2022年7月8日に発生した、参議院議員選挙の応援演説中に安倍元総理が銃撃・殺害された事件で殺人などの罪に問われている山上徹也被告(45)の裁判員裁判が28日から始まり、被告は殺害について起訴内容を認めた。
続いて初公判で行われた冒頭陳述(=証拠によって証明することを説明する手続き)では、検察側、弁護側ともに「山上被告の母親が旧統一教会に入信し、多額の献金をしたことから家族関係がうまくいかなくなった」こと、「兄が自殺したことで教団幹部、そして政治家の襲撃を考えるようになった」ことを指摘した。
検察側によると、山上被告は「より確実に殺害するためには拳銃が必要」と考え、2020年12月ごろから手製の銃などの製造を始めたという。
事実であるならば、山上被告は長い準備期間をかけて銃を用意し、事件が起きたことになる。検察側が法廷で示した証拠などから事件前日と当日の動きを追った。
■事件前日「岡山」で安倍元総理の襲撃を考えるも…
まず検察側が示した山上被告のパソコンの履歴からは、2022年7月3日、「7月7日午後7時から岡山市で行われる小野田紀美氏の個人演説会で、安倍元総理が応援演説を行う」と知ったことがわかっている。
そして銃撃事件の前日の7月7日未明から山上被告は行動に出る。
<検察側が証拠調べで示した防犯カメラ情報より>
・7月7日午前1時54分 奈良市大宮町の自宅前の道路に姿
・7日午前午前3時58分ごろ 奈良市三条大路にある旧統一教会の施設に1回銃を発射
・~7日午前4時36分ごろ 2カ所のコンビニでジュースと缶ビールを購入
・7日午後2時14分~午後4時55分 近鉄新大宮駅~JR岡山駅に移動
・7日午後7時ごろ~ 小野田紀美氏の個人演説会 会場に姿
・7日午後9時29分~午後11時53分 JR岡山駅~近鉄新大宮駅に移動
岡山まで移動した山上被告だったが、「安倍元総理に近づけず」襲撃は断念
帰宅中の午後11時18分、翌日に奈良市の近鉄大和西大寺駅北口で街頭演説があると知る。(スマートフォンの解析結果より)
弁護側はこのことについて、「自分たちが住んでいた家からすぐ近くで安倍氏が応援演説を行うということを、山上さんは偶然を超えたもののように感じた」と指摘している。
■事件当日の動き 1時間半前に現場に到着して行ったり来たり
<検察側が証拠調べで示した防犯カメラ情報より>
7月8日(安倍元総理銃撃事件当日)
・午前9時39分 自宅を出発し北に進む
・午前9時57分 近鉄大和西大寺駅に到着
・午前10時1分 近鉄大和西大寺駅の改札を出る
・午前10時2分 商業施設「サンワシティ西大寺」 南側入り口から入る
・午前10時3分 サンワシティ西大寺 東側出入り口から入る
・午前10時4分 商業施設「ならファミリー」の西側歩道を南に進む
・午前10時7分 ならファミリーの南東角地下出入り口に入る
・午前10時20分ごろ ならファミリーを出る
駅に着いた後、約200メートルの距離にある2つの商業施設に入ったり出たりしている様子も防犯カメラに残っていたとされる。
■スタバ購入、トイレ、窓から外の様子を確認
ここから安倍元総理が到着するまで、検察側が示した防犯カメラ情報では、山上被告がスターバックスコーヒーで商品を買ったり、聴衆の状況を見たり、トイレに入ったりして時間を過ごしていたという。
<検察側が証拠調べで示した防犯カメラ情報より>
・午前10時22分ごろ サンワシティにあるスターバックスコーヒーの東側出入り口から入店
・午前10時23分ごろ スターバックスコーヒーで商品を購入
・午前10時24分ごろ スターバックスコーヒー東側出入り口から退店
・午前10時27分 サンワシティ西大寺 南側出入口から入る
・午前10時28分 サンワシティ西大寺 1階南東角の窓から外を見る
・午前10時37分 サンワシティ西大寺 3階南東角の窓から外を見る
・午前10時41分ごろ サンワシティ西大寺 2階南東角の窓から外を見る
・午前10時43分ごろ サンワシティ西大寺 1階北のトイレに入る
・午前10時46分 トイレから出る
・午前10時47分 サンワシティ西大寺 東側出口から出て右折して南に進む
・午前10時55分 サンワシティ西大寺 南東角で留まる
■安倍元総理が到着から14分後に事件
そして安倍元総理が演説会場に到着して14分後に事件が発生した。
<検察側が証拠調べで示した防犯カメラ情報より>
・午前11時7分 演説場所の北側横断歩道を東に進む
・午前11時17分 西進して演説場所後方のバス停付近で留まる
・午前11時17分43秒 安倍元総理が乗っていた自動車が現場に到着
・午前11時18分14秒 安倍元総理が自動車から降りる
・午前11時28分42秒 安倍元総理お立ち台に登壇し、山上被告が見つめる
・午前11時31分5秒 山上被告が1度目の弾丸を発射。発射時、安倍元総理との距離は約6.9メートル
・午前11時31分8秒 被告人が2回目の弾丸を発射。その後すぐ確保
■法廷で「銃撃の瞬間」映像が公開
この事件当時の様子をとらえた防犯カメラの映像が、法廷でも流された。
音はなかったが、山上被告が演説中の安倍元総理に背後から近づき、歩きながら銃を2発発射したように見えた。
その後は、安倍元総理が搬送されるまでの状況が示された。
・午前11時37分ごろ 消防車が現場到着
・午前11時41分ごろ 救急車が現場到着
・午前11時44分ごろ 安倍元総理を乗せた救急車が現場を出発
■法廷で何を語るのか
事件の約1年半前から銃をつくり始めたという山上被告。満を持して安倍元総理を狙ったのだろうか。
だが、法廷で示された事件の前日・当日の行動からは襲撃を考えていた岡山に行く前にコンビニに寄ったり、事件当日も最寄りの大和西大寺駅に着いてから、スターバックスで買い物をしたり、商業施設を行ったり来たりしている。
単に時間つぶしだったのか、それとも何か考えることがあったのか。
犯行をためらっていたのだろうか。
山上被告は法廷で語る被告人質問は11月20日から12月4日まで、5日間にわたって予定されている。