「消滅可能性自治体」。2014年と2024年の2回、民間団体が発表したもので、出生率に大きく関わる20代から30代の若年女性の人口が30年後に半減すると予測された自治体を指す。消滅の危機に直面した鹿児島の自治体の生き残り戦略を追った。
消滅の危機に直面する鹿児島県内の自治体
鹿児島最南端の町、与論町。"与論ブルー"と称される透明度の高い海でダイビングを楽しむ観光客の姿が見られる一方、この町はかつて深刻な人口減少に直面していた。
2014年に初めて発表された「消滅可能性自治体」の調査では、鹿児島県内43市町村のうち実に30市町村がリストアップされた。垂水市や湧水町など多くの自治体が含まれ、特に与論町は若年女性の減少率が72.9%と県内最悪の数値を示していた。
志學館大学(鹿児島市)の宗 建郎教授は、鹿児島県に消滅可能性自治体が多い理由について「20代の人口が人口ピラミッドで見ると非常に少なくなっている。鹿児島県の特徴として県内から流出していく人口が多い」と説明する。
与論町の生き残り戦略
与論町は、この危機を脱するために独自の対策を打ち出した。街を出ていく人に対して、入ってくる人を増やす施策だ。与論町建設課の日高彩那主事は「限られた家や土地しかない中で移住をしたい方が多い。一番着目したのは空き家の利活用」と語る。
2020年から2022年にかけ、空き家の改修や賃貸住宅の新築やリフォームに最大100万円を支援する事業を開始。この制度を利用して与論町に移住した東京出身の小林剛さんは、ダイビング業を営む。「街中の良い場所に住むところを提供してもらい、すごくうれしい」と喜びを語る。

町内で塾を経営する田畑香織さんは、補助金を活用して築50年の建物の2階を住宅用にリフォーム。「(費用が)足りるか足りないかだったから、ありがたかった」と言う。彼女の目的は「地域おこし協力隊を呼ぶために住まいを事業の方で確保」することだった。
この住宅に2024年移住してきたのが千葉県出身で15年以上カナダで暮らしていた野口美香さん。「よく来てくれたね、ありがとうねと言ってくれる人が多い。それがすごくうれしい」と地元の人々の歓迎に感謝している。

成果が見え始めた与論町
与論町の転入者と転出者の推移は年によって浮き沈みはあるが、徐々に転入者が上回る傾向に転じている。与論町建設課の日高さんも「人口は減少しているが緩やかになっている。移住者で制度を利用した家に住み子どもが生まれたという声を聞いて実感した」と効果を実感している。
こうした取り組みの成果として、2024年に発表された新たな30年後の人口推計では、若年女性の減少率は前回の72.9%から31.4%へと大幅に改善。与論町は「消滅可能性自治体」からの脱却に成功した。

依然として課題を抱えるさつま町
一方で、鹿児島県内では依然として15の自治体が消滅可能性自治体に分類されている。その一つ、さつま町はこの10年で人口が4000人以上減少し、2024年9月1日時点では1万8000人を下回った。住宅の新築費用や転入者への家賃補助を充実させてはいるが人口増加に結びついていないのが現状だ。
町内で生まれ育ったクリーニング店の店主は「昔は八百屋さんやお肉屋さん、お米屋さんがすぐ近くにあった。なくなったことで買い物が不便になった。寂しいですよね」と町の衰退を実感している。
上野俊市町長は消滅可能性自治体と2度分類されたことに対し「一喜一憂するわけではない」としながらも「生産年齢人口が減っていることはやはり、一番影響が大きい」と話す。その上で「この町を選んでもらうためには核となるものが必要。その核は何だろうと探しているが、なかなか見つからないのが本音」と胸の内を明かした。

地域の未来を考える
多くの自治体が人口減少という課題と向き合う現代、生き残りをかけたアピール合戦が繰り広げられている。与論町の住民は「子どもたちがたくさんいる島」を、さつま町の住民は「さつま町っていいところ。いい形で残してあげたい」と願う。
生まれ育ったふるさとが消滅しないために、住民も行政も当事者意識を持ち、一体となって地域の未来を考えていくことが求められているのではないだろうか。
(動画で見る:「消滅可能性自治体」の今 人口減少にあえぐ自治体の現状と課題 鹿児島・与論町の成功例 空き家の利活用、移住者支援で脱却)