2020年11月3日に迫ったアメリカ大統領選挙。FNNプライムオンライン編集部では、専門家が現地の情勢を本音で語り合うオンラインイベント『ガチトーク』を6週連続で開催中。

10月16日(金)に開催された第3回では、トランプ氏・バイデン氏双方の対中外交の見通し、そして日米関係について議論した。アメリカ政治・外交、国際政治を専門とする慶應義塾大学総合政策学部の中山俊宏教授とフジテレビ報道局の風間晋解説委員の2人に加え、日本経済新聞社・コメンテーターの秋田浩之氏をゲストに迎えてガチトークを展開。その内容をお届けする。

厳しい対中外交を行うのは、トランプ氏よりもむしろバイデン氏

フジテレビ・風間晋解説委員
フジテレビ・風間晋解説委員
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フジテレビ・風間晋解説委員:
今回、外交問題はイシューではないと言われているが、我々にとっては外交問題、とりわけ中国問題は大きい。どうなのでしょう。

日本経済新聞社・コメンテーター 秋田浩之氏:
日本の多くの人から、バイデン氏は中国に軟弱でトランプ氏は強硬だから、トランプのほうが厳しくてよいのではという声を聞きます。しかし、むしろ逆で、バイデン氏のほうが厳しいのではないかと思っています。

なぜならバイデン氏は、同盟を立て直してみんなで対中政策をすると言っています。ジェイク・サリバン元副大統領補佐官(国家安保担当)や、元国務副長官のトニー・ブリンケン氏、周囲の人がそう発言しています。

バイデン氏は、学級委員会のようにみんなで話し合い、吊るし上げるということをやるでしょう。一方でトランプ氏は20回以上の会談の中で、安倍前総理に一度も直接中国への制裁を頼んできたことがありません。中国からすれば、包囲網を作られるという意味ではバイデン氏のほうがきついのでは。

風間:
バイデン氏の場合は、スーザン・ライス氏が国務長官になったら大変なのではという話も。

秋田:
はい、国務長官や国防長官が誰になるかによって振れ幅はあります。日本から見て、最も中国に融和しすぎて困るのはスーザン・ライス氏。その場合は、先ほどの認識に多少の修正が必要ですが、大きなものではありません。

当選すれば2期目となるトランプ氏の場合は、2つのケースが考えられます。対中姿勢がものすごく厳しくなり、米中冷戦になるパターン。もうひとつは、朝鮮半島の和平やイラン問題などで何かレガシーを残したくて、中国との協力のために融和するパターン。両極端で、どっちに転ぶかわからない。

トランプ氏は先行き不透明、バイデン氏は「キレる」可能性も

風間:
基本的に、トランプ氏の頭には東アジアの安全保障政策などないのでは。

慶應義塾大学・中山俊宏教授:
トランプ氏にその世界観はなく、個々の政策も頭の中にはない。1期目のトランプ外交は再選のための外交だった。2期目はそれがなくなるため、トランプ外交がどこに行くのかよくわかりません。秋田さんの言うように、中国からすれば場合によっては民主党のほうがきつい。

私の同僚の神保謙教授が「バイデン氏の対外政策チームは偏差値が高い」と評価していました。きちんと組み立てると。一方、民主党は気候変動やパンデミックなど、グローバルな問題への関心が非常に強く、これらは中国と対話しなければ解決できません。当初は対話路線とタフに接する路線を切り離そうとすると思いますが、次第にそれがぐちゃぐちゃになっていくのではないかとも思います。

日本経済新聞社・コメンテーター 秋田浩之氏
日本経済新聞社・コメンテーター 秋田浩之氏

秋田:
温暖化の問題以上に、中国は皆が不安になることをやっていくんだと思います。インドとの紛争、南シナ海でのさらなる軍事化、そしてデジタル独裁システムを数十カ国に輸出しており、最近はチベットへの締め付けも厳しくなっています。

学級委員長的なバイデン氏サイドは、プライドが高くてキレやすいんです。例えば2014年にロシアがクリミア併合を行ったとき、当時のオバマ政権は制裁を連発し、安倍総理(当時)にも共同の制裁を働きかけました。安倍政権・オバマ政権間で最も緊張が高まったのがこのときです。香港や新疆ウイグルの問題について同様のことが起こるかもしれません。

