳しい桜美林大学の戸崎肇教授は「介護サービス会社の名義貸しは考えられなかった。早急にルールを見直す必要がある」と驚きを示している。
違法なタクシーの見分け方として、以下のポイントが挙げられる。
・客引き行為をしている
・車体に会社名・ロゴ表示がない
・運賃メーターの搭載がない
また、こうした違法タクシーに乗ってしまうリスクについて菊地幸夫弁護士は、「事故を起こした場合に、その事故車両がちゃんと保険に入っているのかどうか、あるいは料金も、メーターの記載がなければ、どうやって決めているのか、現地を知らない運転手が遠回りをしてしまうリスクはないのか、といったことも含めて、福祉タクシーの許可を与える場合に、行政がしっかりした業者なのかどうなのかをちゃんと見極めていただきたい」と指摘している。
規制の抜け穴を狙ったかのような今回の事件。
警察は容疑者の女が名義を貸した見返りを受け取っていた疑いもあるとみて捜査を進めている。
何か違和感を覚えたら乗らないようにするなど、私たち利用者も注意が必要かもしれない。緑ナンバーだからといって、すべてが合法的なサービスとは限らないのだ。
(関西テレビ「newsランナー」2025年12月4日放送)

