過去最悪を記録しているクマの被害。
こうした中、熱い視線が注がれるのが、「クマハンター」です。
しかし、その数は年々減少し、いまやピーク時の3分の1以下に。専門家からは「やりがい搾取」という言葉も出るほど過酷な現場です。
「命がけ」で対応するハンターたちの実態に迫りました。
■クマによる死者は13人 市街地でハンターがクマを駆除「緊急銃猟」可能に
北日本を中心に、人への被害が相次いでいる「クマ」。
クマによる死者は13人にのぼり、過去最多だったおととしの2倍以上に。
関西でも、目撃情報が相次いでいて、生息しないとされてきた地域でも初めてクマが確認されています。
対応が急がれる中、この事態を一手に担うのが、「クマハンター」です。
国はことし9月、市町村の判断で市街地でハンターがクマを駆除できる「緊急銃猟」を可能にしました。
また、京都府と滋賀県では今月15日から、ハンターによるクマの狩猟がスタートします。(個体数には制限あり)
クマの数を抑えたり、人の怖さを植え付けることで、クマを山奥に押し返す効果が期待されます。
■“ハンターの養成施設”には各地からハンターが
その狩猟解禁を前に、多くのハンターが集まる場所が、兵庫県三木市にある“ハンターの養成施設”です。
甲子園球場およそ20個分の西日本最大級という敷地には、イノシシに見立てた的を狙い撃つ射撃場などを完備。この日も、多くのハンターが狩猟解禁を前に腕を磨いていました。
(Q.お上手ですね)
【京都府のハンター 秋良克温さん】「きょうはやっぱり後ろでカメラが回っていたから緊張しました。25枚撃って19枚やし6枚外している」
(Q.きょうの目的は?)
【京都府のハンター 秋良克温さん】「射撃のトレーニング。11月15日からイノシシとシカを撃ちにいくので」
そう話すハンターは、射撃の練習に余念がありません。
■ピーク時の3分の1以下にまで減少しているというハンター
この日は兵庫県の隣、鳥取県からも大勢のハンターが訪れていました。
【鳥取県のハンター】「イノシシ、シカ、クマも含めて銃に対する素養というか県からもっと勉強してくださいということで」
【鳥取県のハンター】「県自体も必要性を感じているからこういったものを企画してくれたので参加した」
ことしは、関西以外からも緊急銃猟ができる人材を育成できないかなどの問い合わせがあるというこちらの施設。
“重要なミッション”も課されています。
【兵庫県立総合射撃場 藤本恵一朗場長】「若い方のハンターの加入っていうところがやはり少ない。新規の狩猟者の方の確保であったり、高いレベルでの狩猟技術の継承ということで、こちらで講習とかをやって、技術の向上に努めております」
ピーク時の3分の1以下にまで減少しているというハンター。なぜ、クマ対策を担うハンターはここまで、数が減ってしまったのでしょうか。
■「クマは猛獣、外すとハンターも被害を受けます」ベテランハンター
実際の活動を知るため、取材班は京都府福知山市で京都府猟友会に所属するハンターの狩猟に同行しました。
この日はまだ狩猟解禁前でしたが、農作物に被害を与えるシカやイノシシの駆除のために山に入ります。
(Q.ここではどういう動物が?)
【京都府猟友会に所属するハンター】「今日の目的はシカです。許可が出ているのは、シカ、イノシシ」
(Q.クマが出ることもあるんですか?)
【京都府猟友会に所属するハンター】「出るかもしれませんね」
猟犬がハンターの元へ獲物を追い込み、猟銃で仕留める“巻き狩り”という手法でその時を待ちます。
【記者リポート】「犬の声と鈴の音聞こえてきましたね」
間もなく、ハンターが銃を構えます。山にシカが2頭現れましたが、残念ながら弾は外れ、シカは山の中へ走り去ってしまいました。
(Q.残念ながら外しましたけど難しいですか?)
【京都府猟友会 下元照男理事】「難しいですね。自衛隊におって、鉄砲何百発、何千発撃ってますけど、それでも狩猟は全然違いますので、最初は全然当たらなかった」
今月15日からはクマも狩猟の対象ですが、クマを撃つのは他の動物とは違う難しさがあると言います。
【京都府猟友会 下元照男理事】「クマは猛獣ですので、外すとハンターも被害を受けますし、余計どう猛になって市街地に出ていくと、人を襲ったり。クマを撃つ場合は一発で仕留めないと。それがなかなか難しいですね。命がけですよ」
■「3年でやめる人も」次世代の育成が課題
高齢化もハンター不足を加速させている要因です。狩猟歴30年以上のベテランハンター・山本さんはこう話します。
(Q:ハンターも体力勝負ですね?)
【京都府猟友会洛北支部 山本俊晴会長】「体力勝負やな。場合によっては3時間くらい歩き回ることもあるしな。昔は(若いときは)今はもう、ようせんけど」
そんな中、次の世代の育成がベテランハンターに求められています。
【京都府猟友会洛北支部 山本俊晴会長】「教えるもんがいなかったら、3年でやめる子も(出てくる)。3年切り換えやから、鉄砲所持許可と狩猟免許とほなもうこんな面倒くさいことやめとこうかなってなって、辞める人が多いんで、今の間に自分も体が動く間に育てとかんと、今後大変なことになる」
この日は10人以上のハンターでおよそ5時間山に入り、シカ2頭を駆除しました。
■「やりがい搾取とも言える」 専門家が指摘するハンター頼みの限界
長年、クマを研究している専門家は、対策がハンター頼りになっている現状について指摘します。
【森林総合研究所 大西尚樹さん】「そもそもハンターさん、猟友会の人たちに出没したクマの対応をお願いするということ自体に無理がありました。命がけというかかなり危険を冒しての作業になるので、民間の人たちにお願いするというのは、最近の言葉で言うと“やりがい搾取”ともいえるかなと思います」
さらに、被害者を増やさないためには、この冬が重要だと指摘します。
【森林総合研究所 大西尚樹さん】「これから冬眠期間に入っていってしばらく時間が稼げます。来年度始まるときには新たな制度を進められるように準備をしていただきたい」
クマから身を守るために今、早急な対策が求められています。
■命がけで対応するクマ対策の課題「流れ弾への不安」
【吉原キャスター】「ハンターの方にお話を聞くと、クマを駆除する時に発砲する際、熊に当たらずに流れ弾がどこかに当たってしまうことがあり、その場合に罪に問われるんじゃないかということを不安に感じていました」
【亀井正貴弁護士】「大事なのはインセンティブとリスクヘッジなんですけども、リスクの中には襲われるという現象面でのリスク以外に、例えば発砲自体は正当業務行為だとしても、それが結果的に人を傷つけたり物を壊したりした場合には、業務上過失致死傷罪に問われる可能性や、損害賠償請求を受ける可能性もある。そういう法的なリスクヘッジをちゃんと考える必要があると思いますね」
(関西テレビ「newsランナー」 2025年11月7日放送)