大阪大学の坂口志文さん、京都大学の北川進さんのノーベル賞受賞が決定し、日本の科学研究はさらに盛り上がるかと期待される一方、研究者たちは口をそろえて「研究費不足」を訴えている。
京大の若手育成プロジェクト担当者:やはり研究力の低下、科学力の低下を誰もが感じてるところでしょう。
もう日本人はノーベル賞をとれない!?そこに未来はあるのか!newsランナーが緊急取材した。

■実は日本は“ノーベル賞大国”
10月6日から始まった「ノーベルウィーク」。
滋賀県長浜市出身の大阪大学・坂口志文特任教授がノーベル生理学・医学賞を。
さらに、その2日後には京都市出身で京都大学の北川進特別教授のノーベル化学賞の受賞が決定。
日本人のノーベル賞ラッシュに、各地で喜びの声が聞かれた。
これまでにも、多くのノーベル賞受賞者を輩出してきた日本。
自然科学の分野で国別の受賞者数では世界5位と、実は“ノーベル賞大国”なのだ。

■「魚を増やしたり養殖できるように」すでに研究内容まで決まっている子どもも
そんな日本では、偉大な先輩たちの後に続こうと、“小さな研究者”が続々と誕生している。
取材班が向かったのは、京都市北区にある実験教室「科学の学校」。
幼稚園児から中学3年までのおよそ120人が在籍し、日々、本格的な実験を行っている。
「ノーベル賞」について聞かれた子どもは、「(ノーベル賞を)とってみたい。絶滅しかけてる魚とかを増やしたり、養殖できない魚を養殖できるようにしたい」と話す。
そんな”未来のノーベル賞研究者”に魚の好きところについて聞いてみると、「見た目とか、おいしいところとか好き」との答えが。
理由はともあれ、すでに研究内容まで決めていた。

■学習した内容で早速実験 実験がノーベル賞につながればうれしい
この日は、花火作りを通して様々な金属を燃やした時に、その金属特有の色が出る「炎色反応」を学習。真剣な眼差しで、慎重に作業を進める。
自分たちで考えて作った花火、無事鮮やかな炎が出た!
生徒:作り方を知って見ると、よりきれいに見える。はまりそう。
(Q.この教室からノーベル賞も?)
科学の学校 布柴新塾頭:ノーベル賞が出るのは、もうちょっと先なのかもしれないが、(ここで)実験をやってきた子が、世の中のためになる発明をしてくれるのは、とてもうれしいことだとは思います。

■日本の研究の問題「研究費の少なさ」
しかしいま、日本の研究に大きな問題が生じているのをご存じだろうか。中には、「今後ノーベル賞が遠ざかる」と指摘する人も。
その理由は「研究費の少なさ」だ。
ノーベル賞で重要な役割を果たす「基礎研究」は、期間が長期に及ぶため、研究費も膨らむ傾向にあるが、国からの支援が充実しているとは言えないのが実情だ。
坂口さんも、こう苦言を呈していた。
大阪大学 坂口志文特任教授(10月6日の会見より):免疫の分野では、だいたい日本(の研究費)はドイツの3分の1です。基礎研究に対する支援をぜひともお願いしたい。
「このままでは、世界から遅れをとる」として、“ノーベル賞人材”を育てるあるプロジェクトが立ち上がった。

■若手研究者を支援する事業「白眉プロジェクト」
取材班が向かったのは、今回、ノーベル賞を受賞した坂口さんと北川さんの母校、京都大学。
京都大学が始めたのは、若手研究者を支援する事業「白眉(はくび)プロジェクト」。5年間は、研究費や給料など全て大学側が負担する。
京都大学白眉センター 高倉喜信センター長】:北川先生も30年前の研究がやっと認められたわけですが、そういうノーベル賞を受賞してくれそうな金の卵の研究者を、最大5年間と任期が決まっていますが、その間にやっていただく。
現在、17倍以上の倍率から選ばれた66人が在籍していて、「混標数の幾何学による既約シンプレクティック多様体の数論」や「ヒンドゥー教美術における二大神格の融合」などの研究が行われている。

■研究者を全力で支援 “将来社会の役に立つ研究”を続けられる環境
白眉プロジェクトで、古生物学を研究する田近周さん。
京都大学「白眉プロジェクト」に参加する 田近周特定助教:見つけた時の喜びがまずあるのと、こういう標本は結構めずらしくて、環境復元もできてアンモナイトも見つかるというすてきな標本になります。
田近さんは、自由な環境で将来社会の役に立つ研究を続けている。
京都大学「白眉プロジェクト」に参加する 田近周特定助教:今も環境変動が話題になっているじゃないですか。どういう環境変動が起きたら、どういう生物が絶滅するのだろうというのに役に立つ情報が、僕の研究から生み出せるんじゃないか。
研究者を全力で支援する「白眉プロジェクト」。
ここからノーベル賞受賞者が誕生するのも遠くないかもしれない。

■「自由な研究ができる」そういう循環ができれば
最後に日本の行く末について“あの”研究者に聞いてみた。
大阪大学 武部貴則教授:研究の中で大事にしてきたことが、イグ・ノーベル賞に反映されたとするならば、人と違うことをやる。
大阪大学の武部貴則教授。ブタなどが“お尻から呼吸できる”通称=尻呼吸を発見し、去年、「人々を笑わせ、考えさせてくれる研究」におくられるイグ・ノーベル賞を受賞した。
日本人がこれからも国際的な賞をとるために必要なこととは。
大阪大学 武部貴則教授:日本は島国で、かなり奇抜なことをやってても、別に気にされなかったというか、そういう所に何か強みがあるのかなと。
研究者の人たちが信任されて、自由な研究ができる。そういう循環みたいなものがつくれると、もしかすると全体として良くなってくのかなと思う。
ノーベル化学賞の北川さんが大切にしてきた言葉「無用の用」。
(無用の用とは、一見役に立たないものが、かえって役に立つこと)
今こそ、この言葉の意味をしっかりと考える必要がありそうだ。
(関西テレビ「newsランナー」2025年10月10日放送)
