クマによる人身被害が相次いでいる秋田県。県内では21日までに、クマに襲われて1人が亡くなり、43人がけがをしています。

また、2025年度は10月15日までに5996件のクマの目撃情報が寄せられています。目撃件数は、人身被害が過去最悪となった2023年度をはるかに上回るペースです。

クマなど野生動物に関する情報を広く素早く伝えることで被害を減らそうと、県は2024年7月に「クマダス」の運用を始めました。

クマダスを見ると、クマの出没が特に目立つのは市街地です。

また、実際に人身被害が発生した場所の周辺を取材すると、地域の人がよく口にするのが「まさかここにクマがいるとは」という驚きの声です。

そこで上智大学のチームが“クマの出没傾向”を予測するシステムを開発しました。鍵になるのは「AI」。実証が順調に進めばクマ被害を防ぐ一助となるかもしれません。

上智大学・深澤佑介准教授:
「学生にレポートを書いてもらうが、その中でクマの遭遇に関するニュースが2023年にかなり多く、それに危機感を覚えた学生がクマの研究をやりたいということで、学生と一緒に取り組んできた」

深澤さんは、通信を手がける企業に勤務した経験から、AIを活用した社会課題の解決に取り組んでいます。いま深澤さんの研究チームが進めているのが、クマの出没を予測するAIシステムの開発です。

クマの“異常出没”はなぜ起きたのか。被害を防ぐことができるのか。研究にあたりチームが着目したのがクマダスです。

深澤佑介准教授:
「クマダスというデータが非常に充実していて、秋田県の情報公開は素晴らしいなと。それで秋田県に問い合わせて、情報公開請求で快くデータを提供してもらい、これなら学生とともにデータサイエンスでクマの予測ができるかもしれないという形で進めた」

加えて深澤さんは、クマが目撃された地点の経度・緯度と時間帯、クマの食料となるブナの実が多い・少ないなどの自然的要因。高齢者の人口の割合、水田などの土地の利用状況、道路の幅などの社会的要因のデータを集めました。

さらに、実際にクマが目撃された場所に足を運び、様々な情報をAIに学習させました。

こうしてクマの出没を予測するAIシステムが形になり始めています。

2024年11月、秋田市土崎港西のスーパーマーケットにクマが入り込み、従業員の男性を襲った後、2日以上店内にとどまった事例でAIモデルの実証を行いました。

深澤さんのチームは、被害の前の年にあたる2023年の目撃情報をメッシュ状の地図に変換しました。さらに、最も目撃が多かった場所は「赤」、次は「オレンジ」「黄」と色分けしました。色がついていない場所は目撃情報がないところです。

2023年の地図では、スーパー周辺は色がついていませんが、これをもとにAIに2024年の傾向を予測させると「スーパー周辺にクマが出没する」という結果が導き出されました。

ただし、AIの予測はあくまでも研究段階。深澤さんは「まだ改善の余地がある」と話します。

深澤佑介准教授:
「10回クマが出るといったら、65%ぐらいは当たっている。まだまだ的中率は低いが、今後精度を上げられるよう頑張りたい」

チームは、クマダスの“事実”にAIの“予測”をプラスして被害防止を目指します。

深澤佑介准教授:
「クマダスの情報だと『これまでに出たところに警戒しろ』ということだが、昨今の傾向をみると、これまでにクマが出ていないところまでクマが出ている。AIを使って予測をするという点で『これまでには出ていないが警戒すべきだ』というところを多くの候補の中から選択できるという点でアドバンテージがある」

新たなシステムの実用化を目指してチームの挑戦は続きます。

深澤佑介准教授:
「クマの専門家ではないが、AIの力でクマの人身被害のリスクを下げる工夫ができれば。皆さんに貢献できる形でシステムをみせることができればと思う」

実際にAIシステムが運用されたイメージを見せてもらいました。

例えば、20日に4人がクマに襲われた秋田県湯沢市のJR湯沢駅周辺をみると、1人がクマに襲われたホテルから半径1キロ以内に、オレンジ色の丸があります。赤に近いほど遭遇の可能性が高いことを示しますが、AIはリスクがあると予測していたことが分かります。

一方、秋田市を見てみると、10月に人身被害が発生した手形地区は黒いバツ印が集中しています。これは3カ月以内にクマが出没したことを示しています。

また周辺には、濃い赤の丸が集中しています。これはAIが「クマが出没する可能性が高い」と分析したことを表します。

一方で八橋地区はバツ印はありません。つまり、クマがまだ出没していないということを示しています。しかし付近には、黄色い丸があります。これはAIが「今後クマが目撃される可能性がある」と予測したものです。

今はあくまでも研究段階ですが、“事実”に“予測”をプラスすることで、被害防止につながることが期待されます。

秋田テレビ
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