突然、土地の賃料を「3倍」値上げすると告げられたら…。
再開発が進む大阪の「十三(じゅうそう)」で、住人が困難に陥っていることが分かった。
多くの飲食店が立ち並び、大勢の人でにぎわい、「しょんべん横丁」やキャバレーなど昭和の香りを残す街。
駅前にはタワーマンション、壁にはアートが描かれ、再開発が進んでいる。
しかし、大きく変わるその陰で…。
(Q.賃料の値上げはどれくらい?)
40年以上飲食店を経営:うちで3倍くらいやね。立ち退き求めてるやろ。普通やったらそんなことせーへんやん。
賃料が3倍に急騰しているというのだ。
コテコテの大阪の街から“ニューヨークのように”変わろうとする十三エリアの異変を徹底取材した。

■“十三” 明るい時間帯から飲める 夜は歓楽街
「カンパーイ!」
明るい時間帯から多くの人がお酒を楽しむのは大阪市淀川区の「十三」エリア。
地元の人:昼も飲める、朝も飲める、晩も飲める。
地元の人:みんながワイワイするような街ですね。
地元の人:活気づいてるっていう印象。
大阪駅から淀川を渡った北側に位置する「十三」。江戸時代から船で人や物を運ぶ“舟運”(しゅううん)で栄え、上流を起点にして13番目の船着き場だったことから「十三」と呼ばれるようになったともいわれている。※所説あり
1910年に「阪急十三駅」が設置されると、大勢の人でにぎわう街に。
11年前には、狭い路地に店が連なる通称「しょんべん横丁」が、大きな火災に見舞われたが、徐々に店は再開。手頃な価格でお酒を楽しめる場所として、今も多くの人に愛されている。
さらに夜は、歓楽街としての一面も…。
記者リポート:こちらの昭和の雰囲気を残すキャバレーは、およそ200人が入ることができ、今も営業が続けられています。
ステージを中心にお酒を楽しめるキャバレー「グランドサロン十三」。
創業当時は1970年の大阪万博の工事関係者でにぎわっていたとのこと。
現在は、営業時間外にレンタルスペースとして貸し出し、営業を続けている。
グランドサロン十三 宮田泰三社長:最近ですと、ここで結婚パーティなどを開いたり、様々な人にお使いいただいています。全国の方が十三の街に期待するのは、安心してお酒を飲める所だと思うので、キャバレーの文化は続けていきたいなと思っております。

■昭和レトロ漂う大阪・十三がNY・ブルックリンを目指し「アートの街」の一面も
昔ながらの街並みが残り、昭和レトロの雰囲気漂う大阪・十三。
そんな街がいま…。
記者リポート:駅前の商店街のすぐそばにはタワーマンションが建設中で、隣には、専門学校の新しいキャンパスもできるなど、再開発が進んでいます。
駅の東側に建設中の地上39階建てのタワーマンション。2階部分に大阪市の図書館が入ることなどもあって、幅広い層から人気だということだ。
また、専門学校のキャンパスもでき、若い人も行き交う街となっている。
さらに街の至る所にあるのが、様々な壁画。
アート活動が盛んなニューヨークのブルックリンを目指すプロジェクトによって、今や十三は「アートの街」としての一面も見せ始めている。

■阪急電鉄「なにわ筋線」計画 十三が大阪の陸と空の玄関口を結ぶ駅へ
このように大きく変化する十三だが、さらなる進化をもたらす計画がある。
記者リポート:十三駅を経由して、新大阪と関西空港を結ぶ、新たな路線を作る計画が進められています。
2031年の開業を目指す、JR大阪駅と南海本線の新今宮駅をつなぐ「なにわ筋線」の計画。
阪急電鉄は、さらに新大阪駅までをつなぐ構想を持っていて、実現すれば関西空港と新大阪が十三駅を経由してつながることになる。
大阪の陸と空の玄関口を結ぶ駅になりうる十三。
基準地価は上昇傾向にあり、ここ10年では最高価格を記録している。

■ほぼ3倍の賃料の値上げの通知 「立ち退き迫ってるようなもの」と店主は憤り
しかし、その裏である問題が。賃料が約3倍に!?
十三駅の東側で40年以上飲食店を営む70代の男性。店の建物は所有しているが、土地は不動産会社が所有していて、2年前に「突然、賃料の値上げを知らせる書類が届いた」ということだ。
40年以上飲食店を経営:約3倍やろ?突然ぶん殴られた。
男性によると、この店を含むおよそ400坪の土地を東住吉区にある不動産会社が購入。不動産会社は、男性に対し賃料を、それまでのおよそ3倍に設定した。
値上げはこれまで30年以上行われていない。この急な対応に、男性は「高すぎる」とこれまで通りの賃料を払っている。
(Q.3倍の賃料は払える?)
40年以上飲食店を経営:払えないよ。払う?家賃3倍払ってくれとっていうのと一緒やで。
(Q.怒りの気持ちもある?)
40年以上飲食店を経営:そりゃあるわ、おもいっきりあるわ。今まで何十年も借りてるのに、値上げもなかったやんか。急にこの辺の物件とか高層ビルが建っているので、(賃料が)上がっているのか分からんけど。
そして10月、新たにこの土地を買った淀川区の別の不動産会社から、建物を売ってほしいと申し出があった。
40年以上飲食店を経営:(いつかは)売る気はあるねんで。金額さえ整ってくれたら。だけどべらぼうにふっかけて、立ち退き迫ってるみたいなもんじゃない。健康である以上は、頑張って(店を)やりたい気持ち。あと5~6年はやりたいな。

■50年以上暮らす女性「引っ越しは無理」 滞納金およそ120万円の請求も
また、付近で50年以上暮らす女性(70代)にも、およそ4万円の賃料を2倍以上引き上げる通知がきた。
そして、男性同じ様に応じなかったところ、滞納金としておよそ120万円を払うよう求められたと言う。
50年以上住む女性:1割2割と言うんやったら分かる話やけどね。しょうがないなっていうて。だけど2.5倍と言われるとちょっと考える。生活にも差し支えるしね。
(Q.今から引っ越ししてと言われたら?)
50年以上住む女性:無理です。もう長年住んでますし。(亡くなった)主人と一緒に建てた家やからね。
このような状況について、土地を所有する不動産会社は、「賃料は多くの場所で60年近く価格が変わっておらず、周辺の相場と比べても安いため、値上げは適正と考えています。今後も一人一人丁寧に対応していきたいと思っています」と、回答している。

■最終的には裁判所で話し合い 解決の糸口は…
法律では、賃料を値上げすることも、それを拒否することも認められていて、弁護士によると「最終的には裁判所が入った話し合いで、解決を目指すことになる」ということだ。
北浜法律事務所 川原大輝弁護士:(裁判所が)例えば賃料とかだったら、不動産鑑定士の人とかを選任して賃料が本当に法外な金額なんだったら、『もうちょっと下げはったらどうですか?』と、説得とかを色々して、両者落ち着くところに話をまとめていく。
街の変化とともに発生する賃料の値上げ。
全国各地で起こりうるこの問題。これからも解決の糸口を探る必要がありそうだ。
(関西テレビ「newsランナー」2025年10月22日放送)

