全国の高齢化率は29.3%で、約3人に1人が65歳以上という「超高齢化社会」を迎えています。
こうした中、遺品の整理や実家を処分する家じまいは残された家族にとって難しい課題です。
今回、島根県江津市で「遺品整理」の現場に密着、その現状を取材しました。
齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
おはようございます。お願いします。
車から降り立ったのは齋藤憲嗣さん。
介護事業を手がける傍ら、他の業者とも連携して「遺品整理」や「家じまい」などの事業を手がけています。
この日の“現場”は、江津市郊外の一軒家でした。
遺品整理の依頼主・佐々木孝久さん:
こんにちは。よろしくお願いします。
出迎えたのは佐々木孝久さん。齊藤さんに遺品整理を依頼しました。
齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
ちょっと簡単に見させてもらっていいですか?
佐々木孝久さん:
足の踏み場が本当に絵に描いたようにないので。
(母が)モノを捨てないから、みんなとっているんですよ、箱に入れて。何が入っているか分からない。
佐々木さんは高校卒業後、東京などで働いたあと、約30年前にUターン。
両親も一緒に住んでいましたが、約20年前に父の義雄さんが他界し、2024年には母の久子さんも亡くなりました。
佐々木孝久さん:
(母の)1周忌が終わったので、それを節目に整理していくというところで。
自分もなかなか整理する気持ちも起きなかったので。
佐々木さんの家は2階建て、合わせて8部屋がありますが…。
床が見えないほど布団や毛布が積まれた部屋。昔のCDもそのままです。
こちらの部屋にも大量の布団に段ボール箱、そしてこちらには長年あったという兜や花瓶も「夫の遺品を残してほしい」という母・久子さんの強い願いもあって、どの部屋も手つかずのままです。
この日は、作業のための下見でした。
佐々木孝久さん:
「封筒にお金を入れて、それを本の間に挟んで、それをまた箱にしまうんですよ。」
齋藤さんは、家族の話や保管の状況などから持ち主の「しまい癖」をつかみ、作業するときに注意するポイントを洗い出します。
「封筒沢山あったんでそういうところに、貴重品が入っていないか一つずつ確認しながらの作業になります」
2週間後。午前9時、作業当日。
10人ほどのスタッフが朝早くから作業にとりかかりました。
齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
中は入っていますけど使います?いらない?
佐々木孝久さん:
それもらったんですけど、いいよ使わないからって。
齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
使わない?
佐々木孝久さん:
使わない。
遺品整理で一番のポイントになるのは、「何を捨て、何を残す」のか。
佐々木孝久さん:
「僕の母子手帳ですね。」
齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
これ佐々木さんの「へその緒」じゃないですかね。
佐々木孝久さん:
これは…僕ですね。僕のへその緒だと思います。
佐々木孝久さん:
全然分からない人だ。おふくろのところにいったん供えて天国で確認してもらおうかな…。
さらに婚約指輪と思われる指輪など、かけがえのない思い出の品が次々と見つかります。
齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
これ金だったらすごいですよ。
佐々木孝久さん:
いや、そんなモノはないと思う。
スリーバックス・三浦正臣さん:
よろしくお願いします。
ここで現場に加わったのは三浦正臣さん。古物買い取りのプロです。
スリーバックス・三浦正臣さん:
18金の品質を見ています。
スリーバックス・三浦正臣さん:
これ違いますね。よくあるんですよ。東京オリンピックの…。これはお金にならないんですよ。ほとんど金メッキですね。
このへんはイミテーション、おもちゃです。
着物、例えばこれだったら29万8000円。これでも買取になったら、ものすごく安いんです。買った当時高くても、私たちが着物市場に持っていっても1本500円もいかない。
高価で購入しても思ったほど値が付かないものがある一方で、神楽面については、「マニアが好きになるようなレアなもの」は売れるものがあるといいます。
今回、佐々木さんは手放しませんでしたが、役柄や作り手によっては、10万円の値がつくこともあるそうです。
スリーバックス・三浦正臣さん:
16万6100円の買取でよければ、今すぐお支払いします。
今回の遺品整理の委託料は約60万円。その一部に充てることができそうです。
佐々木孝久さん:
ありがたいですね。全体的なところの予算がこれで補えるので。
さらに、封筒からは一万円札が7枚も。
齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
入っていた…五千円札。
こちらの封筒からは、五千円札。
齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
入っているね。また数万円出てきてますので。
下見の時の予感が的中。あらゆる封筒からお金が出てきます。
中には、50年ほど前に発行が停止された「百円札」に、デザインが変更される前の「一万円札」も。
「絵に描いたような“へそくり”になってますよ。」
封筒やタンスから出てきたお金の総額は、100万円以上になりました。
齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
僕らもちょっとびっくりです。へそくりとしてやっていたものあったけど、そうじゃなくて、忘れていたのが多分結構あったとうことですよね。
佐々木さんは作業をいったん切り上げ、両親に「報告」をします。
佐々木孝久さん:
捨てるという言葉が、どうもきつくて。なので片付けるからねっていう形で、きのう、一応父と母に…。
「生前の話し合い」、必要だと分かっていても踏み込むことができないまま、その日を迎えてしまうのが実情です。
佐々木孝久さん:
できれば(相談しておけば)良かったなと思うんですけど、極端に言えば遺書を書いてと頼むのもあるでしょうし、子どもから親に言うのはなかなか難しくて、思いがあったとしても言えなかったと思います。
作業開始から約7時間。
作業が終わり、足の踏み場もなかった部屋は空っぽになりました。
佐々木孝久さん:
だいぶというか、すごく綺麗になった。
本当に1人でやっていたらアルバムとか読んじゃったりとか、お金があったじゃないですか。
絶対に手が止まるので進まない。
ある程度、無責任にならないと整理は難しいと思うんで。
捨てたくない、でも残せない…。
遺族の「心を整理」するのも「遺品整理業」の役割かもしれません。