和歌山市で2歳の長女を虐待して死亡させた疑いで両親が逮捕された事件。
関西テレビは事件前の家族の様子が撮影された動画を入手。逮捕された父親がYouTubeに投稿した家族でのクリスマスパーティーの動画には仲睦まじい父と娘の姿が映っていた。
逮捕された父親:きょうサンタさん来るかな流菜(るな)。
逮捕された父親:流菜はこれもらったん?よかったね。
幸せに見えた家族の中で、なぜ痛ましい事件が起きたのか。その背景には夫婦が親などに頼れず、行政の手も届かなかったことで孤立していたとみられる状況があった。

■2歳の女の子が暴行され必要な治療受けられず命を落とす
9月26日、和歌山県警に逮捕された、建設業の男(26)と、妻(26)。
去年秋ごろからことし7月にかけて、和歌山市の自宅で、長女の流菜(るな)ちゃん(当時2歳)に暴行を加え、必要な治療を受けさせず、死亡させた疑いが持たれています。
記者リポート:こちらが事件の起きた当時の自宅です。流菜ちゃんが亡くなった時の体重はおよそ6キロ。2歳児の平均の半分ほどしかありませんでした。
わずか2歳の女の子が暴行を加えられ、命を落とすという痛ましい事件。
しかし、2人を知る人物たちに取材を進めると、事件の印象とはかけ離れた家族の姿が浮かび上がってきた。

■地元では“仲のいい家族”として有名 動画投稿サイトやSNSに家族の様子を投稿
(Q.2人は中学の同級生だった?)
容疑者2人の中学の同級生:そうです。(家族は)仲いいのかなと思っていたのですけど、びっくりです。
「newsランナー」の取材に応じたのは、2人の中学校の同級生。
地元では“仲のいい家族”として有名だったという容疑者夫婦。その理由が…。
容疑者2人の中学の同級生:もともと、これがあったんですけど。TikTok(フォロワー)3.9万人いてたりとか。
記者:いいねも200万超えてますね。
容疑者2人の中学の同級生:結構バズっていたのかな。
動画投稿サイトやSNSに家族の様子を投稿していたのだ。

■虐待が始まったとのは去年の秋ごろ クリスマスの様子は…
これは去年のクリスマスの様子を撮影したもの。
逮捕された父親:クリスマスやからご飯も豪華やで。久しぶりの流菜ちゃんやな。なあ、流菜。きょうサンタさん来るかな、流菜。
映っているのは亡くなった流菜ちゃんとその兄。そして、サンタクロース姿の逮捕された父親だ。
逮捕された父親:流菜は?お絵かき?
映し出されていた家族の仲睦まじい様子。
しかし…警察によると、虐待が始まったとみられるのは、去年の秋ごろ。つまり、流菜ちゃんへの虐待は、この動画の撮影時、すでに始まっていたとみられる。

■投稿された動画で感じる違和感 “兄ばかりを撮影”
また、他に投稿された動画を見てみると“あること”に気付く。
ほとんどは亡くなった流菜ちゃんではなく、兄を撮影したものばかりなのだ。
ある動画には、こんなコメントが寄せられている。
動画のコメント:どの動画も娘ちゃんの出番が少ないのはなぜですか?動画外では2人とも同じようにかわいがっていますか?
それに対して…
逮捕された父親:娘も息子と同じように愛情込めて育てています。
こう返答している。
しかし逮捕後の、警察の調べに対しては、「流菜ちゃんだけを置いて出かけることが多かった」と話しているということだ。

■容疑者の親族を取材 「親を頼りたくなかった雰囲気」
何がきっかけで家族に“異変”が起きたのか。
「newsランナー」の取材に応じたのは、逮捕直前まで夫婦とやり取りをしていた容疑者の親族だ。
容疑者の親族:(逮捕された母親は)普通やったらええ子なんやで。無茶苦茶するような子には見えないけどな。育児ノイローゼみたいなところがあるんかも分からんし、子供2人とおなかに子ができたことで、何かあったかもしれへんし。自分をコントロールできてなかったんやろな。
逮捕された母親は、まだ手のかかる幼い2人の子供の育児に加えて、3人目も妊娠していた。
しかし、2人は自分の親を頼ることはなかったという。
容疑者の親族:(親と)仲もええことなかったし、頼りたくなかった雰囲気やな。できる限りは自分らでと思ってたんやろうけど。
ネット上には、逮捕された父親が幼少期の家庭環境を振り返ったとみられる文章が公開されている。
逮捕された父親の投稿とみられる文章:地獄と天国。私の母は新しい男ができると育児放棄気味になるので、家にも居場所は無く、公園にも連れてってくれず、欲しい物もお菓子も買ってもらえず、中学校に行かなくても母も義父も何も言わず、放置されていました。私も家族も段々壊れてきていました。

■「虐待を生む背景には“孤立”」と専門家
容疑者夫婦がおかれていた孤立した状況。
専門家も「虐待を生む背景には“孤立”が大きな要因になる」と指摘する。
児童虐待防止協会 津崎哲郎理事:子育てで一時的に対応が難し時に、“ちょっと見ておいてほしい”とか、サポートを求める人が“孤立しているといない”ですから、全部、両親だけでしないといけない。過重に両親の負担がかかるということで、親が子供にうまく対処できないことが起こりやすい。
さらに、複数の子供がいる場合に注意すべき点について…。
児童虐待防止協会 津崎哲郎理事:親から見て“手のかかる子供”が、攻撃の対象になることが多々ある。今回の場合は、兄と比べた子供(流菜ちゃん)が、非常に手のかかる存在だったという可能性がある。

■市町村が義務付ける1歳半の乳幼児健診を受けず 和歌山市は「対応は適切だった」
2歳の女の子が亡くなるという、痛ましい結果になる前に止めることはできなかったのか。
市によると、流菜ちゃんは4カ月健診を最後に、市町村が義務付けている1歳半の乳幼児健診を受けていなかった。
9月29日の市長会見では、市の対応について質問が相次いだ。
(Q.市長として今回の対応は適切?)
和歌山市 尾花正啓市長:適切だったと思います。あくまで協力頂いて、検診をするというのが限界なんです。
和歌山市は、「流菜ちゃんの自宅訪問も行っていた。対応は適切だった」と繰り返している。
しかし、専門家は「行政が気にかけるべきことは、健康状態だけではない」と指摘する。
児童虐待防止協会津崎哲郎理事:チェック機能は、ほかの世界と比べても充実している。ただ、課題のある家族ほど来ない。来ないというのは、何らかの課題を抱えているという発想のもとに総合的な調査で、家族の全体像を把握する取り組みが必要。
幼い命を救うことはできなかったのか。
事件が起きるたびに社会に課題が突き付けられている。
「虐待かな」と思った時に相談できる電話番号をお伝えする。
・児童相談所対応ダイヤル(189いちはやく)
匿名での通告も可能だ。
(関西テレビ「newsランナー」2025年9月30日放送)
