戦闘開始から2年を経て停戦合意したイスラエルとイスラム組織ハマスだが、ガザ地区では合意から1カ月となる今もイスラエルによる空爆など散発的な攻撃が続いている。

ガザ地区で2010年から住民の支援活動にあたっている国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の清田明宏保健局長が6日、日本記者クラブでガザ地区の現状について会見した。

重度の栄養失調 「生活のすべてが崩壊」

清田氏が示したのは2025年7月、栄養失調状態でガザ地区にあるUNRWAの診療所に運ばれた生後11カ月の女の子、シラちゃんの画像だ。

7月に栄養失調状態でUNRWAの診療所に運ばれた生後11カ月のシラちゃん(UNRWA提供)
7月に栄養失調状態でUNRWAの診療所に運ばれた生後11カ月のシラちゃん(UNRWA提供)
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医師でもある清田氏によると、栄養失調の状態は上腕の真ん中の外周の長さで測るが、この年齢では通常12.5センチ以上、急性で重症の栄養失調でも11.5センチ程度だが、シラちゃんは7.5センチしかなく、画像にも写っている大人の親指ほどの太さしかなかった。

清田氏はガザ地区では同じような子どもの重度の栄養失調が増えているとして、「7.5センチというのは信じられない数字ですが、これは単純に食料がないということだけではありません。調理をするきれいな水や燃料もない、病気になっても医薬品がない、そして家族大勢で狭くて、昼は暑くて夜は寒いテント暮らしを強いられている結果です」と話す。

さらに、「ガザの飢饉は生活のすべてが崩壊していることを示しています。これは人災で、子どもの腕が骨と皮だけになることは許されません」と話した。

11月になっても上腕の外周は12.1cm(UNRWA提供)
11月になっても上腕の外周は12.1cm(UNRWA提供)

その後、シラちゃんはピーナッツバターをペーストにした食料などを与えられ徐々に回復に向かっているが、4カ月が経った11月になっても上腕の外周は12.1センチで、いまだに栄養失調状態が続いている。

清田氏は「食料がある程度あったとしても、水や燃料、生活などは改善されていません。子どもたちには将来、何らかの後遺症が出る可能性もあります」と話す。

子どもの栄養失調とトラック搬入の推移(UNRWA提供)
子どもの栄養失調とトラック搬入の推移(UNRWA提供)

食料や医薬品などを運ぶ人道支援のトラックは2年前の戦闘開始前は月に1万2000台ほどガザ地区に入っていたが、戦闘開始以降激減し、それに伴って子どもの急性栄養失調の割合も増えている。

2025年1月から3月の停戦中はトラックによる搬入が増えたことで栄養失調の割合も減ったが、戦闘再開から再び増加に転じた。

医薬品は不足…広がる感染症、届かない支援物資

清田氏によるとガザ地区では今も約100カ所の避難所に7万5000人が避難していて、戦闘開始前は22カ所あったUNRWAの診療所は空爆で7カ所となり、結婚式場や学校、コンテナも使って運営している。

空爆で負傷した住民の外来治療などにもあたっているが、診療所には清潔な包帯など医薬品が慢性的に不足していて、肺炎や下痢など感染症も広がっているという。またインスリンなど糖尿病などの持病の治療に必要な医薬品が途絶えることもあったという。

ヨルダン・アンマンにある支援物資の倉庫(UNRWA提供)
ヨルダン・アンマンにある支援物資の倉庫(UNRWA提供)

隣国のヨルダンにあるUNRWAの倉庫には食料や医薬品など3カ月から半年分の物資が備蓄されているが、ガザに搬入することができない状態が続いている。

イスラエルでは2025年1月からUNRWAの活動を禁止する法律が施行され、清田氏のような国際スタッフはガザに入ることができなくなった。

激しい攻撃を受け廃墟となったガザ地区
激しい攻撃を受け廃墟となったガザ地区

国際司法裁判所(ICJ)は10月、イスラエルに対して「国際人道上の義務を果たすことが求められる」という勧告的意見を言い渡して、食料や医薬品などが行き渡るようにUNRWAなどの国連機関やNGOの活動を妨げないように求めた。

「日本の人たちに声をあげてほしい」

清田氏ら国際スタッフはインターネットなどで現地スタッフとやりとりしているが、停戦直後は喜びの声が聞かれたものの、再び空爆が続く中、「もう祈るしかない」「世界はいつになったら我々を普通の人間として扱ってくれるのか」という声が聞かれるという。

学校が空爆で破壊されたり、避難所になったりしていることから子どもに教育を受けさせることができず、「このままではガザにいられない」と話す現地スタッフもいるという。

ガザ地区で2010年から住民の支援活動にあたっている清田明宏保健局長
ガザ地区で2010年から住民の支援活動にあたっている清田明宏保健局長

UNRWAではこれまでにガザ地区の戦闘で380人以上の職員が死亡していて、清田氏ら日本人スタッフ14人は隣国のヨルダンやレバノンで活動を続けている。

中東での日本の人道支援活動は住民から信頼されていて、復興のスペシャリストとして期待されているという。

清田氏の今の最大の懸念は再び戦闘が始まることで、「日本政府には引き続き、支援を求めていますが、日本の人たちにはガザで今も起きていることを知って、声をあげてほしい」と訴えた。                                              
(取材・執筆:フジテレビ上席解説委員 青木良樹)

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青木良樹
青木良樹

フジテレビ報道局上席解説委員 1988年フジテレビ入社  
オウム真理教による松本サリン事件や地下鉄サリン事件、和歌山毒物カレー事件、ミャンマー日本人ジャーナリスト射殺事件をはじめ、阪神・淡路大震災やパキスタン大地震、東日本大震災など国内外の災害取材にあたってきた。