2025年もあとわずか。「おせち」の準備を進めている方も多いのではないでしょうか。
しかし、そんなおせちに欠かせない食材「昆布」に危機が迫っているのです。
その原因は、海水温の上昇によって生じる海底の「磯焼け」。
専門家が「今世紀末には北海道から昆布が無くなってしまうのでは」と指摘するほど危機的な状況にある「昆布」のいまに迫りました。
■12月は昆布消費量1位「昆布の季節」
お正月の楽しみの一つ、おせち。京都・久御山町の工場では、次々とおせち料理が生産されていきます。繁忙期を迎えているこの工場で、おせち料理の定番として欠かせないのが「昆布巻き」です。
じんわりと甘みが染み込んだ昆布巻きは、「喜ぶ(よろこぶ)」の語呂合わせから縁起が良いとされています。
「黒で、全体を締めるというか、ピシっとすることのできるアイテム」と野村佃煮開発部の斉藤潤さんは説明します。
おせちのほかにも、鍋料理など昆布が活躍するこの季節。実は12月の昆布消費量は他の月を大きく引き離して1位。まさに今は“昆布の季節”とも言えるのです。
■天然昆布の漁獲量は平成元年に比べて約17%まで減少
しかし今、その昆布に消滅の危機が迫っています。
北海道大学の四ツ倉典滋教授は「天然と養殖合わせた漁獲は、平成元年に比べ約25%。天然昆布は約17%」と危機的状況を語ります。
急激な昆布の減少。その大きな原因は、海水温の上昇によって生じる海底の「磯焼け」という現象です。
「海の砂漠化にも例えられるが、水温が高くなって栄養が少なくなる。ウニの食欲が旺盛になって(昆布が)食べられてしまう。今世紀末には北海道から昆布がなくなってしまうのではないか」と四ツ倉教授は警鐘を鳴らします。
■関西でなじみ深い「都こんぶ」の値上げも
昆布不足の影響を受けているのは、おせちだけではありません。
取材班が訪れた大阪府貝塚市内の工場では、関西でおなじみの昆布加工品「都こんぶ」が製造されていました。
大量の昆布を液体に投入し、機械で叩いてならしたあと、「魔法の粉」をたっぷりまぶして作られていきます。
1日に1万個以上を生産しているという「都こんぶ」。
しかし、ここ数年は昆布の不漁により価格が高騰。2年前に数十年ぶりに1箱100円から110円へ価格を改定したものの、ことしの3月にはさらに120円に値上げせざるを得ませんでした。
【中野物産・二色の浜工場 平井孝男工場長】「来年はどうなるんだろう。また(昆布が)とれなくなって、価格も上がるのかなという不安は常にありますね」
■「昆布だし」関西の食文化も危機
なじみ深いおやつの値上げもショックですが、昆布不足は関西の食文化そのものの危機に直結しています。
牛肉の旨みが温かいお豆腐に染み込んだ大阪のソウルフードの1つ、「肉吸い」。その味の決め手は昆布だしです。
【大旦那扇町店 川崎敬三統括店長】「こだわりは利尻昆布を使ってるんですけど、だしを濃くしてるんで」
関東が「かつお節文化」と言われるのに対し、関西の食文化は「昆布だし」。
この味を守るのも一苦労だといいます。
【大旦那扇町店 川崎敬三統括店長】「業者さんは(うちを)優先して入れてくれてるみたいなんですけど、新規の契約とかは、卸さないようにしてるぐらい量が少なくて。昆布が薄いと、(味が)弱くなっちゃうんで、量を少なくしすぎると、うちの味出せないな」
■生産量の減少で漁自体が行われず、入荷できない状態に
さらに深刻なのが専門店です。取材班は120年以上の歴史を持つ老舗の昆布店「こんぶ土居」を訪れました。
店の看板商品は、函館・川汲浜(かっくみはま)産の天然真昆布。ところが在庫を見せてもらうと…。
【こんぶ土居 土居純一代表取締役】「これは2016年産、9年前の昆布で、実はそのころからどんどん減ってきて、ことし去年(の生産量)がゼロで、それ以前もゼロではないけど、すごく減ってるんですね」
生産量の減少で漁自体が行われず、入荷できない状態になっているのです。
不安定な状況の中で、「こんぶ土居」が加盟する組合では、業者の減少が止まらず、昆布が支える関西の「だし文化」の存続が危ぶまれています。
「ここまでついに来てしまったかと、ついにって感じですよね」と危機感を募らせています。
【こんぶ土居 土居純一代表取締役】「かつお節とか煮干しとかは言ってみれば、フィッシュスープの一種なわけですけれども、昆布は世界に例を見ない、独自の食文化ですよね。日本料理が根底から揺るがされてるみたいなことだと思うんですね」
■水温が高くても育つ「養殖昆布」の研究進められている
昆布の未来は、一体どうなってしまうのか。
専門家に聞くと、「技術で昆布を守る」動きも始まっているそうです。
四ツ倉教授によると、いま、漁業組合や昆布メーカーなどがチームをつくり、水温が高くても育つ「養殖昆布」の研究が進められています。
「4度から5度高い水温に入れても、生き残って成長する昆布を作って、徐々に成果がみられるようになった。昆布がなかったら和食は成り立たないと思うが、期待に応えるべく努力をしていきたい」と四ツ倉教授は展望を語ります。
「消滅」の危機にさらされている昆布。関わる人たちの努力で、皆が「よろこぶ」未来に変えることはできるのでしょうか。
(関西テレビ「newsランナー」2025年12月16日放送)