年々、ビジネスとしての注目度が上がっている陸上での養殖事業。静岡県内でも異業種の企業が“高級魚”や“幻のカニ”などの養殖を始めているが、商機はあるのだろうか?

エネルギー会社が陸上養殖に参入

2025年11月、静岡市清水区に完成した魚の養殖施設。

ここで育てられているのが高級魚のクエと成長が早く病気にも強いことで知られるタマカイを交配させた、いま注目の魚・クエタマだ。

養殖されている「クエタマ」
養殖されている「クエタマ」
この記事の画像(5枚)

この養殖ビジネスを手がけているのは総合エネルギー会社の静岡ガスで、未来価値共創担当の橘髙大輝さんは「2024年からトライアルをしていて陸上養殖事業に関してはしっかりとできると判断して今回事業化した」と力を込める。

なぜいま異業種から養殖事業に参入するのか?

人口減から将来的な売上減に危機感

古くからニジマスやウナギといった魚類の養殖が盛んな静岡県。

農水省の統計によれば川や湖を活かした内水面養殖の生産量は鹿児島・愛知に次いで全国3位につけ、全体の約11%を占めている。

一方、いま世界では急激な気候変動などによりタンパク源となる肉や魚、乳製品などの生産量が追いつかなくなる“タンパク質クライシス”が近い将来やってくると言われており、国内の人口減少に伴う将来的な売上減に危機感を持っていた静岡ガスが新規ビジネスとして狙いを定めたのが陸上養殖だった。

1年前から実験や検討を重ねてきたといい、橘髙さんは「ハタ系の魚に関しては静岡ではほとんど流通していない。今回作った魚を地域の新しい名産にしたい」と意気込む。

静岡ガスでは年間6000匹のクエタマを育て、出荷することを計画していて、そのためには施設の水温をいかにして一定に保つかがカギを握るが、そこはエネルギー会社なだけあって得意分野だ。

橘髙さんは今後の課題について「販路や陸上養殖をどうやって広げていくか」と話す。

本業の技術を活かして

一方、浜松市に本社を置く自動車部品メーカーのエフ・シー・シーが取り組んでいるのは漁獲量が少なく“幻のカニ”とも称されるドウマンガニの養殖だ。

ドウマンガニ
ドウマンガニ

自動車やバイクに使うクラッチの製造を専門としているエフ・シー・シーだが、いわゆるEVシフトが進む中、2年前から生き残りを懸けて新規ビジネスの創出に向けた実証実験を始めた。

ただ、エフ・シー・シー生産技術センターの土屋彰範グループリーダーは「排水のところに脱皮した殻が詰まって水があふれてしまったり、網を破って脱走してしまうトラブルが多かった」と最初は悪戦苦闘の連続だったと振り返る。

共食いや脱走のおそれがあるほか、成長に時間がかかることから養殖は難しいと言われるカニ。

養殖設備のモニター
養殖設備のモニター

それでもクラッチの製造で培ってきた発想力と技術力で、給餌や掃除の自動化、さらにAIやカメラを駆使した監視など唯一無二の設備を作り上げた。

今では市場に出回るサイズにカニを成長させることにも成功していて、生産量を安定させていくことや市場に受け入れられる価格帯にコストを抑えていくことが次のステップと位置付けている。

専門家が指摘する今後の課題

静岡経済研究所の冨田洋一 主任研究員は、こうした異業種からの参入を事業として成功させるためには採算性や安定した供給体制はもちろんのこと、どれだけ付加価値をつけられるかが大切だと指摘した上で、「海や川で獲る天然魚も産地の名前をブランドにして販売している会社があるように、陸上養殖でも作っている場所や使っているエサに特徴を出して個性的なブランドを確立していくことが大事。天然魚と比べられるケースが多くなるので天然魚との違いをどう示せるかがカギ」と課題を挙げる。

クエタマとドウマンガニ
クエタマとドウマンガニ

社会が変化する中で、養殖事業が未来を切り拓き、本業以外における新たな収益の柱となるのか…今後の動向が注目されている。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
テレビ静岡

静岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。