イスラエルとハマスの戦闘から2年が過ぎ、10月の停戦合意後もガザ地区での海外メディアの取材は厳しく規制されている。
ガザに住む女性フォトジャーナリストはイラン人監督とのビデオ通話で、空爆が続く中での日々の暮らしや思いを伝えてきたが、映画祭の上映決定の知らせを受けた直後、空爆で家族とともに殺害された。
「手に魂を込め、歩いてみれば」のセピデ・ファルシ監督はイラン革命のあと、16才の時に反体制活動で投獄され、18才でイランを離れてパリを拠点にドキュメンタリーやアニメなどの映画制作をしている。
24年、ガザの人々の声を伝えたいと思ったが現地には入れず、知人の紹介で知り合ったガザ北部で暮らす自分の娘と同い年の24才のフォトジャーナリスト、ファトマ・ハッスーナさんとのビデオ通話を通じて映画制作にあたることにした。
「彼女はガザで私の目に、私は世界の窓に」
インターネットがつながりにくく、会話の途中で途切れることも多かったが、ファトマさんは自宅周辺の住宅が空爆を受け、人々が命を落とす中、ガザで暮らし続ける思いを話した。
「ガザで生まれた自分は家族や友人もいるガザを離れない」という強い決意をもと、ガザ地区の封鎖で食糧が不足し、体調が悪くなる中でも笑顔を絶やすことはなかった。
「ファテムはガザで私の目となり、私は彼女にとって世界の窓となりました」とファルシ監督は語った。
交流が始まってから1年となった2025年4月、カンヌ国際映画祭での上映決定を監督が知らせた翌日、25才になったばかりのファトマさんはイスラエル軍の自宅への空爆で家族とともに殺害された。
ガザ保健省によるとガザ地区での死者は6万9000人を超え、多くが女性や子どもで、国境なき記者団によると210人以上のパレスチナ人ジャーナリストが殺害されたという。
彼女の笑顔はガザで生きていくため
27日、日本記者クラブで会見したファルシ監督は「彼女の笑顔は最後まで変わることがなく、ポジティブでした。誰に対しても憎しみやマイナスの感情は持っていませんでした」
「彼女の笑顔はガザで生きていくため、そして抵抗、尊厳、誇り、寛大さを示していたと思います」と話した。
ガザでは停戦後も散発的な攻撃が続き、世界各地でも戦争やテロ、分断や対立が続いている。
「いったん戦争が始まると元には戻れません。日本にも世界にも戦争に備えるのではなく、どうやって平和を後押しするのかを示してほしいと思います」と訴えた。
(「手に魂を込め、歩いてみれば」 12月5日~全国順次ロードショー)