中国の脅威度は増しているが、その評価は民主党・共和党の間で大きく異なる

風間:
オバマ大統領の2期目では、米中関係はどんどん悪化し、地球環境問題だけは協力することでなんとか関係がもっていたと思うが、今回は同じにはなりませんか。

秋田:
当時の中国はまだ、南シナ海の人工島も作っている最中で、インドとも衝突しておらず、ファーウェイがデジタル独裁監視システムを世界中に輸出してもいないという段階。現在とは出発地点が違いますし、中国に対する脅威認識が全然違うんです。今は改善に向けてのバランスを取ることは難しいのでは。

中山:
外交・安保のエリートはそのような議論になる。ただ、民主党と共和党では脅威認識にとんでもない開きがある。

共和党の方は中国がトップに来ていますが、民主党の方はCOVID-19や気候変動などが上位で、アメリカが対外的に何かをするという感覚が希薄です。そうした雰囲気と、外交・安保エリートがすべきだと思っていることがどう拮抗するのか。

あまりにも自分を支持してくれる勢力との世界の見え方が違うと持続的ではないんですよ。冷戦時代にアメリカがあれだけ強くなれたのは、党派を超えた「反共」というコンセンサスがあったためですが、今それがあるかは不安です。

秋田:
アメリカのこれからを考えるには、南北戦争まで遡ってアメリカの歩んできた道を見るべきです。南北戦争から現代まで、憲法をめぐる州と大統領の争いの歴史です。南北戦争は奴隷制がテーマだったが、それが高じて内戦にまでなってしまった。今起きていることもそれぐらいのスパンで、憲法をめぐるせめぎ合いに注意して見たほうがいいと思います。

日本にとっては「激辛」トランプ氏より「味のない」バイデン氏のほうがまだ良いか

風間:
アメリカの外交アジェンダにおける動きを、日本の立場から見るとどうでしょう。

中山:
エリートは東アジアの地域にとどまり、同盟国との関係を維持して秩序を支えていくという。しかしそれが、アメリカの一般有権者には響きません。今までは問題にならなかったのですが、外交・安保エリートに対する信頼がなくなっている今、平時はともかく有事の際に国民に対して響くのか。これは注意しておいたほうがよい。

慶應義塾大学・中山俊宏教授
慶應義塾大学・中山俊宏教授

秋田:
アメリカの世論も対中観が悪化している。中国に経済的賠償をさせるべきという人が7割ぐらいにまで増えています。ポンペオ国務長官が中国への厳しさを増している一番の理由は、新型コロナウイルスです。21万人のアメリカ人が死んだ責任は、共産党政権が言論・報道の自由を認めなかったせいだと。これは国民が怒っていることの反映なのではないかと。

風間:
秋田さんは、日本にとってはトランプ氏とバイデン氏のどちらがよいと思いますか?

秋田:
激辛の焼肉と酢飯に味のない寿司のような比較になるが、この場合はバイデン氏のほうがよいのでは。その差は小さいですが。

バイデン氏がよい理由は先ほど述べたように、トランプ氏は両極端に振れる可能性があり、冷戦が強まるリスク、中国とものすごく融和してしまうリスクがあるから。バイデン氏は振れ幅が比較的少ない。また、バイデン氏自身が中国に対し弱腰でも、世論や議会が許さず、結果的に弱腰にはなれないでしょう。

風間:
菅総理にとってはどっちがいいのか。ゴルフもネックになるのでは?

中山:
菅総理がゴルフをやらないのは、対トランプ氏のとっかかりがなくて困るところ。しかし誰が大統領になろうが、日本の総理大臣はその懐に飛び込んで行くしかない。

ただ、トランプ氏には嫌われる可能性がある一方、バイデン氏の場合は人間関係はともかく、同盟国のリーダーとして普通に接することはできるでしょう。

■ガチトーク第4回 10/23金 19:00開催!イベント申し込みページ(無料)

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プライムオンライン編集部
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